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ゼスティア戦記  作者: パリンクロン
始まりの日
8/13

閑話:蠢く悪意

 とある人物がとある男に呼び出される、それは知る人ぞしるよくある光景であった。

呼び出された男は呼び出した男の部屋の前で、いつもの通りにノックをする。


「誰だ。」


重厚な声が部屋の中から聞こえる。


「ミケルス=カカポイオスにてございます。プロトス様」

「お前だったか。構わん。入れ」


部屋の主からの承認を受け、ミケルスと名乗った男はそそくさと部屋の中に入る。

ミケルスが部屋の中を見渡すとその中心にプロトスと呼ばれた男がいた。


「大事な話がある。外してくれ。」


彼はそうメイドに告げるとメイド達は頭を下げ、部屋を出る。


そのやり取りの間、ミケルスはそれとなく部屋の中を伺う。

目の前には豪華絢爛というものを体現したかの様な景色が広がっている。クリスタルで出来たシャンデリラ、金の宝飾で整えられた家具、そして執務机にはクリスタルのグラス。

どれも華美だが決して厭らしさはない。

この男のセンスと身分が十分に理解できる部屋だ。


「報告は聞いた。太陽(・・)が見つかったそうだな。」

「その通りでございます。現在は我が国辺境の『アーチス』にて目撃したとの情報が入っております。」


一呼吸置き返事を返すミケルスをプロトスが険しい目つきで睨む。


「誠なんだろうな?」

「誠にてございます。私自慢の諜報員による情報でございます。」

「しかしながら、これには追加で悪い情報がありまして…」


ミケルスはたじたじと汗を拭きながら、申し訳なさそうに顔を伏せながら話を続ける。


「太陽の周りには三人の厄介者がついています。帰還者(リターナー):バルガス、四元素魔術師エレメントマスター:ルアナ、元王国近衛騎士団副団長:アルファ」

「三人とも実力者故こちらで中々手を出しにくいかと。」


その報告を聞き、プロトスが返す。


「この上なく厄介な三人だな。あの堅物(アルファ)までいるとは。確かにあやつは太陽の母と懇意の仲だったな。」

「その上、アーチスを代表する新進気鋭の商家『クリーシ商工会』の庇護下にあるとの噂です。」


プロトスの言葉を遮るように、ミケルスは追加の情報を口にする。


「本当に厄介な…」


自らの顎に手を当て逡巡するプロトス。しばらくの後口を開いた。


百の一なる猟犬(ハウンドドック)に掃除をさせろ。正し、ルアナは確実に生け捕りにしろ。確実にだ。」


プロトスは厳しい口調でミケルスに命を下そうとする。


「しかしながら本当によいので?彼らは優秀な暗殺者ではありますが、少々素行に問題があります。アーチスは交易もある重要な拠点です。町に少なくない被害が出ると思いますが。下手をすれば町人が逃げ出すことも考えられます。」


自分の提言によって目の前の男の意見がそうそう変わることはないと知りながらもミケルスはその意思を再度確認をする。

彼は無垢なる町人や町自体の生産力が落ちるのを危惧していた。


「あの町に貴族はいないのだろう?丁度良いではないか。仮にあの町が空になったら私の手の者をアーチスに送り支配させる。」

「もちろん対面は守る。先ずは、引き渡しの通告を出す。まあ、どうせ引き渡しの等しないだろうから共に奴らを向かわせることにはなるが。」

「ミケウスあの町が生み出す国家への利益に関しては私も理解はしている。無碍に扱うつもりもない。今回はあの町の非信心共を排除して、しっかり国教を信仰させたうえ、貴族が正しく治める正しい町にしてやろう。一石三鳥じゃないか。」

くくくと笑う。


 「再度確認するが、月の方はちゃんと処分したんだろうな?」

悪辣な笑顔をとめ、プロトスは質問をする。

それはもちろんでございます。


「あの、弱小商家め。登城を断るだけでなく夜逃げをしようとするなど、けしからん。これだから平民という者共は…」

「私の代に月と太陽の両方が誕生し、双方共に我が手から逃れようとするなど、なんと忌々しい。」

「仮に手に入らないなら確実にわが障壁になる。特に太陽は出自ゆえにな。今、確実に消さなければ。ミケルス手配をしろ」

「イエス、ユアロイヤルハイネス」


ミケルスは胸に手をあて恭しく一礼しようとする。

「もう違うだろ?ミケルス。いくら付き合いが長く信頼に足るお前とはいえ、親しき仲にも礼儀ありだ。」

「大変失礼いたしました。平にご容赦を。仰せの侭に、ユアマジェスティ」

踵を返しミケルスは部屋をでる。


一人残るプロトスは誰もいない部屋で誰かに伝えるように言葉を紡ぐ。

「この国は私のものだ。訳のわからん伝承に左右されてたまるか。そして、お前もだルアナ。わが妾の誘いを断るとは。何たる不届き者か。確実に慰み者にして己の選択を後悔させてやる。奴が壊れるまで、たっぷりと可愛がってやろう。」

