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【5】

「頭で考えないで、どこで考えるんだよ・・・」


一人にされてしまい、立ちふさがる岩を前にして、じっと眼を凝らしてみたが何も見えなかった。クリスは腰がかけられる岩を見つけて、一休みをすることに決めたらしい。煙草に火をつける音が小さく聞こえた。


ゆっくりと紫煙を燻らせている呼吸だけが繰り返されている。1本吸い終わったのか、クリスの低い声が聞こえてきた。


「お前、ライラ様の話を聞いていたか?」


そう尋ねられても、なんの事を言っているのかすぐには理解できなかった。母の言葉。儀式の時のことは殆ど意味がわかっていなかったのだから。


「ライラ様は、あの時『ルーンの庇護により必ずや正しい道を、自らの意思で切り開くことが出来る』と言われたはずだが。」


アオーンは一生懸命努力した結果、光に包まれて消えてしまう直前に、母に言われたことを少しずつ思い出してきた。


「ああ・・・そうだった。でも全然わかんないよ。第一、『ルーン』って何のことだか・・」


「まさか、ルーンから教えることになるとは考えも付かなかった・・・」


いつも冷静なクリスにしては、ちょっと感情的な返事が返ってきた。


「ルーンというのは、小さな石のようなもので、一つ一つに意味を持っている。旅をする者の道しるべになるのだが、決して頼ってはいけないものだ」


石と言われて、母の準備してくれたリュックの中に、小さな皮の袋があったことを思い出した。


「これのことかなぁ」


リュックの中をかき回して目的の小袋を掴むと、振り返ってクリスの方に差し出した。


「それらしい。中を見てみろ」


頷くと乱暴に縛ってある紐をはずして、月の光が差し込むように袋の口を向けて覗き込んだ。よく見ると一つずつに何か模様が書いてある。


「何か彫ってあるみたいだけど」

「それはルーン文字で全てに意味がある。孤独な戦士が行き先を見失いそうに成ったときに、道の一つを示してくれるものだ」

「迷った時・・・まさに今だよなあ」

「そうだな。必要な時が来たらしい。その中から一つ取り出してみろ」


そういわれて、アオーンは皮の袋に手を入れて、最初に指が触れた石を掴んだ。


「それがお前の道を示してくれるはずだ」


ゆっくりを指を開くと、手の中にあった小石が月明かりに照らされてよく見えるように目の前まで持ってきた。見覚えのある模様が書かれていたが、それの意味するところはわからなかった。


(これに、何の意味があるんだろう)

アオーンが頭で考えていることはクリスにも筒抜けなので、あえて言葉にするのを止めた。


「それは『太陽のルーン』だ。名前はソウェイル。」

「それって、父さんの名前じゃないか!」

「ああ。ソウェイル様の名前はルーンから付けられたものだ。「太陽の戦士」ということになる」


初めて教わったルーンに父の名前が付いていたことが、アオーンには嬉しかった。

自分が困っていることを、父が助けてくれようとしているみたいだったし、何よりも同じように父も自分のことを気にかけていてくれていると感じたのだ。


同時に母の背中に刺繍してあったのも同じ『太陽のルーン』だったことを思い出した。きっと今ごろ母もアオーンのことを心配しているに違いない。


「俺、まだ一人ぼっちじゃないんだ。よかった」


そう口に出して言ってみると、何でもで出来そうな気持ちになってきた。


「やっとやる気になってきたか。」

「うん。もう一回やってみる。ここで思い描くんだろ。やってみるよ」


『果ての岩』に向かって立ち、自分の左胸にこぶしをあてて、軽く叩いて見せた。


「そうだ。ルーンを握ったまま、そうしていろ。」


右手の中には、家族の絆をあらわしている一つの石が入っている。


アオーンのすぐ後ろにクリスは立った。そのまま覆い被さるようにして胸の上にあてたこぶしに手を重ねてきた。


「な、なにすんだよ!」

「慌てるな、手伝ってやるだけだ」


そう言うと、クリスは左手でアオーンの左耳を塞いだ。クリスの髪がアオーンの首をくすぐっていると感じると、今度は空いている右の耳のすぐ傍で囁いてきた。


「俺の声だけを聞け。それから良いと言うまで口を開くな。目を閉じてルーンに意識を集中させろ」


アオーンは言われたとおりにした。手の中にはいっている石に気持ちが向くように、もう一度強く握りなおした。


「そうだ・・・次にソウェイル様のことを思い出してみろ」


片方の耳はふさがれいるので、聞こえる音はクリスの声だけだった。微かに甘い香りが漂ってくるが、それがクリスの香りだとはきがつかなかった。


『父さん・・・』

手の中のルーンがだんだんと熱をもってきている。それくらい強く握り締めていたのだから仕方の無いことだったが。


だんだんと、父の姿がはっきりしてきた。それは背筋をピンと伸ばし、大きな手を軽く振っている。毎朝出かけるときにするアオーンが一番好きな父のしぐさだった。いつものように父は出かけていこうとしている。


そのうち、耳を塞いでいたクリスの手が離れ、今度はアオーンの眼を覆ってきた。


「上出来だ。そのまま眼を開けてみろ」


勿論、目を開いてもそこにはクリスの手が目前にあるのだが、言われたとおりにした。するとどうしたことが、まだ父がドアのところに立っているのが見えるのだ。


(あ!父さん!)


思わず声を出しそうになったが、寸でのところで我慢することが出来た。


「そのまま・・・そのまま後をついて歩いて行くんだ」


出かける父の後を追って、ゆっくりと一歩踏み出した。ドアを出るとまっすぐに道が続いている。その先をゆっくりと父は歩いていた。


荒れた土地だと、アオーンは思った。また一歩。クリスに背中を押されるようにして進んだ。


「これからが難しいからよく聞いておけ。お前は目を開いて道を見つけなければいけない。俺の手が顔から離れたら、もう目を閉じるな。その先に進んで行くんだ。」


そういわれて、アオーンは黙って頷いた。


「何が見えるか?」


父の背中を一心に追っていたアオーンは、そう聞かれて回りを見渡してみた。


「荒地の脇に、大きな木がある」


そう答えると、また一歩、先を歩いている父の方に踏み出した。


「じゃあ、そこで休んでいろ。何があっても振り返るなよ。俺が行くまではその木の下から動くな」


囁きはそこで終わった。

クリスの両手がゆっくりと離れ、首の後ろをそっとつかまれた。


「お前の道だ。しっかりと見据えて行けよ」


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