第33話 バルバレイ領の領主
バルバレイ領の領主、ナウゼラ・バルバレイが初めて受けた蟲による被害報告は、実際よりも著しく過小評価されたものであった。
事実、バルバレイにとっては、イナゴの大群が作物を食い荒らして、シガラの街に侵入し、後片付けが大変なようであると、憂鬱そうに家族に話をしていた程度の感触でしかなかった。
しかし、三日後に報告された内容に、バルバレイは震撼した。ヒトが蟲に喰われたというのだ。それも、街中のヒトが。
この時、街を襲ったのは、世羅塩の子ども達であった。世羅塩と比べてまだ体躯は小さかったが、街を襲って得た栄養で産卵し、そこから産まれた三世代目がヒトの拳程の大きさになる頃には、空を覆うまでの数と体積に膨れ上がっていた。
三世代目が孵化する前に、支配域の総力を上げて、カゲツノハムシを駆除していれば、バルバレイはさらなる被害を回避することが出来たかもしれなかった。
しかし、シガラの街を滅ぼした二代目達は街の西方に位置する奥深い山の中で身を潜めていたため、バルバレイが街の視察にやって来た頃には蟲は一匹残らず姿を消していた。
その後、二代目及び三代目が群れをなし、バルバレイ領の街を一つ一つ飲み込んでいった。バルバレイは南部にある街の領民を領都のある北部に避難させ、バルバレイ領の全ての兵士を集結させて蟲の駆除にあたった。しかし、たった一噛で致命傷となる一撃必殺のカゲツノハムシの顎に、兵士達は瞬く間に倒され、喰われていった。
その光景は、戦闘と言うよりも、虐殺に近いものであり、生き残った兵士達に世界の終焉を想起させた。
バルバレイは大剣に火の魔力を纏わせ、炎と刃で多くの蟲を屠ったが、遂に力尽き、5名の近衛兵と共に蟲の群れに囲まれた。兵は領主を守るため、協同で結界を張った。バルバレイは両手、両膝を大地について四つん這いになり、息を切らせ、汗をだらだらと地面に落とした。
バルバレイは悔しかった。自分の人生の全てを注いで領地を発展させ、領民の生活を豊かにし、出来ることは全て実行し、悔いの無い一日を積み重ねてきた。だが、それらがほんの僅かな時間で崩れていく。まるで、砂の城が波にのまれていくように。自分と、協力してくれた領民の努力を否定されたかのように。仕方のないことだと誰かに言われたかのように。
バルバレイは怒りに堪えきれず咆哮した。生き残った近衛兵もまた同じ気持ちでいた。
皆、悔しかった。
結界の外は蟲の嵐で、結界に張り付いた蟲が顎を開閉させてガチガチと音をたてた。その音は、爆音をたてる羽音の中で、不気味に結界内に響き渡った。生き残った5名の近衛兵は、恐怖に押し潰されることなく、互いに励まし合って、必死にバルバレイを守護した。
やがて、結界に纏わりついていた蟲は飛び去り、気がつくと周囲にいた蟲達もまばらになり、ほとんどが上空へと移動していた。空を見上げると、蟲が一箇所に集い、巨大な球体を形成していた。さらに、上空には炎の魔法を発動しようとしているヒトの姿も捉えられた。
バルバレイらが状況変化に困憊していると、ヒトの全身の骨格が舞い降りて、今度はその骨が結界に張り付き、皆、仰天した。
骨格はカタカタと動き出し、骨格を中心に、近衛兵の結界に覆い被さるように、さらに結界が張られた。その直後、巨大な炎が何度も収束された球体が蟲の天体に放たれ、爆発した。




