夢の続きみたいな現実を受け入れるのも楽じゃないよね
よくある話しですが、ある日突然「日常」から切り離されて、あれよあれよという間にココとつながる異世界に連れていかれ、強制的に成長させられる物語です。
人生なんてこんなもんだよ!さ、先に進もう!
「風の音を聞き、香りを味わい、足跡をたどっていく時、終わりの無い階段を上り続けるような、長い夢を見る・・・」
アオーンは子供の頃から母親に聴かされていた子守唄を、なんとなく思い出していた。未だに意味は良くわからないけど、この歌を口ずさんでいるとなんとなくうっとりとしてくるから不思議だ。多分母親の即興の歌だろう。誰も知っているものはいないし、教えようとも思わなかった。
ほんの10年前までは、毎晩のように子守唄を歌ってもらわないと眠れなかった子供だったのに、「何時からだろう、一人で眠れるようになったのは。。」
今夜は酷く風がうなっていて、近くの森の木々たちが大きな風音を立てている。
ほんの1年前までは、大きな音を立てて小立の間を風が流れていくだけで、両親の寝室まで一目散にかけていっては母親のベッドにもぐりこんで泣いていた。そんなときに決まって、耳元で唄ってくれたのがあの歌。何時の間にかアオーンも覚えてしまって、泣き出すことはなくなってもこうして思い出しては唄い、自分を落ち着かせようとしている。
生まれてから今まで、この土地を離れたことがないアオーンには、些細な音でも馴染みのあるものばかりだったが、最近は少しばかり不安な夜をすごすことが多くなってきた。
父親の帰りが遅くなり始めてから2ヶ月、全く帰宅しない日が続くようになって1週間。仕事が忙しいとは聞いていたが、こんなに長く父の顔を見ない日が続くのは初めてだった。しかし母はおちついていた。
「あなたが生まれる前は、結構こんな日も多かったのよ。」
そういって取り合ってはくれない。
父親の仕事は「風読み」である。国の気象台のようなところに勤めていて、天気の様子を伺っては種をまく時期や行事の日程などを決めているらしい。最近は風だけでなく、星の様子も見ているようなので、仕事が夜になることもしばしばだった。しかし、帰ってこない日が続くのにはほかに理由があるのではないか。漠然とではあるが、アオーンの心には小さな疑いの気持ちも起きていた。
「父さんは何か隠している。母さんだってそうだ。俺が子供だと思って内緒にしているんだ」
そんな風に思っても、いつもと同じ様に振舞っている母親に尋ねても何の答えも得られなかった。
相変わらず強い風が吹いている。
夜が明けると、すっかり静かになっていた。庭が散らかっているのかと心配していたが、それ以上に強い風が吹き続いていたと見えて飛んできた葉っぱが落ちているでもなかった。
「まるで何事も無かったかの様に」
そんな表現がぴったりだった。実際に、何事も無かったのかもしれない。母もいつもと変わらなく、昨夜の強い風のことなど、おくびにも出してこない。
いつもの様に朝食の準備をてきぱきとこなし、次々にテーブルに暖かいとうもろこしのスープとライ麦パンを並べている。
「父さん、昨夜も帰ってこなかったの?」
意を決してアオーンは口を開いた。
「そうみたいね。お仕事お忙しいんでしょうね」
毎度のことではあったが、母は答える。
「変だと思わないの?もう1週間以上にもなるんだよ。母さんちょっとは心配してんの?」
いけないとは思いつつも、アオーンは母親に食って掛かるような口調を取ってしまった。だからといって責めているつもりはない。純粋に心配しているだけだ。
そんな気持ちをわかってくれたのか、母は温野菜のサラダを取り分ける手を止めてアオーンの方に向き直った。
「何かあってからじゃ遅いんだよ。。。母さん、俺に何か隠してるんじゃないの?」
一瞬、母の眼が驚きに変わった。しかしそれはアオーンに見咎められる前に消えてしまったが。
「気になっていたけど、でもこれはお父さんのお仕事だし何かあったら連絡が来るから心配してもしょうがないことなのよ。」
アオーンは諭すような口調で答えた母に反感を覚えずには居られなかった。どうかしている。何日も父が帰ってこないのに、いつもどおりどころか余裕すら浮かべている。
そんなに自信たっぷりに答えらてしまっては、反論の余地は無かった。なんだか心配している自分が、父を信用していないように思われてしまったんじゃないかと反省してしまったほどだ。
「いいよ、もう。」
やっとの思いで口を開き、長い沈黙を終わりにしていつもの朝食が始まった。
殆どを食べ終わった時、玄関のドアを叩く音がした。
楽しんでいただけると嬉しいです。