(きた)る未来のことに胸が高鳴り、たくまずして笑いがこみ上げる。

彼の企みに答えてくれるのは部屋にこだまする自身の笑い声だけだった。


 岐路、ミケルスは勅命を果たすために急ぐ。

数年前より俄かに寂しくなった商店街を抜け、人通りの少ない寂しい路地に迷い無く入る。

植物の根のように狭く絡み合う道を抜け、彼はある酒場の前で歩みをとめる。

その酒場は建物自体は古いものの、明らかに立地に不釣合いに大きな建物だった。

その奇妙な風貌に臆することなく、慣れた様子でミケルスは店の中にはいっていく。

店に入ると店員にカウンターへ促される。そこには他に比べ一人年経た男が作業をしていた。

ミケルスを確認した男が話しかける。


「またあんたか、いらっしゃい。今日も・・・一杯やっていくだろ?いいのが入ったんだ。」

「やあ主人。おかげ様で()の手も借りたいほど忙しくさせてもらってる。せっかくだからキツイのを頼むよ。」

「じゃあ、これだな。」

その声とともに赤黒い液体が入ったショットグラスとつまみが渡される。


「ところでいつも飲んでるお連れさんがいるんだが、一緒にやるのかい?」

「そうだな。一声かけてもらっていいか?」

「あいよ」

1分も立たないうちに、一言残し奥の個室に向かった店主が帰ってきた。


「構わないとさ。」

「助かる」


ショットグラスをグイっと呷り空にする。

よく(ふす)べられた香りが鼻腔を抜ける。


「本当にいいものじゃないか。」


喉がかっと熱くなった後につまみの柑橘果物の蜂蜜漬けを食べる。確かな酸味が熱を冷まし豊かな余韻を残した。

いつかはここに普通に来店して心から酒を楽しみたいと、なかなか叶わないであろう望みを新たにし、案内された部屋に入る。

そこには隻眼の男を中心とした数人のグループが酒を煽っていた。


ミケルスは案内した者に「先ほどと同じものを人数分たのむ」と声をかけ、1枚金貨を握らせる。

彼が立ち去るのをみると部屋のドアを閉める。


「さすがあんたはわかってるじゃねえか。次期王(・・)お抱えの貴族はやっぱり違うねぇ。」

ぶっきらぼうな語りかけの隻眼のおとこが喜色満面でミケルスに話しかける。


「さっき店主に勧めてもらったんですが、とてもよかったです。ショットグラスは好みではないかもしれませんが、是非試してください。」

なんて耳がはやい男だと感心し、隻眼の男が振った話題をやんわりと避ける


「俺の好みまで心得てるとはますます持って惜しいな。あんた俺の仲間にならないか?」

「お戯れを。過分な評価、有り難く存じます。」


そんなやりとりをしてると、間を測ったように戸を叩く音がする。

「構わん。」


ミケルスの眼前の男が言い放つと戸が開かれ店主が現れる。


「ご注文の品だ。どうやらあんたは気に入ってくれたようだな。わざわざ取り寄せた甲斐があったよ。」


人数分ショットグラスが置かれる。


「先ずは乾杯だな。」


その音頭が放たれると全員グラスを掲げた後呷る。


「ほぅ。コレは本当に良いものだな。」


男が目を丸くしてショットグラスを傾ける。他の者たちもどうやらお気にめしたようだった。


「コレは幸いにてございます。」


ミケルスは恭しく一礼する。

その直後空気がかわる。


「ずっとあんたと飲み交わしたいとこだがそろそろ商談(はなし)を始めようか。今回も当然ヤバイ話なんだろうな」

「恐れ入りながら…」


 彼らの話が始まると、戸の前で人払いをしていた店主がカウンターに戻ろうと動き出す。

廊下には反響する店主の靴音以外何も聞こえない。

…一人の邪な願望から生み出された悪意が渦を巻きゆっくり蠢き始めた。



それぞれの二つな持ちの解説はおいおい本編で語られる予定です。

現実のよびかたとは少し違うと思いますがそこは異世界ということでご了承をお願いします。


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