第41話 アカガミ国の密偵
タタラ達がバルバレイ領で蟲と戦闘した3日後、赤神マーキュリーはタタラが秘術 飛縁魔を放った現場を調査していた。
巨大な爆発はアカガミ国の南部の街でも観測され、赤神家頭領から5日以内に調査結果を報告するように命じられていた。時間が限られており、バルバレイ領へ公式訪問を要請している余裕はなく、密偵として忍び込んでいた。
周辺の街には人気が無く、動きやすい反面、誰からも聴取することが出来ず、調査は遅々として進まなかった。
魔法が発動された場所は特定出来た。爆発による衝撃は少なくとも発生源から見渡す限りに及んでいることは確かであり、その規模を考えると爆心地の大地への影響が少なかったことから、魔法は上空で発動されたと推測出来た。しかし、それ以上のことは検証出来なかった。
赤神マーキュリーは戦慄した。爆発はあまりに巨大で、当初は自然現象だろうと思っていたが、人為的な結果であることが明らかだったからだ。バルバレイ領で任務に就いていた赤神バクターとは連絡が取れずにいた。赤神家は情報伝達の手段として鷹を使役しており、赤神バクターからの最後の定時連絡では、バルバレイ領でヒト喰い蟲が大量発生し、南地域は壊滅的打撃を被っていると暗号で記されていた。
鷹は頭領からの支持書を携えて赤神バクターへと放たれていたが、城都に戻って来ていた。支持書が読まれた形跡は認められなかった。赤神マーキュリーは赤神バクターがこの爆発に巻き込まれたと考えたが、問題は誰がこの魔法を発動させたかであった。
赤神マーキュリーは北へ移動し、爆心地から最も近くにある街を訪れ、様子を伺って見ることにした。街は通常に機能しているように感じられたが、療養所はヒトでいっぱいだった。暫く、療養所の外から内部を観察した後、中から出て来きた白い体毛で覆われた千家の夫婦に声をかけてみることにした。
「すみません。他の街からやって来たのですが、療養所はこちらで間違いないでしょうか?」
千家の夫婦は襤褸を纏い、腕に包帯を巻いた女性を見て、妻が恭しく答えた。
「ここで間違いありません。あなたも蟲にやられたの?」
「はい。私は他の方と比べて軽い方です。慌てて蟲から逃げて、転んでしまっただけですから。」
「それでも、大変でしたでしょう。」
「あの、蟲はもういないのでしょうか?」
「ええそうよ。バルバレイ様とバルプロ山脈の向こう側からやって来たヒト達が退治してくれたんですって。」
「バルプロ山脈から?」
「なんでも、新しい王国が出来たんですって。」
「王、国?」
「私も詳しいことは知らないの。」
バルバレイ領には高名な魔道士はおらず、今の話が事実なら、魔法を発動したのは他国の者となる。加えて、タケトラ領に王国が出来たとなると、大きな変化が生じていることになる。
調査をバルプロ山脈の南側にまで拡大する必要性を感じた。しかし、山脈を徒歩で越えることは困難である。加えて、単独で空を移動すると野生の飛竜に襲われる可能性があり、迎撃するために魔法を発動すると、剛の者揃いの鱗の民にオーラを検知されてしまうかもしれない。
赤神マーキュリーは逡巡した末、バルバレイ領で継続して調査を行うことにした。バルプロ山脈の南側には別の密偵がいる。自分はこの地で留まった方がアカガミ国の利益になると考えた。




