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ゼスティア戦記  作者: パリンクロン
始まりの日
3/13

おかえり

 「やっと見えてきたな。」


 自身がすむ町『アーチス』が見えてきたと同時にマイナスがつぶやいた


 いよいよ町の門が近づくと、アンジェラはそっとフォスを引っ張っている腕をはずし、町の入り口までかけだした。


「ただいま『アーチス』」


そして、くるりと身を翻しフォスを見つめた。


「おかえり、フォス」


そう言った彼女の笑顔は夕暮れの光に照らされとても眩しかった。それを一身に受けたフォ スは白い頬を紅く染め緩やかにはにかむ。それを遠くから見つめるマイナスは平成を装ってはいるが、表情に少し翳りが見える。


「やっぱりかわいいよね。アンジェラは。」


 アステラはマイナスの背後に音も無く忍びより、耳元で囁く。

驚いて振り返るマイナスの表情を一通り堪能した彼女は、今度は彼の視界をさえぎるようにすばやく前に移動した。

 彼女は後ろ手の状態で少し前かがみになり、マイナスの斜め下から悪戯な笑みを彼のほうに向ける。

 その姿勢のせいか、彼女の豊かな双丘はよりはっきりとマイナスに主張をした。


 幼馴染とは言え、アステラもアンジェラに引けはとるが十分に美少女といっていい少女だ。

 背は比較的小さく、幼い顔つきに大きな瞳、そしてその容姿に明らかに不釣合いなプロポーション。

 誰にも等しく愛想よくその愛嬌を振りまく彼女は当然町の同年代の男衆から人気があった。


 そんな彼女からの不意な攻撃にマイナスはたじろぐ。内心しつこいなと思いながら忌々しげに言い放つ。

「ま、まったくお前は一体何をしにきたんだよ。」


 がその説得力は非常に乏しく、年頃の情欲に負けた彼はバレないようにちらちらと主張された双丘に目を向ける。

 ばれないようにコソコソ見ているつもりだろうが、その視線は向けられる当人にはもちろんばれていて、アステラはそっと微笑む。


「もちろんお嬢様(・・・)の護衛だよ。一応こう見えて私そこそこ戦えるからね。」


 彼女は再び猫のようにすっとマイナスの耳元に近づくと内緒話の要領で軽く手を当て壁を作り向こう側に聞こえないように小さく囁く。

「魅力的だからって胸ばかり見るのはどうかと思うぞ。」


 真っ赤になったマイナスを一頻りからかうと満足したのだろうか。

今度は先ほどまでとは打って変わり、柔らかな微笑みに変わる。

それは、決してアンジェラの様にまぶしく輝くものではないが、見てるものに安らぎを与えるものであった。


「そんなに可愛く笑えるなら、ずっとその笑顔でいろよ。」


 散々悪戯な笑みを向けられた後にもらった笑顔は、マイナスから内心で留めておく予定だった言葉を引き出した。


「ーーーーー」


 お互いに見つめあい一瞬だけ二人の時が凍ったかのように止まる。

時が溶け出すと、頬を紅潮させ視線を泳がせるマイナスと能面のように表示が固まるアステラというなんとも微妙なコントラストが誕生していた。


「全く。私を口説いてどうするのよ。」


 ピッと人差し指を突き出し、諭すようにマイナスを説きただす。

その後踵を返すと。「アンジェラ危ないわよ。」と声を遠くに飛ばし少し小さくなった二つの影を逃げるように追いかける。


「…どきっとするじゃない。」

小さくつぶやいたアステラの声は風に揺られ葉のこすれる音にかき消された。


「まったく何なんだよ。」


 ぼりぼりと頭をかき。マイナスは3つの影にゆっくりとついていく。

 マイナスが町の門につくまで3人は待っていた。


「マイナスも、お帰り」


 今度は()にアンジェラは微笑む。


「ああ、ただいま。」


 自身の町についた4人はそれぞれ、一人家路に向かう。

フォスはアンジェラと二人で仲睦ましく、アステラは「じゃあ、またね」と軽く手を振り去っていった。

しばらく3人の後ろ姿を見送ったマイナスもやがて歩き出す。


 完全に光と闇が逆転した時間。マイナスは帰宅した。

