*瑠璃について
本日の四話目は胸糞ではないですがやや重めです。緩和する為に独白形式にしてます。
もしかしたら後で普通の会話形式にするかもしれませんが内容は変わらないので安心してお読み下さい。
——おにちゃん、おにちゃんてば!待ってよぉ
瑠璃はそう言っていっつも俺の後にくっついてきていた。
俺は妹に追いつかれると負けた気がして、いつもくたびれた瑠璃の足が止まるまで走ったりしていたよ。
そして瑠璃が5歳、俺が8歳になった頃だった。
いつものように公園で遊んでいたら後ろをトテトテと着いてきていた瑠璃が地面に転がった。
よくぜんまい仕掛けのおもちゃのネジが切れたように、なんて比喩があるけどそうじゃない。
あれはゆっくり止まっていって最後まで少しは動いているからな。
瑠璃は本当にコテンと、それこそ時間が止まったかのように走ったままの体勢で突然転がったんだ。
最初はふざけているのかと思ったけど、振り返って見る瑠璃は指先すら微動だにしていなかった。
俺は動かない瑠璃を背負って公園から泣きながら帰った。
途中で腕の感覚が失くなったけど、何度も何度も休憩してさ。
やっぱり俺はお兄ちゃんだからって歯を食いしばって瑠璃を家まで連れて帰った。
それからは色んな医療機関で調べて貰ったよ。
瑠璃は死んでいるようで死んでいなかったから。
自発呼吸こそしていなかったけど、そもそも必要としていないようだった。
心臓だけは微かに動いているらしくて、その理由が分からないと偉い学者までが瑠璃をつぶさに調べた。
俺はお兄ちゃんとして何もしてやれなくて悔しかった。
そして瑠璃が倒れて半年くらい経った頃だったかな?瑠璃と同じような症状で倒れる人が世界中から出てきた。
瑠璃が感染源じゃないか?なんてしきりにワイドショーが報じていたから聞いたこともあるだろう。
俺は何もしていない瑠璃が悪者扱いされたのが悔しくて悔しくて、毎日泣きながら眠っていたよ。
皮肉にもそうやって患者が増えた事で病気の研究が進んだ結果、患者達の脳には無意識下で夢を見ているような動きがある、と分かってきた。
そこで研究者達がどうにか夢を解析できないか、と調べていて偶然見つけたのが迷宮だった。
それから一年程が経って患者の迷宮に他の人の意識が入り込める、という事が分かったらしい。
その辺りは皆もニュースなんかで知っているんじゃないか?
初めて迷宮症候群を発症した瑠璃に意識を潜り込ませてくれた人達は全部で六人。
まだ迷宮の事なんて誰も分からなかったからそのほとんどが研究者だった。
そしてその誰もが帰って来なかった。
初めての探索でいきなりの迷宮遭難事件ってワケだ。
遭難した人達は迷宮症候群が発症しているわけでもないのに現実世界では意識が戻らないという状態だった。
まさに打つ手なし。俺は絶望していたよ。
それからまた一年くらい経ったかな?その頃に発足したのがここLAMA、つまり迷宮管理協会だな。
ちょっとずつ迷宮を解析してどういったものなのか分かってきたんだろう、この頃に初めて迷宮症候群の快復者が出た。
その時に探索者として潜っていた虎市 才蔵という人が現在の協会会長だな。
快復者が出た時は本当に踊りだしたいくらい嬉しかったよ。
だって瑠璃も快復する可能性があるって事だろう?
そのうち快復した人の数も二桁に届き始めた。
そこで何回も迷宮に潜った経験のある探索者が四人、瑠璃の迷宮を攻略しに潜ってくれた。
ここはきっとみんな知らないと思う。
言っていいかも分からないんだけど……ここまできたらいいか。
その人達もみんな帰って来なかったんだ。
さっき言っていた心の隙間っていうのもきっと見つからなかったんだろうな。
大丈夫だぞ、坊主って頭を撫でてくれたおじさんも、無言で飴をくれたお兄さんもみんな戻らなかった。
それからは誰も瑠璃に近付こうとしなくなったよ。
ニュースでは快復者が出る度に大きく報じられて、その度に気が狂いそうだった。
なんで瑠璃だけが、どうして妹が?
なら俺がこの手で瑠璃の迷宮を攻略してやるって、そう誓ったんだ。
俺がここにいるのは……まぁそんな理由だよ。
あと、なずなはこの俺が小さかった頃からずっと側で寄り添ってくれてたんだ。
もういいから自分の人生を歩んでくれと何回もお願いしているんだけどな。
おっと、これを言うと怒るんだった。
だからここら辺で止めておこう。
きっと聞いているみんなも苦しくなるだろうしな。
でも大事な妹の事を初めてこんなに詳しく話せて……実はちょっと嬉しいんだ。
昔は大々的に新聞やテレビで報道されたけどぱったり続報が流れなくなってみんなに忘れられているだろう妹がまだ生きているって知って貰えるのはこんなに嬉しいもんなんだな。
聞いてくれてありがとう。
これは短い話なので14時すぎに次話を更新します。
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