第27話 双竜兄妹の帰郷
マドリーナ王国の最も西方に位置する港町、ミラーベイでは毎日、多くの魚介類が水揚げされ、各方面へと輸送される。しかし、その輸送途中で山賊に襲われる事件が多発しており、それを知った鱗の民の双竜兄妹は山賊の根城を急襲した。
双竜兄妹の妹、ツバキは2本の剣に憎しみを込めて賊を切りまくり、返り血で自身の桜色の髪と鱗を濃紅色へと染めていった。
兄妹は敵を全滅させた後、魔力を練って、風の魔法、風魔を剣に宿し、風の刃の斬撃で賊の拠点を崩壊させた。戦闘後、ツバキは兄のテンマの方へと顔を向けた。群青色の髪と鱗は、ツバキと同じ色に染まっていた。
「怪我はないな?ツバキ。」
「うん。問題ない。」
「俺達とは別の飛竜が上空で旋回している。おそらく、村からの伝言だ。」
舞い降りた飛竜の片足に竹筒が結ばれており、テンマはそれを取って中から手紙を取り出した。ツバキも兄の肩越しに手紙を読んだ。二人は自分達の飛竜に跨り、急いで故郷の村へと向かった。
飛竜の背に揺られながら、ツバキは空と大地と海を眺めた。景色はうっとりとするような美しさだった。一方で、山賊を相手にしていたばかりのツバキの心にはヒトの醜さが投影されていた。
ツバキにとって、ヒトはヒトの道に逸れてはならず、そこから逸脱する者が発する理不尽さを全力で排除することを己の方針としていた。それを実行できるなら、憎悪であろうと、愛情であろうと、怨嗟であろうと、正義であろうと、気持ちはどうでもよかった。自分のためであろうと、他者のためであろうと、それを明確にする必要もなかった。ひたすら、外道を破滅させることが目的であり、日常となっていた。
兄妹は日が沈む前に、山中の水辺に降りて飛竜を休ませ、自身の身体に付いた血を洗い流した。火をおこし、仮眠の準備を整えた。ツバキは、天に昇ろうとしては消えてゆく炎をじっと見つめ、弟を想った。
ツバキは弟、シュレイのことが大好きだった。
シュレイの苦しむ顔が浮かんだ。ツバキの胸はギュッと締め付けられ、胃の中に重い石がずんと現れたかのような不快な痛みが走った。涙が眼に貯まった。
「ツバキ。もう寝よう。明日は早い。」
「うん。」
日が昇ると二人はすぐに飛竜の背に乗った。こうして、手紙を受け取って、わずか一日半で兄妹はバルプロ山脈の裾野にある村に到着した。村では戦える大人達は全て外に出て、山脈の方角に目を向けていた。




