語られる魔術と明かされる彼の瞳
説明回です。
子供達に揉みくちゃにされた二人はぐったりとしながら、フォスの家へとむかった。
しばらく歩いた後、木柵が一般的なアーチスでは珍しい石垣作りの家が見えてきた。屋敷と言っても差し支えない大きさである。
フォスの父親が元騎士であったということが影響しているのだろうか。安全を重視した少し重厚な作りのようにも見える。
門を通り家の中に入る二人。居間に到着し、ぱっと中を見ると見慣れない格好をした妙齢の女性が椅子に腰掛けていた。
その女性は入ってきた二人を確認するとこちらを向きおもむろに口を開く。
「やっときましたか。遅かったですね。」
聞いていて安らかになる、その柔らかな声の持ち主は、普段のフォスの母親としての格好ではなく高名な魔術師ルアナの姿だった。
二人が遅刻の経緯を話すと、彼女はどこか悲しそうにそして、少しだけ嬉しそうに笑った。
「まさかあなた達に魔術を教える日が来るとは、月日の流れははやいものです。できればこの日が来ることの無いように願っていました。(…バルガス、結局あなたの言うとおりでしたね。)」
なにかを考えながら、少し遠くのほうを見つめながらルアナは一人囁く。フォスとマイナスの二人にはその声は届くことがなく、ただ何かをぼそぼそ呟くルアナの姿を首を傾げて見つめるだけであった。
一瞬その様な姿を見せると普段見せる彼女の姿とのギャップに呆けている二人に意識を戻し近くのテーブルへの着席を促しつつ話を進めた。
「まずは基本的な知識の確認をします。とても大切なことなので。」
二人が着席すると、慣れた所作でルアナの講義が始まった。
「この世界には魔法と魔術が存在し、魔法は誰にでも扱え魔術はそうではない。そして、魔術を使える者は非常に少ない。これはなぜだかわかりますか?」
「はい!」
そういって手を上げながら身を乗り出してアピールするフォス。
その愛くるしい姿をみてルアナ微笑を浮かべ彼を指名する。
「はい。ではフォス、お願いします。」
「それは、魔術には精霊と契約をする必要があるからです。そして、魔術を使う人が少ないのは、精霊と契約することができる人間は数が少ないからです。」
自身満々に答えるフォス。
「さすがですね。」
ルアナはにっこりと微笑む
「魔法とは魔力を持っているものなら誰でも使えるもので、自身の持つ魔力のみで発動する術の総称です。主に身体能力強化や物質に対する硬度付与等にで用いられ農業、工業の従事者に対して多大な貢献を上げています。それに反して研究者は異様に少なく、まだまだ未開発なものという意見もあります。一方、魔術とは自身の持つ魔力と契約対象の持つ力を混ぜ合わせることによって発動する術の総称です。精霊等から力を借り受けるだけあって、似たような効力のものであっても魔法とは比べ物にならないくらい強力なものが多いです。ここまではいいですか?」
一呼吸置き、こくこくと頷く二人を確認すると彼女はそのまま話しを続ける。
「そして、精霊との契約に成功した者が魔術師と呼ばれます。特にこのエクスロス大国では魔術師の絶対量が圧倒的に足りていないので重宝されています。」
ルアナは魔術師の説明が板についているようで、子供達二人も理解はできている様子だ。
「では何故魔術師が重宝されるのかわかりますか?」
「強い相手を倒すことができるから」
「強い相手に出会っても守ることができるから」
少年たちは目を輝かせながら即答をする。その二人の様子を見ると額に手を当て溜息をつくような表情をして二人に優しく指摘をする。
「確かに魔獣や魔物の討伐が先行されるきらいがありますが、それよりも大事なのは彼らには契約用紙の作成が可能だということを決して忘れないでください。契約用意を作成するのに魔術師の力が必要不可欠なのです。魔術師を増やすために魔術師が必要。契約書を作成できるというだけでも最低限食べていくことができるようになるはずです。覚えておいてくださいね」
ね!!と語尾を強めて二人を見つめるとその有無を言わせない瞳に見つめられ、少年たちはブンブンと顔を上下に揺らす。
「わかってくれて何より。では次です。契約できる精霊にはどの様なモノ達がいるかしっていますか?マイナス」
突然のルアナの問いかけに迷いながらゆっくりと答えるマイナス。
「火の精霊、水の精霊、土の精霊、風の精霊、あとバルガスが今日、光の精霊がどうたらって。。。」
「マイナスもすばらしいですね。光の精霊との契約は実例が非常に少なく、現在エクスロス大国では光の属性を持つ魔術を扱えるもの非常に希少で、きっと重用されることでしょう。」
「そいういう経緯もあるので、契約できる精霊とはここエクスロス大国だと一般的に4大元素の精霊のことを示すものだと考えてください。」
