第11話 餓者髑髏の鎮魂歌
タタラは念を押した後、餓者髑髏を泉のほとりに仰向けに寝かせ、自分もその隣で横になった。
「茶々丸。一応、周りを警戒しといてね。」
「んにゃ。」
奥義 憑依進化によってタタラは餓者髑髏に憑依し、骨を操る神通力を奥義 曼荼羅で魂に刻印し、習得した。餓者髑髏の魂に触れた時、記憶が波のようにタタラに押し寄せた。
人間だった頃の餓者髑髏は、人間と千家が混在する村の守り人だった。餓者髑髏が操る薙刀はどんな達人の剣や槍や弓矢よりも優れていた。
村人を、特に小さな子ども達を守るためなら、他者の命を奪うことを躊躇わなかった。敵は容赦せず、村を襲ってきた者は、決して、追い返さずに皆殺しにした。生き残りが再び村にやって来て、子ども達に危害を加える可能性を微塵も残したくなかったからだ。村人にとって、餓者髑髏は頼りになる門番であり、近寄りがたい存在であった。
ある日、餓者髑髏の噂を聞きつけた国の役人が村を訪れ、餓者髑髏を国の兵士として雇った。餓者髑髏は村の守護を国が担うことを条件に、兵士になることを受け入れた。
餓者髑髏は熾烈な戦によって薙刀の技術をさらに向上させ、富と名声を得て、それなりに満足する毎日を過ごした。
そのような日常が10年続いた後、餓者髑髏は初めて帰郷した。そして、絶望した。知っている顔の村人は誰一人としていなかった。聴けば、村は何年も前に賊に襲われたということであった。逃げることができた者もいるが、多くの者は殺されていた。
餓者髑髏は急いで国に引き返し、役人を問いただした。役人は餓者髑髏の代わりとなる守り人を村に派遣していたが、事件当日に賊に殺されたということだった。餓者髑髏は役人を殴り倒した。
「お前は私の代わりを立てることを約束したんじゃねぇだろう。国が私の村を守ることを約束したんだろうが。」
その後、餓者髑髏は賊を捜索し、一人残らず処刑した。賊と闇取引をしていた者も殺害した。その中に国王の親類がいた。国は餓者髑髏を国家反逆罪として捕らえようとし、それに対して餓者髑髏は一騎当千の戦いを繰り広げたが、多勢に無勢で、やがて捕らえられた。
そして、生き埋めにされた。
餓者髑髏は、何より、自分のことが許せなかった。自分にとって、何が一番大切かを見誤り、選択を間違えたことが腹立たしかった。守り人だった頃、いつもありがとう、そう言ってお団子をくれたあの小さな女の子はもういないのだ。竹人形を綿の袋に入れた手作りのお守りをくれたあの小さな男の子はもういないのだ。大好きだと言って、リンゴを2つくれたあの双子の女の子はもういないのだ。
餓者髑髏は、死んでいった村人達、子ども達へ、自分の魂を捧げたかった。
死にゆく土の中で、激しく想った。
(ごめんなさい。あなた達を守ってあげたかった。)