第22話 鱗の民
タタラがハビキ村を訪れていた頃、バルプロ山脈の麓で暮らす鱗の民が長の館で集会を開いていた。バルプロ山脈にはいくつもの竜の巣があり、中型の雑食性の飛竜が生息している。この飛竜が、山脈の北の方角から飛来する巨大なカゲツノハムシに、喰い殺される事件が多発していた。荒らされた巣を調査すると、ヒトの足跡も確認されていた。
鱗の民は一部の飼い慣らした飛竜と共に暮らしているが、山脈で野生の飛竜と出くわすと襲われることもあり、飛竜の保護を簡単に行うことができないでいた。
集会の議題は領主に援軍を要請するか否かであった。中年以上の者は援軍の要請に反対した。いずれ、鱗の民が領主にとって代わることを悲願としており、援軍の要請など言語道断であった。しかし、若年層の意見は、領主に税を払っている以上、要請は当然の権利であり、飛竜を救うために余計な思惑を考える必要はない、というものであった。
鱗の民は強者揃いで、他民族の助けを借りることなど前例がなかったが、その事が議題に上がる程、事態は深刻だった。
また、鱗の民には大陸中に名を馳せた双竜兄妹と呼ばれる最強の戦士がいたが、一年の大半は旅に出て不在としていた。いつも行き先を把握していている長は、飛竜を飛ばして帰郷の便りを送っていた。
そんな中、集会の途中で湖都より使者が訪れた。シヴァは鱗の民に、竹虎の死、そして、マドリーナ王国の建国とタタラ王の即位の知らせを読み上げた。場にどよめきが起こり、集会はますます紛糾した。
年齢を問わず、意見を変える者が出た。新参の国王なら、民の信頼を得ることを狙っているため、都合が良いと言う者がいれば、得体の知れない人物に借りを作ることで、今後、鱗の民は悲惨な従属を強いられる可能性があると主張する者もいた。結局、意見はまとまらず、その日の集会は解散となった。
シヴァは、湖都からの使者である自分が同じ場にいるのに、王に対する非礼ともとれる意見を口にする鱗の民に、あっけにとられた。
「常識のねぇ連中だな。お茶も出ないし。お饅頭も出ないし。お団子も出ないな。」
なかなか家を出ていかないシヴァを見かねて、長が口を開いた。
「お宅様は湖都に戻らないのですかな。」
「お前ら、何か困ってんだろ?ノミだかダニだかの蟲が出て騒いでたじゃねぇか。こう見えても、私は国防大臣なんだ。蟲退治してから帰るよ。」
「我々はお宅様の力を必要とはしておりません。」
「言ったろ。私は国防大臣なんだ。お前らが私の力を必要としていなくても、国を守るのが私の役目なんだよ。さっき、話し合いの中で、借りがどうとかって言ってた奴がいたろ?そんなの気にすんな。王はな、何かを返して貰おうなんて、ちらっとでも思わねぇよ。だからさ、現在の状況と蟲の特徴を教えてくれねぇかな。なんなら、私にではなく、独り言として言ってくれてもいいぜ。」
長は立ち上がり、広間を出ていった。暫くして、二人分のお茶をお盆に載せて戻ってきた。そして、胡坐をかいて語り始めた。
「私ら鱗の民にとって、バルプロ山脈は神様だ。生きる糧を様々な形で恵んで下さる。私らの細胞一つ一つに山脈の恩恵が満ちておる。従って、私らが不格好な生き様をさらすことは山脈に申し訳が立たない。先代の長が竹虎に敗れて亡くなられ、この地が領地の一部に併合された時は、それは悔しくてならなかった。それ以来、忸怩たる思いが鱗の民の魂に刻印され、私らは強くなることを山脈に誓った。そして、今、私らの兄弟たる飛竜が次々とカゲツノハムシに喰われておる。飛竜は山脈の守護者だ。飛竜がいてくれるからこそ、山脈にヒトの手が入らず、自然が保たれてきた。何としても飛竜を守りたい。襲われた竜の巣にはカゲツノハムシの死骸もあった。驚くべきはその大きさだ。ヒトの胴体程もある。名前の通り、一本の角が生えておるが、それは大したことはない。問題は顎だ。飛竜の鱗を喰い破るからな。イナゴのように群れ、多数で飛竜を襲うとる。だが、カゲツノハムシは元々、群れる習性はない。蟲を操っている者がおるはずだ。」




