第36話 不死の理由
竜の頭は赤神バクターの首に噛みついたまま、彼の身体を持ち上げ、頸骨を一気に噛み砕いた。竜の口から赤神バクターの身体と首が別々にぼろりと落下した。
赤神バクターの魂が身体から抜けて拡散し、滅びたことを知覚したタタラは大地に横たわる彼の首と胴体に触れて暗黒物質へと変化させた。
そして、蛇の胴体をするすると短くしていき、元の首と頭に戻って、むくっと起き上がった。服をパンパンとはたき、バルバレイの方へと歩み出すと、それまで硬直していたバルバレイはふと我に返り、近衛兵と共に後退した。タタラは両手の掌をバルバレイ達に向けて、慌てて言った。
「あなた方に危害を加えることはありません。誤解の無いように申しておきます。私が赤神バクターを滅ぼしたのは正当防衛です。彼は背後から私の心臓を貫きましたし、私が甦ったと知ると、また、必ず命を奪いにきていたでしょう。それに、彼は本気であなた方や双竜兄妹を殺害しようとしておりました。」
バルバレイは先程の光景が頭から離れず、タタラの話を上の空で聞いた。タタラは踵を返し、双竜兄妹の方へと向かった。
「君達は大丈夫かい?」
驚きの表情がまだ消えないテンマが上ずった声で答えた。
「問題ない。それにしても、あんたは何者なんだ?」
「国王です。」
「いや、そうじゃなくて。何で心臓を突かれて死なないんだ?」
「ええと、気合いです。」
今度はツバキが質問した。
「何で変身できるの?」
「んんと、例えば、ヒトの受精卵はヒトに成長するし、猫や狸や竜の受精卵はそれぞれ猫や狸や竜に成長するでしょう?そうなるのは、受精卵にはそれぞれを形作る情報が有るからなんだ。僕はその情報を完璧に保存することが出来て、完璧に構築することが出来て、素敵に改変することが出来るんだよ。まるで、叙事詩的な小説を書くようにね。」
「そうやって、貫かれた心臓も元に戻したの?前衛的な絵画を描くように?」
「そうだよ。牧歌的な音楽を奏でるようにね。」
その話を聴いていたテンマがタタラに指摘した。
「心臓を元に戻せたからと言っても、おびただしい量の血液が流れ出ていたし、死なない理由にはなっていない。」
「あら。鋭い。なので、気合いということにしておいて。」
暫くして、落ち着きを取り戻したバルバレイ達がやって来て、タタラに礼を述べ、タタラはそれに返答した。
「赤神家の者に対して、皆様が見せた毅然とした態度に、私は感心いたしました。バルバレイ殿と領民の方々とは友好な関係を築いていきたいと思っております。」
「こちらこそ、マドリーナ王の強さに感服いたしました。それだけの力があるにも関わらず、非常に謙虚であられる。あなたがいらっしゃらなければ、私達は今日、二度死んでいました。一回は蟲に。もう一回は赤神バクターに。あなたは私の、バルバレイ領の恩人です。」
そう言って、ナウゼラ・バルバレイは頭を下げた。タタラは、気骨な領主に褒め称えられたことに、嬉しい気持ちでいっぱいになり、照れた。
そこへ、シヴァ達が戻ってきた。茶々丸と分福丸はタタラに駆け寄り、膝下辺りにすりすりした。
「こいつらが全部蟲を退治したから、私の出番はなかったよ。」
タタラは茶々丸と分福丸の頭を撫でて、優しい声で言った。
「よく頑張ったね。」
茶々丸はにゃんと言い、分福丸はみいぃと言った。




