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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第30話 救いの使者

 双剣(そうけん)を失ったツバキは、両腕に風の魔法、風魔(ふうま)を宿し、手刀で(むし)()ぎ倒していった。剣の刃が欠け、やがて折れたように、(うろこ)があるとは言え、両腕も同じ経過を辿(たど)ることは明白であったが、ツバキは無心に舞い続けた。


 (しばら)くして、腕が上がらなくなり、足がもつれ、ツバキは転倒した。しかし、蟲が襲ってくる気配はなかった。蟲で覆われていた視界がいつの間にか廃墟(はいきょ)となった街の風景を映し出していた。


ツバキは立ち上がる力が残っていないことに気付き、仰向(あおむ)けに寝転んだまま、首だけを動かして周りを確認した。地面は蟲の死骸(しがい)だらけで、自分もまた蟲の死骸の上に横たわっていた。(あご)を上げて頭の後方へ目をやると、蟲の死骸が山となっている箇所があり、その頂上付近では、何者かが、まだ蟲とやり合っていた。その付近で飛んでいた蟲が一匹、ツバキに気付き、ツバキの方へと向かってきた。


「身体がピクリとも動かせない。私、死ぬのかな。」


 乾いた声でツバキが(つぶや)いた。蟲が大きな(あご)を左右に開くのが見えた。ツバキは全身で風の魔力を()り、首の動きだけで蟲にめがけて風魔(ふうま)を放った。しかし、勢いが弱く、ゆらりとした風が蟲に向かって吹いたのみで、効力はなかった。蟲がツバキの頭を(かじ)ろうとした刹那(せつな)、飛び込んできたテンマが手刀で蟲を(つぶ)した。テンマはそのままツバキにどさりと(おお)(かぶ)さった。


「兄貴。ありがとう。」


「お前を守るためなら、何だってやるさ。」


「妹想いなのは分かったからさ、ちょっとどいて。重いよ。」


「すまん。もう動けそうにない。蟲はまだ少し残っている。このまま、お前の(ふた)になってやるから。」


「兄貴、私は(なべ)じゃない。」


「じゃあ、お前の(たて)になってやるから。」


「兄貴、私は騎士(きし)じゃない。」


「じゃあ、お前の蜜柑(みかん)(かわ)になってやるから。」


「兄貴、私は蜜柑(みかん)じゃない。ねぇ、最期の会話がこんなのでいいの?」


「最期なんて言うな。俺たちはこれからも二人で双竜兄妹(そうりゅうきょうだい)だ。」


「お前らな、こんな蟲の死骸だらけの所で、何兄妹でいちゃついてんだよ。」


現れたシヴァの姿を見て、テンマは心の底から安堵(あんど)した。シヴァが骨の手でテンマを(つか)み、続けてツバキを掴んだ。


「ここらにいた蟲はやっつけたぜ。お前ら、二人ともなかなかやるじゃねぇか。この局面を生き残るなんてな。」


テンマが蟲の死骸の山を見て、シヴァに聞いた。


「あれは、お前が一人でやったのか?」


「まぁな。」


死骸の山は、テンマとツバキが倒した蟲を合算(がっさん)して、それを二倍にしても足りない大きさであった。


「何者なんだ?お前は。13柱(じゅうさんちゅう)の悪魔か?」


「そんな洒落(しゃれ)たもんじゃねぇよ。言ったろ?私はマドリーナ王国の国防大臣だってな。」


 シヴァは骨で座椅子(ざいす)を二つ造り、テンマとツバキを座らせた。自分は巨大な骨の腕で蟲の死骸を吹き飛ばし、地べたに大の字になって寝転がり、一息ついた。


 幾千もの蟲の羽音が織り成す轟音(ごうおん)が、まるで夢だったかのように、静寂(せいじゃく)が辺りを覆っていた。蟲の嵐は消え去り、跡には地面を覆い尽くす黒色の亡骸(なきがら)と、濃い樹液のような鼻に刺す匂いが残されていた。


 シヴァは軽く目蓋(まぶた)を閉じて、廃墟と化した街に残るエネルギーを探った。


「建物の中に、蟲に喰われずにすんだヒトがいるようだな。」


シヴァはちらりと双竜兄妹を見た。二人は疲れきった顔をして、微動だにしなかった。


「お前達が救ったんだぜ。ちったぁ、嬉しそうにしろよ。」


ツバキが答えた。


「私達は救ってない。私達は蟲を殺しただけだ。」


「いいや。お前達が救ったんだ。お前達がなんて言おうと、どういう想いであろうとな。誰かの人生を救い、その誰かの子孫は、今日、お前達の働きで命を繋いでいくんだ。」

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