第42話 閻魔と13柱の悪魔
タタラは双竜兄妹を連れて湖都ユマに戻った。王邸の2階にあるユマ湖を見渡せる広い部屋で、国務大臣の芭蕉と3人の護衛官、ライデン、サザン、連翹に鱗の民の村とバルバレイ領での出来事を詳細に報告していた。
芭蕉はタタラが赤神バクターを討った話に頭を抱えた。タタラはこれまで、赤神家の存在を知らなかった。赤神バクターの魂を読み取り、アカガミ国の知識を得たが、世界の情勢を深く理解しておくことが肝要と考えたタタラは芭蕉に教えを乞うた。
「アカガミ国はヨミ大陸の東側において最も広い領土を有する大国で、赤神家が支配しております。国の筆頭は赤神家頭領、赤神ダンテ。彼は13柱の悪魔です。」
「僕が赤神バクターから得た情報によると、赤神家頭領の元には、主に他国の情報収集と工作を任務とする修羅と呼ばれる隠密組織があって、中でも、その上位7名の修羅は強羅七部衆と呼ばれているそうだよ。赤神バクターは修羅の一人だった。」
芭蕉は世界の情勢についての話を続けた。
「ヨミ大陸の西側には、広大な領土を支配するスメラギ国があります。国の筆頭は皇家当主、皇ミカド。この者も13柱の悪魔で、非常に冷徹な人物です。“東のアカガミ、西のスメラギ”と呼ばれる程、この2国はヨミ大陸で多大な影響力を有しております。スメラギ国は、領土の広さだけで言うとアカガミ国のほぼ2倍はあります。その要因は、13柱の悪魔が比較的大陸の東側に居を構えているからです。これまで、スメラギ国の脅威となる人物又は国は無く、領土を拡大し放題でした。」
タタラは疑問を口にした。
「これまでって事は、今は違うの?」
「はい。その前に、ある人物の話をしなくてはなりません。」
今度はシヴァがお茶をすすった後に口をはさんだ。
「ある人物?」
「はい。その者は、閻魔です。閻魔はヨミ大陸だけでなく、パンゲア大陸でも、天使の住むあのエル大陸でも暗躍しておりました。世界中の要人の暗殺により、世界の制御を試みた人物です。閻魔がどの様な目的で、何を目指して活動していたのかは私にも分かりません。パンゲア大陸には4大国があり、以前はそれぞれ勢力争いをしておりましたが、閻魔という共通の敵が現れた後、4大国は団結して、対閻魔の方針を打ち出しました。そして、遂に、強大な力を持つ閻魔を倒しました。討ったのは、パンゲア大陸において、人間史上最強の男と呼ばれた者です。」
シヴァは感想を述べた。
「なんか、格好良いな。」
「ただ、閻魔が討たれる少し前に、このヨミ大陸にも2つの大きな変化がありました。1つ目はスメラギ国の東側に隣接する地域に、新たな国が誕生したことです。非常に小さな国ですが、スメラギ国はその国を攻めあぐね、領地拡大が滞っております。国名はリュウグウ。その筆頭は龍神と呼ばれ、最も新しい13柱の悪魔となりました。」
「これもまた、格好良い二つ名だな。私もなんかないかな。」
真面目な話に割って入るシヴァに、テンマは白い目を向けた。茶々丸と分福丸はヒトの拳程の大きさの木の球を転がして遊んでいた。ツバキはこっそりとそれを盗み見て、うっとりした。
「ヨミ大陸で起こった2つ目の変化は13柱の中でも最古の悪魔、3000年生きているとされるドラーゲンドルフの魔王が突然、黄泉平坂に館を築いて移り住んだことです。ドラーゲンドルフの魔王は領土や勢力の拡大に一切の興味を示さず、ヨミ大陸の北部に居座っていた不動の魔王と言われておりましたので、世界中がその動向に注目しました。黄泉平坂はヨミ大陸とパンゲア大陸が地続きになっている唯一の場所で、エル大陸にも近いことから非常に不安定な土地です。それまでは誰も領地としない緩衝地帯でした。ただ、これによって、全ての大陸の支配を目論んでいたスメラギ国は身動きがとれなくなりました。東はリュウグウ国の龍神が、南西のパンゲア大陸へは黄泉平坂のドラーゲンドルフの魔王が立ち塞がる形となりましたから。」
「ヨミ大陸での2つの変化と閻魔の死は関連性があるのですか?」
タタラの質問に芭蕉は首を振った。
「私には分かりません。私が把握しているのは、閻魔は世界中で活動し、世界は閻魔を敵と見なしていたということだけです。ただ、これらの話には、もう一つ別の勢力も関わっています。それは、古代人です。古代人の一人、クロノスは閻魔と繋がっていたと考えられており、彼は閻魔の死後、挙兵し、パンゲア大陸で大規模な戦争が勃発しました。脱標戦争です。ここでも、4大国が協力し、クロノスを打ち破りました。ただし、他の古代人の存在は定かではありません。」
タタラは曼荼羅に保存されている歴史を紐解き、発言した。
「今から、およそ1万3千年前に文明が滅んだ。現代ではその時代が古代と呼ばれてる。古代人の中でも、十種神宝を得た特別な古代人の何名かは今でも生き残ってるはずだよ。ちなみに、古代よりももう一つ前の文明の時代を太古、さらにもう一つ前の文明の時代を遥か太古と僕は呼んでいるよ。」
シヴァが指で机をトントンと叩き、顔をしかめながら言った。
「おいおい。また、タタラがやべぇこと言ってるな。古代人が今でも生き残ってるって話も半端ねぇ。そいつらは1万3千歳なんだろ?まさか、タタラはそれ以上の年齢なのか?」
「いいや。僕は古代人よりも、だいたい百歳は若いかな。ただ、僕の誕生のきっかけとなる出来事は、遥か太古の時代、今からおよそ6500万年前に起こったんだよ。だから、僕の正確な年齢は分かんない。」
シヴァはテンマの方へと顔を向けた。
「な?言ったろ。タタラはとんでもなくやべぇ。13柱の悪魔だか、閻魔だかが霞んでくらぁ。」
「ふ、ふむ。」
「芭蕉さんの説明はとても分かりやすかったよ。僕達が最も警戒しないといけないのはアカガミ国だね。スメラギ国はここから随分と遠いけど、皇家は世界の支配を企んでいるようだから、密偵を派遣してくるかもしれないな。」
「はい。それに、赤神バクターが亡くなった件については、アカガミ国は必ず調査することでしょう。おそらく、タタラ国王が討ったことを突き止めると思います。」
茶々丸が椅子に座っていたタタラの膝に飛び乗った。分福丸はタタラの片足にしがみついた。
「今後の予定はだいたい決まってるんだ。まずは通信手段を確立させる。そして、アカガミ国を警戒しつつ、南と西の二手に別れて対応しようと思う。」




