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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第24話 バルプロ山脈の飛竜

 シヴァは館の使用人に紙と(ふで)を借りて手紙を書いた。小型の鳥の骨格を造って、足に手紙を結び、王邸(おうてい)へ飛ばした。その日は長の館に滞在し、翌日、早朝に散歩へ出た。


 (うろこ)の民の村はバルプロ山脈の裾野(すその)に散在し、家屋(かおく)は木と土で建築されており、屋根は茅葺(かやぶ)きだった。シヴァは長から聴いた情報を心の中で反芻(はんすう)し、(むし)に囲まれた時に、どのように対応するかを想定しながら、水田が広がる景色の中をゆっくりと歩いた。


 稲は綺麗(きれい)に整列して植栽(しょくさい)されており、()られた水の中には幾匹(いくひき)ものカブトエビがのんびりと泳いでいた。水田と水田の間には大豆(だいず)栽培(さいばい)されており、田畑から遠く離れた山林の近くには醤油(しょうゆ)を製造する(くら)が並んで建っているのが見えた。


 しばらく行くと、竜舎(りゅうしゃ)があり、解放された扉の中を(のぞ)くと、一頭(ごと)に柵で区分けされた中で、稲わらが()かれた床に飛竜がごろりと寝転んで眠っていた。中にはヒトの子ども位の大きさの飛竜もいて、丸まって気持ち良さそうに寝息をたてていた。そこに長がやってきてシヴァに声をかけた。


「山脈の守護者たる飛竜から野生を(うば)い、使役(しえき)する私らは、ある意味では罪深き民ともいえる。だからこそ、私らは他のどの民よりも正しく、強くあらねばならず、一日の始まりから一日の終わりまで、(おの)が使命に身命(しんめい)を投げうって生きていかねばならん。今までも、今も、これから先も、それは変わることはない。」


 一人の鱗の民が長に挨拶(あいさつ)し、竜舎の中へと入り、根菜類(こんさいるい)穀物(こくもつ)の粉を混ぜ合わせた物が入った木箱を飛竜の柵の中へと一箱ずつ入れていった。


「一方で、閉鎖的で、保守的な考えに縛られて、変化を怖れ、成長と発展を(はば)んできた風潮(ふうちょう)が根強く残ってしまっておる。」


「へぇ。そんな風に、客観的で柔軟に(とら)えてんだな。」


「私は飛竜に乗って、色々な土地を見てきたからな。」


「国が変わったし、良い機会だから、色んなもんを変えてみたらどうだ?この村まで空を飛んできたけど、この辺りは全然道がねぇじゃねぇか。ヒトの交流がなけりゃ、変化も起こらねぇし、学ぶこともできねぇだろ。格好良い飛竜がこれだけいんだから、観光地にでもしたらいいじゃねぇか。そうなったとしても、鱗の民の誇りが無くなりはしねぇと思うぜ。お前達ならな。」


 シヴァは、はっとしてパルプロ山脈の方角へと顔を向け、五つの眼を全て開いた。長は、シヴァの眼に驚いたが、それよりも不安が勝った。


「どうした?」


「間違いねぇ。飛竜が襲われてる。無数の何かが(うごめ)いてやがる。ここからだと、蟲の姿までは()えねぇけどな。」


 シヴァは鳥の骨格を竜舎の(わき)に飛ばして来させ、脊柱(せきちゅう)に設置した骨の椅子に座った。


「入山させてもらうぜ。後で状況報告してやるよ。」


 シヴァを乗せた鳥の骨格はふわりと浮き、山脈へ向かって飛んだ。


 山脈の(ふもと)鬱蒼(うっそう)とした森林で覆われているが、標高が高くなるにつれて植物が目につかなくなり、やがて荒涼(こうりょう)とした岩肌が顔を出した。シヴァが山頂の8合目(ごうめ)付近に到達すると、空中に一頭の飛竜と、それを蟲の群れが追いかけ回す光景が目に入った。飛竜は近づいた蟲を一匹ずつ()み殺していたが、何匹かの蟲に密着され胴体を(かじ)られていた。蟲は鱗の民の長が説明していた通りの大きさであったが、シヴァがそれを実際に目で見ると、不気味な程の巨体に感じられた。


 シヴァは鳥の骨格を分解して両腕に巨大な骨の腕と鋭い鉤爪(かぎづめ)を形作り、飛竜を追う蟲をさらに追って、蟲の身体を鉤爪で()いていった。やがて、飛竜の身体に(まと)わりついた蟲のみとなったが、飛竜が飛び回るので、その蟲をなかなか排除できなかったため、シヴァは骨の腕で飛竜を鷲掴(わしづか)みにして地上に降りた。


 飛竜はシヴァに向かって攻撃的に牙を()いて()えたが、シヴァは知らん顔して蟲を(つぶ)していった。蟲が嚙みついていた箇所は鱗とともに皮膚が裂け、赤い血がじわりと流れ出た。


(しばら)くは大人しくしてろよ。それにしても、蟲の外骨格は操ることができねぇな。ちっ。」


 シヴァは飛竜を掴んだまま再び空中に上がり、5つの眼で広大な山脈を見回した。複数の箇所で蟲を確認したが、いずれも数匹程度で固まり、飛竜を害する規模ではないと判断した。


 ただ一点、蟲とは異なる、まるで蜃気楼(しんきろう)を思わせる不確かな命のエネルギーを感じとった。


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