第23話 カゲツノハムシの騒乱
シヴァはお茶をすすった。広間は板張りの床で、二人は座布団に座っていた。床の間があり、淡緑色の陶器の花瓶に大きな牡丹の花が生けられていた。引き戸は開放されており、バルプロ山脈を眺望できた。
「山脈は広大だな。蟲を操る者を、どうやって探し出すつもりなんだ?」
「飼い慣らした飛竜に乗って、目視で確認するしかあるまい。」
シヴァはお茶を飲み干し、立ち上がって山脈を眺めた。
「あんなに標高の高い山脈だったら、気温が低いだろう。なんで、虫が活動できんだ?」
「おそらく、カゲツノハムシは、自身の魔力から熱を生み出しておるのだろう。蟲使いが何らかの術により、カゲツノハムシに魔力の使い方を伝授しているのかもしれん。」
シヴァは長の方へ向き直り、彼の目を見て聴いた。
「飛竜を群れで襲うんだろう?お前らは、どうやって蟲を退治するつもりだ?この館に来る前に村を見回ったけど、飼い慣らした飛竜は30頭程だったぜ。周りの集落からかき集めたとしても、蟲が有利に思えるけどな。」
長は視線をシヴァから逸らし、床の間の牡丹を見つめた。牡丹の花は大きく開き、花びらの中心は紅く、周縁は白かった。紅と白の鮮やかな階調が美しかった。シヴァは長の返答を待たずに発言した。
「なぁ、意地張っている場合じゃねぇだろ。めちゃくちゃ深刻な事態じゃねぇか。蟲の総数も分かってねぇんだろ?もし、今、蟲が群れをなして、この村を襲ってきたら、飛竜も、鱗の民も、全滅しちまうぜ。それだけしゃない。周辺の村や街も、あるいは国全体が蟲に飲み込まれるかもしれねぇ。なんで、ちゃんと連絡しねぇんだよ。皆の命が危ないって時に。」
長はシヴァに視線を戻したが、口を開かなかった。
「国王に来てもらうよ。それで、一人でも、一頭でも犠牲が減るんなら、儲けもんだろ。お前の許可は貰わねぇぜ。だから、皆に文句言われたら、私が勝手にしたことだと言いな。」
広間を出ていく前に、シヴァは長に声を掛けた。
「お茶、美味かったぜ。ありがとう。」
広間に、一人残った長は、いつまでもバルプロ山脈を眺め続けた。




