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Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
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第128話 黒トカゲ

 武津薙(たけつち)が手ぬぐいで汗を()き、力を抜いた瞬間に、頭上から何者かが彼の脳天に一撃を加えようと攻撃してきた。


体を動かす間もなかったが、武津薙(たけつち)はなんとか首だけを横にずらして致命傷を避けた。武津薙(たけつち)の肩に衝撃が走り、(ひざ)が地に着いた。


彼を襲ったのは白い(もや)のような者であった。その者は鎌鼬(かまいたち)武津薙(たけつち)を襲う様子を木の上から伺い、辛抱(しんぼう)強く獲物の(すき)を狙っていたのであった。


武津薙(たけつち)は身を引くことをせず、目の前に降り立った白い(もや)に体当たりし、両者は地面に倒れ込んだ。武津薙(たけつち)は上半身を起こして、自分の体の下にいる者を見た。闇夜の中で、(にぶ)く輝く白い(もや)は人型をしており、その不気味(ぶきみ)さに、武津薙(たけつち)は全身が総毛(そうけ)立った。


武津薙(たけつち)は短刀を素早く逆手(さかて)に握り直し、力を()め、人型の(のど)に位置する箇所を突いた。その瞬間、(はじ)けるようにして白い(もや)は消えた。


「黒トカゲか。」


心臓の鼓動(こどう)が全身を揺らさんばかりに激しく高鳴る緊張の中で、武津薙(たけつち)奇怪(きかい)な生物の名を口にした。


まだ故郷の(さと)で生活をしていた時に、(さと)の長老が黒トカゲの話をしていたことがあった。それは他者の末那(まな)を吸収して()め込み、必要な時に体外へ発出して自身の周囲に力場を作り、獲物を狩る生物である。その力場は白い(もや)のかかった様相(ようそう)(てい)した。



 普段の狩りとは違い、自分も狩られる立場に立って、久方振りに武津薙(たけつち)は興奮状態になった。息子を想えば、いくらでも命を()けられる。それでも、何の成果も出せないまま犬死(いぬじに)するわけにはいかなかった。


故郷の(さと)を出て、銅鑼村(どらむら)にたどり着くまでの道のりを旅した時の武津薙(たけつち)は、人生に意義を見出(みいだ)せず、命の大切さも知らず、何もかもがどうでもいいと思える状態であった。


農業は生活の一部であったが、それ以外に生きる目的はなく、生きがいもなかった。生きたいという意志もなく、生かしてあげたいという慈愛もなかった。


しかし、今は全てが正反対だった。まだ死ぬわけにはいかない。決して。そのような想いが、強く武津薙(たけつち)の心を圧迫していた。


長い道のりを旅するには、一人では限界がある。武津薙(たけつち)用心棒(ようじんぼう)を道連れにすることにした。

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