第21話 ありがとうを伝えるために
タタラは茶々丸を連れて、湖都ユマより東方にあるハビキ村を訪問した。
「いいかい、茶々丸。この村にはね、僕がとてもお世話になった一家が暮らしているんだよ。失礼のないようにね。」
「んにゃ。」
タタラは村に入るなり、まるで、故郷に帰ってきたかのような想いに包まれた。スピカ達が栽培する小麦畑を見ると、胸が熱くなった。
太陽が最も高く上る時間に、タタラはスピカの家に到着し、震える手で、こんこんと扉を叩いた。暫くして、スピカの父が扉を開けた。途端に、タタラの目は赤くなり、言葉を詰まらせた。スピカの父は、スピカの顔立ちによく似た者が玄関の前に立っていることで、目を見張った。
「あの、どちら様でしょうか。」
「失礼いたしました。この度、竹虎様に代わり、領土をマドリーナ王国として改め、国王を務めさせていただくことになりました、タタラ・マドリーナと申します。」
スピカの父は息子とそれ程年齢が違わない若いタタラの外見に驚き、冗談を言われているのではないかと訝しんだ。
「はい。あの、どうも。私はニジョウと申します。」
「今、困っていることはないでしょうか。ニジョウ様とご家族のために、私は何でもするつもりです。」
「いや、あの、大丈夫です。」
「ご家族の皆様はお元気でしょうか。」
「はい。あの、おかげ様で。」
「ご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええっと、はい。今、呼びます。」
ニジョウは昼食を摂っていた妻のカツラギとスピカに声を掛けた。タタラはスピカと母親を見るなり、口元が震え、抱きしめたい気持ちを堪え、二人に挨拶をした。
「凄い。国王様だ。餓者髑髏を退治したって本当ですか?」
「これ、止しなさい。」
「いいんです、お母様。」
タタラはスピカの目線に合わせて答えた。
「そうだよ。こう見えても、僕はとっても強いんだよ。」
「うへぇぇ。うわっ、何て可愛いにゃんこ。」
タタラは茶々丸を抱っこして言った。
「この子は茶々丸っていうんだよ。可愛いだけじゃなくて、火炎術を使えて、とっても強いんだよ。」
「にゃあ。」
「国王様のにゃんこはとっても凄いんだね。ふふふ。」
「んにゃ。」
スピカは茶々丸の前足の肉球を優しくぷにぷにした。
「にゃぁぁぁぁぁん。」
「ああ、なんて愛らしいにゃんこなんでしょう。」
タタラはカツラギに向き直った。
「お母様にご依頼がございます。」
「はい。」
カツラギは少し不安そうに答えた。
「お母様は結界術に優れていらっしゃるとお聞きいたしました。それで、差し出がましいようなのですが、こちらを用意させていただきました。」
タタラは骨を削って作った勾玉の首掛けを3つ披露した。
「これらに私の末那、つまり、エネルギーを込めました。この勾玉をご家族分用意いたしましたので、常時、携帯しておいていただけないでしょうか。お母様が結界術を勾玉に込めた時、余程遠くの距離にいない限り、お父様とスピカ君にも同じ結界術が発動するようになっております。よろしくお願いいたします。」
「あの、ありがとうございます。」
「ただし、この勾玉はあなた方にのみお渡しする物なので、他の方にはご内密にお願いいたします。全ての者にお渡しできる程、私のエネルギーは十分ではございませんので。」
ニジョウが前に出て、質問した。
「何故、私達だけにいただけるのでしょうか。」
タタラはニジョウを連れて、少し家を離れ、カツラギとスピカに聞こえないように注意して答えた。
「実は、ニジョウ様とカツラギ様がたぐい稀な決意と愛情を持って、スピカ君を育てていることを知りました。私はあなた方の家族の在り方に感動を覚え、私自身が救われたような気持になりました。ですから、勾玉は、国王としての贈り物ではなく、私個人の想いから、お送りさせていただく物です。」
ニジョウはタタラの説明を受け、ありがたく頂戴いたします、とお礼を述べた。
「繰り返し、申します。私は、あなた方のためになら、何でもいたします。この言葉を決して忘れず、何かあれば、遠慮せず、湖都にご連絡をお願いいたします。」
タタラはそう言い残して、その場を去った。ニジョウが家に戻ると、カツラギが勾玉を手に取り、結界術を発動していた。タタラの言う通り、残りの二つの勾玉が共振してタタラが込めた末那が活性化し、その周囲に同様の結界術が発動された。
「凄い。」
カツラギは勾玉をスピカとニジョウに手渡した。その後、3人は昼食を再開した。パンを頬張りながらスピカが言った。
「とっても若い国王様だったね。それに、あのにゃんこ、可愛かったな。尻尾がもふもふだったし。それに、見た?国王様も同じ尻尾が生えてたよ。国王様の正体は猫じゃないかと思うんだよ。今度、国王様にマタタビをちらつかせたら、はっきりすると思うよ。」
「そんなこと、しちゃいけません。あなたはどう思った?」
ニジョウが唸り、答えた。
「案外、スピカの言う通りかもしれんな。国王の顔立ちがあまりにスピカに似てた。どこなく母さんの面影もあったよ。まるで、猫が化けていたみたいに。」




