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【8】

もうこれ以上食べられないと思うほどの食事をして、アオーンは言われたとおりに風呂に入ることにした。アオーンが居なくなると、カールはクリスに向かって話し始めた。


「それで、どうしてマスターのあなたが同行しているんですか?「アザラの旅」は新任の魔導士の仕事でしょう。」


冷めてしまった飲み物を口に運びながら、クリスは返事をした。


「オーディンの封印が解かれようとしているとの情報があってな。実際に、今日もここに来る途中の門の向こうで、ウォーターベアに襲われた」


「そんな・・・そんな事ってあるんですか。門の向こうにはいけない筈でしょう?」

「それがいきなり、あいつに襲い掛かってきた。多分ソウェイル様の剣に引かれてきたんだろう。だからそのまま門を抜けて、こちらに入ったと言う訳だ」


「だからこんな辺鄙な場所に、来てくれたんですね。しかし一体誰がそんな事・・・」

「それはまだ、なんとも言えない。ただ、アザラに行けるのは限られた者だけだ。2度とは入れないからな。それでアオーンを連れて来た。」


「それって・・・アザラの門が開くということですか??」

「そういう事になるだろう。その前に止められればいいのだが、そうも行かないらしい」


天井のガラスを通して、星が瞬き始めたのが解った。まだ夜にはなっていないが、オレンジ色の空はとてもきれいだった。その天井に向かって、クリスは煙草の煙をふきかけている。


「僕も連れて行って下さい。」


突然カールは立ち上がって、クリスに懇願した。


「それは出来ない。任命されていない魔導士を同行されられないことくらい知っているだろう」

「じゃあ・・・アオーンの教育係としてでも。彼は知らないことが多いのでしょう?僕があなたに代わって色々と教えますから。どうしても僕は行かなければならない気がするんです。それに、アザラの旅にマスターが同行していると目立ちますよ。僕が一緒なら、毎晩の宿を作ることくらい朝飯前ですからね。」


カールはそういって、引き下がらなかった。


「そうだな。だが、返事は明日になってからだ。ミトラ神殿のライラ様に報告してからにしてくれ」


答えると同時に、席を立って外に出て行った。報告と言っても一つ二つの呪文を唱えるだけで、勝手に連絡できるという魔導士たちの特別な方法をとるので、明日の朝まで待つ必要はなかった。


だがあえて「明日にする」と言うことは、何か他に理由があるのかも知れない。そんな風に考えつつ、カールはアオーンの様子を見に行った。


よほど疲れていたらしく、すっかり熟睡しているアオーン。その額に手を当てて、今日一日あったことを教えてもらおうと、夢の覗き見を始めた。


本人が覚えていなくても、夢は毎晩見ているものだ。体が疲れ切っていて泥のように眠りに落ちても、一日の出来事を整理するために夢を見ている。


アオーンは、忘れたい事と忘れたくない事が入り混じっているらしく、夢の世界でずっと泣き続けている。


「辛いのを我慢して、頑張ったんですね。。。」


カールはそう言うと、そっとアオーンの額から手を離し優しく髪を撫でた。

外では、ずっとクリスが報告を続けている。


「あなたの思うようにしてかまいませんよ。カールならば、何の問題もないでしょう?」


闇の中に浮かび上がったライラは、儀式の時と同じ正装をしていた。


「あなたはここにカールが居ることを知っていましたか?」


ライラの言葉は、声ではなく頭の中に響いてくる。魔導士たちは言葉を交わす必要が殆どなかった。離れた場所に居ても簡単に連絡が取れるので、カールとのことについて尋ねてきたのだ。


「いいえ。研究所を出たあとのカールは、魔道所と一切の連絡を絶っています。多くの「旅人の宿」と同じように迎えてくれたので、顔を見たときには正直おどろきました。カールも、街の噂でマスターが同行していることは知っていたようですが、それが私だとは思っていなかったと話していましたから。」


食事の後に話したことを、もう一度確認する意味も含めて思い出していた。


「そうならば、尚更です。カールのところにあなた達が辿り着いたのは、必然と言うことになりますね。いつもの様に使い魔に決めさせた宿がカールのところだった。それに何の意味があるのか、あなたはきっと考えたでしょう。しかし、答えがまだ見つかっていない・・・そうですね?」


その通りだった。食事のあと、長い時間をかけてカールの存在について自問していたが、どうしても納得のいく答えが出ていない。


久しぶりに会えた喜びは大きかったが、何故それが「旅人の宿」の主人として再会することになってしまったのか、そのことが気にかかっていた。その上あろうことか、カールはこの先の旅に同行すると言い出している。


「3年間カールがどうしていたのか、それは私も知らされていません。しかし彼が有能な『癒し手』であることには変わりないでしょう。同行魔導士としてのクリス自身が答えを出すしかないのですよ。偶然ではない今日の再会の意味を、もっと深く考えてください」


その言葉を最後に、ライラの姿は消えていった。


全てはクリスに任されてしまった。


「二人を守りきることが・・・俺に出来るだろうか」


強い風に雲が流れてしまって、満天の星が瞬いている。寒さを感じることなく、同行魔導士はドアの外に置かれた椅子で一夜を過ごす。


それは旅人の安全を確保するためと、自分自身との対話のためだった。カールが一緒に行くことは、アオーンにとって心の支えになるはずだ。


その上説明することが多すぎるので、教育係の存在は仕事の分担にもなる。


召喚士としての出番が来ることは避けたいのだが、それまでにアオーンがどれだけ成長するのか、今の時点では見当もつかないことだった。


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