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1話 俺と部長①

「あっついなあ…」

 まだ5月だというのに気温は30度超え。まるで夏のような炎天下の中、真っ黒なスーツに身を包んでいる俺はため息を付きながら歩いていた。

 俺は田中太郎。ごくごく平凡に生きてきた新卒社員だ。去年、苦しい思いの末やっと内定を手に入れ、そのあとは天国のような毎日を過ごしてきたが、4月に入りとうとう社会人の一員になったというわけだ。

 ちなみに一見ふざけているような俺の名前は紛れもなく、正真正銘本名である。

 さて、なぜ俺が就活のとき来ていたリクスーを来てこんな暑苦しい道を歩いているかというと、話は2時間ほどまえに遡る。



 「田中くん、ちょっと来なさい」

 いつもどおり規定の時間より30分前に出社していた俺は、朝一で部長に呼び出された。

 うちの部長はめずらしく女部長である。昨今の働き方改革の影響だろうか。この部長は30歳にして課長となり、翌年には部長になるという驚異的な経歴を持つお方だ。振り分けられた仕事は完璧にこなし、営業成績は常にトップ。部長になったのは誰もが知る有名財閥企業をゲットしたことがきっかけではないかと言われている。

 仕事だけでない。見た目も完璧であり、社内で告白された数はいざ知らず、外で歩くだけでナンパは当たり前だとか。実際俺から見てもその美貌は凄まじく、黒髪ストレートのポニーテール。言わずもがなボン!キュッ!ボン!とても30超えには思えない顔立ち。社員の中にはファンクラブもあるぐらいである。

「田中くん!?」

 おっと、また妄想してしまっていた。俺にはよく空想にふけってしまう癖がある。気をつけなければ。

 しかし、まだまだ下っ端の俺は部長に呼び出されることなどほとんどないので、内心おどおどしていた。

「(まさかこの前失敗したことじゃないだろうな…)」

 実はこの数日前、俺はとある失敗をやらかしていた。というのも、俺が新卒で入社した会社はいわゆる商社で、職種でいえば営業職で採用されたのだった。

 4月からの研修を終え、先輩とともに初めて客先に出向いた際やらかした失敗は以下の5つである。


①キョドりすぎて挨拶の時点で変な人認定される

②それにともない動揺した俺は何もないところでコケる

③名刺交換の際に自分の名刺を忘れる

④出されたお茶を一気飲み

⑤以上のことをした結果、相手先は激怒


 …まあ最後のはそれ以外4つの失敗のまとめみたいなものだから数に入れるのはどうかと思うが。とにかくここ数日俺はこの失敗のことが頭から離れないでいた。

 部長は自分の席ではなく会議室に俺を呼んだ。この部長は普段は優しいが、営業成績の悪い社員には容赦なく叱責するとのもっぱらの噂がある。このときの俺は(死んだな…)と怯えていたが、部長から出た言葉は俺の失敗に対するものではなかった。

「田中くん、君にやってもらいたいことがあるの。それは…」

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