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俺と占い女②

「お待たせ〜」

 数分もすると、とも子さんはトレイの上に2つのカップを載せて歩いてきた。それを俺の前と、とも子さんの席に置く。とも子さんはトレイをテーブルのうえに置き、俺の正面へと腰をおろした。

「すいません、いただきます」

「どうぞ」

一言断ってからカップに入ったコーヒーをいただく。あまりコーヒーには詳しくないが、芳醇な香りとでも言うのだろうか、インスタントとは違いいい匂いがした。味も苦すぎず、飲みやすい。

「コーヒーの味はどうかしら?」

「はい、おいしいです」

 とも子さんから感想を聞かれ、おいしいとだけ伝える。こういうとき自分がコミュ障なのを実感してしまう。本当は「豆から引いてるんですか?」「インスタントとはやっぱりちがいますね〜」「俺あんまりコーヒー詳しくないんですけどおいしいですねこれ!」みたいな感じで話を広げるべきであろうが俺にはできなかった。

 一瞬の沈黙のあと、とも子さんは今日の本題について話し始めた。

「さて、今日田中くんが来た目的は占いだったわね。まずここのことについて説明すると…」

 とも子さんはこの占いの館について教えてくれた。

 もともとは父親の会社で働いていたこと。占いはずっと趣味でやっていたこと。ずっと占いのお店を開きたかったこと。お金をため、ちょうど今年の4月からこの館をオープンしたこと。なぜこんな場所を選んだかというと、この洋館が気に入ったことと破格の値段で借りられるから、だそうだ。

「かなえにはやめろって言われてたんだけどね〜。絶対流行らないし、そんな辺鄙なとこ誰も来ないわよって」

 そう言ってとも子さんはコーヒーをすする。確かにこんな駅から途方もない距離を歩かないといけない占い館になんてだれも来ないだろう。部長の言うことももっともだ。

「でも占いの腕に自信はあったし、口コミでなんとかなると思ってのよね。でも実際は…」

「来なかったというわけですね…」

「そう…。残念なことにね〜。それでかなえに泣きついたら田中くんが来たってわけなの」

 とも子さんはまた1口コーヒーをすする。ということはつまり俺がここに来た本当の目的って…

「もしかして俺に口コミを広げる一人目になれってことですか?」

「そう!田中くんには申し訳ないんだけど、かなえはそのつもりで田中くんをよこしてきたみたい」

 つまり話をまとめると、この前の失敗のためのご機嫌取りというのは建前で、本当は友人を助けるために部長は俺をここに向かわせたというわけだ。確かによく考えてみれば、この前の失敗について謝罪に行くのに部下がお嬢さんのお店に行きました、ではせいぜい世間話にしかならないだろう。最初から部長には別の目的があったのだ。

 出しにされたことがわかると、俺は急にムシャクシャしてきた。いや、馬鹿らしくなったというのが正確だろう。失敗を挽回するために頑張ろうという気持ちがスーッと消えていった。

「それならそうと部長も言ってくれればいいのに…」

「本当にごめんなさいね?でも占いには自信があるし、ちょっとこのことを友達とかにしてくれればいいから…」

 そう言ってとも子さんはポケットからカードを取り出した。とうとう占いとやらをやるんだろうか。正直自分としてはさっさと終わらせて帰りたい。ちなみにこのことを伝えるような友人はいない。

「それじゃ、始めるわね…」

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