ある昼の一幕
ちょっと長くなりそうなので、話を短くきりました。
突然呼ばれた声に何事かと振り向く二人。そこには銀髪の一人の少年が頬を膨らませて立っていた。
「今日、魔術の練習をする約束してたよね。」
ぷりぷりと怒りながら、つかつかと近づいてくる。
「二人とも知ってたよね!」
ピシャリと言い放つフォスの様子を見て、マイナスは確かにその約束をしていて、それは本日だということを思い出す。
「マイナスが魔術の勉強をしたいというから、お母様に何度も頼んだのに。」
ルアナは高名な魔術士で、アーチスに移住した後も魔術士組合に所属し、魔術絡みの様々な依頼を受けている。また、彼女は後続の育成にも熱心で度々魔術の指導も行っている。
しかしながら、彼女はマイナスやフォスに対しては、魔術を教える関しては及び腰で二人の再三の頼みにも首を縦に振ることはなかった。 -最もバルガスはマイナスにある程度魔術の教育を行っていたのだが-
今回はもうじき成人となり旅に出るのに必要になるため、フォスが何度も頼み込みようやく了承を得た。
「「すまん(かったの)」」
ぼりぼりと頭をかきながら、照れくさそうに謝る大男二人。
「ま、まあ、始まる前に合流できてよかったじゃねえか」
とマイナスが軽口を叩きごまかそうとする。その態度がお気に召さなかったようなのか、銀髪の少年はますますほほを膨らませ怒る。
「全然待ち合わせの場所に来ないから、すっごい探したんだよ!心配もしたし。せっかくお昼ご飯持ってきてあげたのに、もうあげない。僕が3人分食べる。」
そう言ってぷいっとそっぽを向く。
「「すいませんでした!!!」」
その発言の刹那、大男二人は背筋をのばし、両腕は体の両脇にぴったりとつけ、体を45度に傾けて最敬礼。
「本当に悪かったって、ごめん」
マイナスはとてもぎこちないつくり笑顔を浮かべフォスの肩を揉む。バルガスは「年寄りの楽しみを奪わんでくれ」と高速で手を揉み、オーバー気味なリアクションをとりながら、必死に懇願する。
そんな二人の姿をみて、少し気をよくしたのだろうか、フォスが優しくため息をつく。
「もう、二人とも調子いいんだから。しょうがないあげるよ」
フォスは手に持っている大きめのバスケットにかかっている布をはずす。
大きめの葉っぱに包まれた、油が贅沢につかわれたであろう黄鷹のもも焼き。ここからでも匂う香り豊かな豚猪の燻製肉をつかったサンドウィッチ。
この二つの姿を見た二人は視線をもう、動かすことができなかった。
「マイナスよ、お主の料理も男にしては中々じゃがこれには勝てぬの。全くフォス坊はいい奥さんになれそうじゃの!」
ふぉふぉと笑いながらマイナスを一瞥し、バスケットの中身を取ろうとする。
「一応言っておくが、あいつは立派な男だからな。ルアナさん泣かせの料理ができるが。」
こちらも話ながらバスケットに手を伸ばそうとする。するとバスケットがさっと身を引くのだ。
「二人とも、忘れてることない?」
「??」
大男二人組みは小首をかしげ互いに見つあう。
「手をあらうの!近くに川あるでしょ!行ってくる!!」
ピっと川の方を指差し二人を追い捲くる。
「いかないとあげないからね。」
こうなっては仕方がない二人とも観念して手を洗いにいく。…駆け足で。こうして二人は無事においしい昼食ありつくのだった。
昼食が終了した後、マイナスがぎりぎり聞こえるくらいの声でつぶやく
「フォス、ありがとな。」
「料理は得意だからね。ぜんぜん大丈夫」
胸をはり、むふーと荒く鼻息を出すフォス
「いや、そういうことじゃないんだが、ま、いいか」
あさっての方向を向きながら、そう誰にも聞こえないように呟き話をそらす。
「一応訓練もひと段落したし、ちょっとフォスの家まで言ってくる。」
そう告げ、マイナスが移動を開始しようとした瞬間、
「ちょっと待つんじゃ。」
それをとめる声がした。その声を出すや否やバルガスがもらい物でパンパンになったかばんをごそごそと物色し、肉と果物をいくつか布に包みマイナスになげる。
「弁当も持ってきてもらったしの。おすそ分けじゃ。もっていけい。」
「そうだな。」
ははっと笑い、パシっとキャッチ。バルガスからの荷物を受け取る。
「じゃあ、いってくる。訓練途中で抜けてしまって悪いな。」
本日一番の笑顔を見せ、マイナスは手を高く上げしばしの別れをつげる。
「ん?訓練なら夕餉の後でも、寝る前でもできるじゃないか。メニューは多少変わるが安心せい。」
動かざること山の如しとはまさに彼の意見のことだろう、マイナスは、はっきりと自分の運命が変わらないことを告げらられると、がっくりと肩を落とす。
そんな黒髪の大男の情けない姿をみて親友は声をかける。
「元気だしなよ。ようやく今日魔術おしえてもらえるんだし。さ、いこ?」
銀髪の少年は彼の前に回りこみ上目遣いで優しく見上げそっと肩に手を置く。そして、マイナスを連れて行くのだった。
「ついにルアナが魔術の教えを授けるのを許可したか…。少し厳しいじゃろうが、お主のためにわしができることはなんでもいい、きちんとやっておきたいのじゃ。」
少しずつ小さくなっていく二人をみてバルガスはそうやさしく呟く。
森の木々は風に吹かれ、枝同士が優しく囁きあう。
彼の声はそれにかき消され、二人の若者には聞こえない。
そうして、静かに見送られたマイナスとフォスはほどなく街道の入り口に到着し、待ってましたと言われんばかりの黄色い声に包まれ再びもみくちゃにされるのだった。
自分が思ってより話数が多そうなので、サブタイトルきちんと考えます。