第35話 たたりもっけの狂想曲
タタラ達が廃墟に到着すると、骨の檻に捕らえられている櫂鳴の前で、何者かが疲労困憊のテンマを殴り、足蹴にしていた。タタラは叫んだ。
「何してるんだ。やめろ。」
タタラはテンマを介抱した。少し離れた所でツバキが這ってテンマの方に向かって来ていた。
「いったい何があった?」
「あいつが突然現れて、蟲の主を連れ去ろうとしたんだ。それを止めると襲いかかってきた。」
「シヴァ達は?」
「俺達の身を案じて、蟲がここに到達する前に駆除すると言って東へ向かった。それより、あんた、国王なんだろ?あいつには手を出さない方がいい。」
「うじゃうじゃと現れて出てきやがって。誰だお前ら?」
「マドリーナ王国、国王タタラだ。」
「は?王だと?なめてんのか貴様。」
殺伐とした雰囲気の中でバルバレイが口をはさんだ。
「貴殿は赤神バクター殿か。」
「ん?おおぉ。これはバルバレイ殿。」
タタラは小声でテンマに質問した。
「何故、あいつには手を出さない方がいいの?」
「あいつは赤神家の者だ。」
「ふむ。赤神家って?」
「あんた、知らないのか?」
テンマは眉間に皺を寄せて、じろりとタタラを見た。
「え、あの、はい。すみません。」
「ヨミ大陸の東側で最大の領土を誇るのがアカガミ国で、その国を治めているのが赤神一族だ。赤神家の頭領はあの13柱の悪魔の一人だ。」
「ふうん。」
赤神バクターは櫂鳴に近づき、檻に手を触れて、バルバレイの方を見て言った。
「バルバレイ領が蟲を兵器化し、アカガミ国への侵攻を企てていると俺は判断した。」
「なっ。そんな事実は一切ない。」
バルバレイは激しく否定した。赤神バクターはにやりと笑みを浮かべた。
「それが事実かどうかは、この蟲の主を問い詰めれば分かること。だから俺は、この男を我が国へ連れて帰る。」
タタラが割って入った。
「お待ちを。その男はマドリーナ王国で捕らえました。バルバレイ殿と約定を交わし、身柄をバルバレイ領へと引き渡すことになっております。」
タタラはバルバレイの方へ歩み寄り、続けて言った。
「この男をアカガミ国へとお引き渡しになられるなら、このまま我が国へと連れて帰り」
タタラの話が途中で遮られたのと同時に、バルバレイの顔面にべちゃっと血が飛び散った。バルバレイはあっと口を開けて震撼した。テンマとツバキも声を上げて驚愕した。タタラが顔を下に向けると、胸から剣が出ていた。
赤神バクターは背後からタタラの心臓を剣で突き刺していた。まるで、剣から伝わる肉の感触を味わうかのように、ゆっくりと剣を引き抜いた。タタラの背中と胸から大量の血がドクドクと流れ、タタラはうつ伏せにばたんと倒れた。
「ひゃはあぁぁ、はっはっはっ。馬鹿が油断しやがった。こいつはあれだろ?さっきの大爆発を起こした奴だろ?あれ程の魔法を行使できる奴がバルバレイ領にいるはずがないからな。どこぞのちんけな王で、あれだけ強大な魔法を使える奴を俺が殺してやった。いずれ、アカガミ国の脅威となり得る奴を俺が事前に始末してやった。あああああああぁ。俺様はなんて仕事が出来るんだろう。」
赤神バクターはタタラの血で濡れた剣を櫂鳴の檻の上に置いた。血がポタポタと櫂鳴の肩に落ちた。
「その上、街を飲み込む蟲の主をアカガミ国へと連れて帰り、研究し、蟲を操ることが出来たなら、俺様が次期頭領だ。」
赤神バクターは櫂鳴の虚ろな眼を睨み付けた。
「そうなればな、俺様は黄泉を統一してやる。この大陸を赤神一色で染めて、永久に赤神の世としてやるんだ。お前は、これから赤神に遣えるんだ。死ぬまでな。いや、死んだ後もお前が残した技は赤神に活かされる。どうだ?幸せだろう?」
「待たれよ。その男はバルバレイ領で取り調べを受けることになっておる。」
赤神バクターは顔を歪め、骨の檻の天面に置いた剣を再び手に取り、般若の形相でバルバレイの足から顔に向けて視線を送った。
「バルバレェイィ。調子こいてんじゃねぇぞ。貴様の意見なんて聞いてねぇんだよ。クソみてぇな発言してんじゃねぇよ。」
赤神バクターは少し表情を緩めて言った。
「まぁ、俺様は寛大だからな。貴様に考える時間をやるよ。このまま、貴様が黙って俺様と蟲の主のお見送りをすりゃ、それで良しだ。一方で、貴様が蟲の主を渡さないと言うなら、俺様がこの場にいる者を皆殺しにする。アカガミ国にも名が知れ渡っているあの双竜兄妹は地に這いつくばってるし、とんでもねぇ魔法を使うどこぞの何とかって奴はそこですでに死んでるからな。簡単だ。その上で、アカガミ国はバルバレイ領を敵とみなす。蟲に喰われときゃ良かったと思える位、領民をなますにして、蹂躙してやる。優しい俺様は貴様に選ばせてやるよ、バルバレイ。十秒で答えろ。」
赤神バクターは陽気な声でカウントダウンを始めた。バルバレイは、その間、じっと赤神バクターの眼を見ていた。近衛兵は、皆、精悍な顔つきで、動揺している者は一人もいなかった。バルバレイはそんな部下が誇らしくてならなかった。赤神バクターが、いぃち、と言ったところでバルバレイが口を開いた。
「何と言われようと、檻の中にいる者は、我が領地で取り調べる。」
赤神バクターの顔面が、再度、般若の形相を呈した刹那、竜の顎が彼の首を背後から噛んだ。赤神バクターの脅迫に少しも動じなかったバルバレイと近衛兵だったが、その光景には度肝を抜かれ後ずさった。心臓を貫かれて即死し、地面にうつ伏せに倒れているタタラの首が蛇の胴体に変化して長く伸び、頭は竜となっていた。テンマとツバキ、表情を欠いていた櫂鳴でさえ仰天した。