「バルガス。ただいま。」


「お、やっと帰ってきおったか。放蕩息子」


 マイナに負けず劣らず大きく、見事な体格を持つ男が彼を出迎える。

すでに老齢なはずなのだが、それを感じさせない筋骨隆々な体躯で髪色こそ見事白髪になっているが肌つやもよく年齢不相応な容姿の老人である。

 『バルガス』と呼ばれた男はマイナスの帰宅の確認すると二カッと笑い、挨拶の返しに辛辣な一言を言い放つ。


「食料を得るために狩に行ってきた可愛い息子にかける言葉かそれ?」


負けじとマイナスも言い換えす。


「もちろんお前さんが本当に可愛ければ暖かい労いの言葉をかけるわい。はー、お前がアンジェラちゃんみたいな可愛い娘ならなー。」


わざとらしくため息をつき肩を竦める。


「…エロじじい。」


バルガスに冷たい視線がささる。


「で、首尾はどうだったんじゃ」


「黄鷹が3ってところかな。あいつのせいで熊に追いかけられる羽目になったしな。別に仕留めてもよかったけど大荷物を入れる余裕もないし逃げ帰ってきた。」


 黄鷹とは翼長1.5Mほどの大きい鳥だ。体積もそれなりにあり、肉もとてもおいしい。1羽しとめたなら、男所帯でも有に4-5日は持つ。熊は残念だったが黄鷹2羽ならかなり上等だろうと内心自信に溢れながらマイナスを報告をした。


「またフォス坊つれて狩りか、もちろん怪我などはさせてないじゃろうな?」


無事に話題を変え内心ほっとしているバルガスは何故かフォスの方の無事を確認する。。


「もちろん。というか俺の心配をしろよ。まず。」


「おぬしは心配するだけ無駄じゃわい。狩場はいつもの森かの?」


「ああ、そうだ。」


「それにしても警戒心の強い熊が人里近くに現れるとはよくないのぉ。なんぞ森で起きたのだろうか。おぬしらの狩場は少し遠いとはいえ、嫌な予感がするわい。」


「念のため確認するが魔物(・・)は現れんかったか?」


「見当たらなかったな。さすがに見かけたら言ってるよ。定期的に討伐しているこのあたりじゃ珍しいからな。」


「マイナスよ。いつもの狩場はしばらく控えておいたほうがよいかもしれん。今日で蓄えも出来たし、控えついでに明日は一日訓練じゃな。」


「まじか。」


 自分に言い聞かすようにマイナスは絶望をかみしめる。バルガスの訓練はとても厳しいものなので、巧まずしてでたマイナスのため息は仕方のないものだろう。


「そんなに嫌がるもんじゃない。全部お前のためじゃ。ワシがいなくなったらどうするつもりなんじゃお前は」


「わかってるよ。それにバルガスがいなくなったら狩人にでもなってのんびり暮らすさ。でも、まだまだ元気でいてくれよ。」

決まりが悪そうにマイナスは頬をかく。


「ほっほっほっ。嬉しいことをいってくれるのう。感謝の印に特訓量はいつもの2倍じゃ。」


「なんだとーーーーー」


 愛息子が放つ魂の咆哮をBGMに「本当に親孝行のいい息子に育ってくれたものだ」とマイナスに対して恥ずかしくて口が裂けても言えない暖かい思いを胸に抱きバルガスは笑う。


「ということでちゃちゃっと晩飯にするぞ。準備よろしく。お前の飯はうまいからの。だれかさんのおかげで。」


「人使いが本当に荒いんだから」とぶーぶー文句をいいながら料理をする息子。


 マイナスの趣味が料理であった。

 動機はある女の子の気を引くためといういささか不純なものだったが、おかげで今では立派なご飯が作れるようになり、男所帯の食事事情が明るくなるのでバルガス的には大いに結構なものだった。もちろんそこに華の存在がないのが少し悲しいのだが。


 本日の夕飯は黄鷹の骨を使った出汁鳥鍋である。


「明日は楽しい訓練2倍じゃ。早うねたほうがいいぞい。」


 食後の片付けをしながらバルガスはマイナスを促した。


「わかってる。今から楽しみだよ。」


 明らかにがっくりと肩をおとして床に向かう愛息子(マイナス)を一人の好々爺が眺めていた。


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