表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない  作者: 当麻月菜
3.待てば甘味の恵み有り。とはいえ、悪縁契り深しかな
17/76

2

 マントと上着をポールハンガーに掛け、剣を所定の位置に置いたソレールは、バスルームに向かう。湯を浴びるのではなく、着替えるために。


 私室をアネモネに譲った彼は、これまでの勝手気ままな独り身の生活ができないのに、一度も愚痴を吐いたり、アネモネに不満をぶつけたりもしない。


 それどころか、夜勤がない日はアネモネの為に毎度デザートまで買ってきてくれる。


 顔はイケメンの部類に入るし、温厚で気が利く。女子が喜ぶツボを押さえているのに、なぜ、独身なのだろう。やはり薄給のせいなのだろうか。


「アネモネ、すぐに用意するから、ちょっと待っててね」

「はーい」


 あっという間に着替えを終えたソレールは、アネモネが失礼極まりないことを考えているなど露ほどにも思っていないようで、キッチンに足を向けた。


 ソレールの家のキッチンはとても狭い。


 しかも一人で調理することを前提に諸々のキッチン家具や道具が配置されているので、お手伝いをしようとしてもかえって邪魔になる。


 だからアネモネは、ソレールが手際よく最後の仕上げをしているのを見守りつつ、食器棚から取り皿やフォークやグラスをテーブルに並べる。


 ソレールの自宅の食器は無地のものがほとんどだ。でも、少しだけ小花柄がリーフ模様のものもある。


 アネモネはそっちの方を好んで使う。

 

 もちろんソレールは咎めることはしない。センスが良いねとか、こんな柄があったのかと驚いたり褒めたりしてはくれるけれど。


 やんごとなき令嬢として扱って欲しいわけでは無く、だからと言って空気のように無視されるのも嫌だと思うワガママな立ち位置を望んでいるアネモネは、ほどよく手伝わせて貰えるこの環境がとても嬉しかった。


 とはいえ、こんなふうにひょんなことから同居するようになった騎士様と食事をするのが当たり前になるなんて。


 まったく、人生とは何が起こるかわからないものである。


「アネモネ、悪いが籠の中のものも並べてくれるかな?」

「はぁーい」


 言われた通りテーブルの上に置いてある籠の蓋を持ち上げれば、中にはふっくらしたパンが入っていた。


「……小きつねと小ウサギがいる」


 こんがり焼けた小麦色のパンと、ふっくらとした真っ白なパンを見てアネモネの唇は弧を描く。可愛い。そして美味しそう。


 ごくりと唾を飲む。一つだけつまみ食いをしたら、ソレールは怒るだろうか。


 いや善人の代名詞とも言われる彼がこんなことで怒るわけがない。そうだ、絶対に……。


 そんなふうに、アネモネが心の中で自問自答を繰り返しながら、そっと手を伸ばした瞬間、ソレールが振り返って口を開いた。


「アネモネ、ちゃんとお皿に並べてから食べようね」

「……はい」


 予想が外れてがっかり感は否めないけれど、アネモネは不平不満を口にすることなく素直に子キツネと子ウサギを見栄え良く皿に並べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