第13話 秘密の観察者
タタラが泉の前で地べたに座って足を放り出し、後ろ手をついて次はどうしようかな、と考えていたところ、茶々丸が前足でタタラの腕を軽く叩いた。
「どうしたの?」
「にゃあぁぁぁ。」
茶々丸が一本の樹木の方へと顔を向けて、前足を上げて手首をくいくいっとさせた。
「ああ、あの子のことね。ふむ。」
タタラ達が地獄嶽に来た時から樹木の陰に隠れていた生物がいた。その者は爆音がしたり、火がついたり、餓者髑髏が暴れ回っても、逃げずに戦闘の様子を観察しているようだった。現在も、骨の山があった付近から泉の近くに移動していた。
「ねぇ、シヴァ。あの子は知り合いなの?」
「あいつは以前からちょくちょく来ていた。でも、話ができないし、今まで私は目が見えなかったから、結局、あいつが何をしたかったのか分からずじまいだったよ。」
「そうなんだ。おおおぉい、こっちにおいでよ。」
樹木の向こう側に隠れた者はちらりと顔を出したが、警戒して、そのまま動かなかった。タタラが立ち上がって近づくと、林の奥へ逃げたので、タタラは奥義 受肉改変により、掌をもぞもぞと変化させて蜘蛛の糸を噴射し、捕縛した。その生物はジタバタして踠いたが、余計に糸が絡まって、身動きが取れないようになった。
タタラが蜘蛛の糸を手繰って確認すると、丸々とした狸だった。毛に覆われて目立ちはしないが、よく観察すると、その狸の目と耳の間に、一対の小さな角があった。タタラは蜘蛛の糸に絡まった狸を抱え上げ、泉に戻った。
「見て見て。角の生えた狸さんです。」
「にゃ。」
「狸だったか。エネルギーの知覚だけじゃ、何の生物かまでは分からなかったからな。」
「それで、君は僕達のことをずっと見てたようだったけど、何をしてたの。」
「みぃぃぃぃ。みぃ。」
「うむ。全然分からない。」
突然、狸は末那を練った。タタラは驚いて狸を放り出した。狸の末那は狸から離れて泉の上に移動し、次第に形を成し、狸となった。
「うわ、凄い。末那で幻を創作してる。」
幻の狸は右の前足をくいっと上げて、そこから別の狸が出てきた。別の狸はすぐに消えて、今度は一本の骨が出現し、幻の狸がそれを操るかのように骨が宙を舞った。
「何が言いてぇんだ、こいつ。」
「たぶん、幻を作り出せるようになったから、今度は、シヴァのように骨を自由に操りたいと思っているんじゃないかな。」
タタラの発言に合わせて、狸はこくこくと頭を縦に振った。タタラは狸の頭に手をやり、魂に触れてみた。