第26話 シヴァの怒り
櫂鳴が広大なバルプロ山脈の裾野を眺めていると、目の前に、空からゆっくりとシヴァが舞い降りてきた。巨大な骨の掌の中には飛竜がいた。五つの目は櫂鳴を鋭く睨みつけ、長く紅い髪は炎のように、風に揺らめいていた。
「お前が蟲の親玉か?」
櫂鳴は首を横に振った。
「お前が蟲に飛竜を襲わせてんのか?」
櫂鳴は再び首を横に振った。
「じゃあ、お前は何なんだよ?」
「僕は、ただの僕だよ。」
苛立ちを隠さず、シヴァが怒鳴った。
「私がお前に何を聴きたいのか、分かっているんだろう?とっとと答えろ。」
櫂鳴はその場に腰を下ろし、覇気のない表情で返答した。
「僕には、カゲツノハムシの世羅潮という家族がいた。見たことは無いけれど、おそらく世羅潮は単位生殖による産卵をしたのだと思う。その子どもがまた産卵をして、個体数が増えた。僕は、ヒトに暴力を振るったことは一度もない。でも、ヒトを嫌っていた。蟲達は、そんな僕の精神に感応してヒトを襲ったのかもしれない。街は崩壊した。蟲がバルバレイ領のどこまで広がったのか、僕は知らない。僕と世羅潮は南へと逃げて、ここまで来た。そして、世羅潮は1箇月前に亡くなった。」
シヴァは櫂鳴の目の前まで歩み寄った。
「お前なら、止められたんじゃねえのか?」
「止めることが出来なかったから、逃げた。」
「止めようとはしたのか?」
「しなかった。」
シヴァは飛竜を鷲掴みにしていない方の手で櫂鳴の胸ぐら掴み、激しい口調で言った。
「いいか。街が崩壊したんだろ?多くの子ども達を見殺しにしておいて、被害者面してんじゃねぇぞ。」
シヴァは片腕にもう一つの巨大な骨の腕を造り、飛竜と同じように櫂鳴を握った。
シヴァは山頂まで飛んで地面に降り立ち、山の向こう側のバルバレイ領を確認した。蟲は視認できなかったが、遥か先に途方もない数の蟲のエネルギーを感じ取った。シヴァが末那識の感覚を鋭敏にしていると、背中側から大きなエネルギーが接近しているのを感じた。振り返ると、2頭の飛竜がシヴァに向かって近づいてきていた。そして、その背中には鱗の民の姿があった。