「また、契約自体は必ず精霊と行わなければいけないものではなく、より上位の存在と契約して魔術を使用する魔術師も一部存在します。」
「はい。お母様質問があります。」
ルアナの説明が終わるタイミングを計ってこれまた、身を乗り出し、ピッときれいに手をあげるフォス
「はい、なんでしょう。」
フォスの気迫に負けてついつい指名をしてしまう。
「今、上位の存在という話がありましたが、どのような存在がいるのですか?」
目をらんらんと輝かせて質問をする。
「せっかくなので覚えておいたほうがよいでしょう。精霊以上の上位存在には属性獣、属性龍、そして属性神等の存在が確認されています。」
「まずは属性獣ですからですね。かの者たちとの契約している者はかなり多く、火のケットシーや風のクーシー等の人と関わりを持つのが好きな属性獣がかなり有名ですね。かの者たちは個体数も多く、契約条件も条件の緩く臨んで契約を結ぶ固体が多いため姿を見かけることも多いはずです。」
「次は属性龍です。彼らは個体数も非常に少なく、理知的で強力な力を持つ分、契約も非常に厳しいものです。実は属性龍との契約に成功した魔術師も実は存在していて、水のリバイアサン、土のヨルムンガンドと契約を行うことに成功した者がいるという話はとても有名なものです。」
そして少し間をあけた後こう続ける
「そして最後が属性神についてのお話です。大小あわせると様々な神が存在しますが、特に有名なのが、風のアウラ、水のオケアノス、土のレアー、火のヘスティア、そして光のアポロン。おそらく聞いたことくらいはあるはずでしょう。なぜなら、彼の存在はエクスロス五神教に名を連ねる神々だからです。アーチスは五神教の御膝元から離れているので教徒はかなり少ないですが。」
ルアナはフォスの頭を撫でて、やさしく言い聞かす。
「残念ながら属性神との契約に関しては眉唾物の伝承が残っているだけです。伝承によると属性神と契約を行うことができた魔術師は彼らと同じ色を持つ『瞳』のとても強力な『加護持ち』だったそうです。そして、彼らこそが五神教の開祖である五大老です」
そこで、一旦流れるように続いていた説明が終わる。
「五神教の教徒なら必ず知っていることなのですが、国境にあるここでは影響力が非常に薄くあなた達は知らないでしょうから伝えます。」
一瞬の静寂が訪れた後、ルアナは何かを決心したようにフォスを見つめる。
「五大老は属性神から強力な加護を得ていたとされています。特に特徴的なのが瞳、加護が発現する際彼等の瞳が煌めいて見えることから畏怖を込め『魔眼』呼ばれていたらしいです。」
一呼吸置いた後、ルアナは続ける。
「彼らはその加護故、現界した属性神と同じ瞳の色をしてたと伝えられています。火神は翠、風神は黄、土神は白、水神は紫、そして、、、、太陽神は蒼。」
「いつかはわかることだったのです。きっと、それは今日だったのでしょう。フォスあなたの瞳は何色ですか?」
悲しそうに俯き物憂げな表情でルアナはフォスに告げる
「蒼…」
ぽつりとフォスはつぶやく
「もちろん、伝承の様に神と契約できるわけは無いですが、おそらく強力な『加護』を授かっていることだけは確かでしょう。光の魔術も使える可能性が高いですね。もし、あなたが魔術を覚え、外に出るというなら運命があなたたちを放っておくわけがありません。多分に困難な出来事に否応無く巻き込まれるでしょう。」
俯ていた顔を上げ二人を見る。
「これがあなたたちに魔術を教えなかった一番の理由です。」
「そして2番目の理由は、あなたたちが膨大な魔力をもっているからです。あなたたちのように膨大な魔力をもつ者が、魔術の使い方を違えれば大きな破壊をもたらすものとなります。適切に判断ができるようになる年齢までずっと伏せておきました。本音を言えばこのまま魔術など使わずに平穏にずっと暮らしていければよいと何度思ったことか。
「あなたたちも、もうじき大人になる、誤った使い方もしないでしょう。そして、万が一魔術師と対面した際、正しく対処できるようになっておいて下さい。魔術とは決して便利な強い力という訳ではないのです。」
自分の胸のうちの思いを告げたルアナが二人の少年のほうをみる。が、そうなのだが、思ってた反応と違うことに彼女は驚く。
「まじかすごいな!珍しい瞳の色だなと思ってたら、それ魔眼だったのか。」
一人の少年は、俄かに色めき立ち親友に話しかける
一方、もう一人の少年は心ここにあらずの様子でか細い声で呟く。
「僕が『魔眼』の保有者…」
友の衝撃の事実に色めき立つマイナスは、ルアナが暗に示した重要なメッセージに気が付くことがなかった。