プロローグ
初投稿です。
よろしく付き合いお願いします。
『光の帝国』と後世の人々から呼ばれ、今尚続く大国が存在する。
この国は厳格な身分制度を引きながらも、市民寄りの政策と善政を牽き続ける数多くの王に尽力の甲斐もあり、非常に長い歴史を持つ。
建国から長い月日を経た今でも栄光が衰えない初代皇帝がこの帝国を興し現在の体制の礎を作ったとされる。彼は、美しい容姿と圧倒的なカリスマ性を持つだけではなく、非凡な戦士であり、身分の差なく誰とでも分け隔てなく接する優しい心根をもつ人物でもあったと数多くの史料でも描写されている。
太陽のように眩い彼の元に集い、建国に尽力した騎士団は『太陽の騎士団』と呼ばれ、帝国の話をする際には切って離すことのできない存在であろう。彼らは初代皇帝に纏わる大きな事件の際、その傍らに存在し皇帝を支えていたとされている。事実『太陽の騎士団』は帝国の建国過程に起る大きな争いで、始皇帝と共に数々の輝かしい戦跡を残している。彼らは始皇帝の代から数百年を経た今でも帝国の最大戦力として存在し、大陸中にその名を轟かす。
始皇帝や太陽の騎士団の功績は、数多くの伝記になり、戦記になり、物語になり、そして歴史になった。当然のことながら絵物語や詩、劇等の人気題材となり、それは多くの人に愛されてもいる。
一方、まるで彼らの光に埋もれるように存在し、数多存在する伝記・戦記の一部にしかその名前が登場記載しない集団がある。それが『月の傭兵団』という組織である。
『太陽の騎士団』と対照的な名前を持つこの集団は、史実を見る限り実在したことは確かであるようだが、残存している彼らに関しての記述は異様に少ない。
そも、傭兵団はその職業柄傭兵団同士で敵対関係になることもある為、出自や構成員等々詳細な情報を秘匿する傾向があるが、彼らに関しては特に顕著で意図的に第3者に隠されているきらいさえもある。その証拠に本来、傭兵団であるならばどんな些細なものでも記述を迫る戦攻に類する書類や兵糧等の出費に纏わる書類にまでもその手が伸びている。
戦列者名簿に記載されているのに、帳簿にも戦功にも出てこない。しかしながら、『光の帝国』の岐路に纏わる争いには必ずと言っていいほどその名前が出てくる。
帳にでもおおわれているような奇妙な集団である『月の傭兵団』の解明は、昨今、一部の研究者にとってその生涯をささげるに十分なテーマになっていた。解けない謎がある。解明できていない史実がある。それは彼らをさながら年代もの美酒のように惹きつけ、酔わせる。
現在、帝国の歴史の解明のためと称し現在帝国から遠く離れる『セリノフォト連合』に供を連れて来ている歴史学者エヴァス=アノチョス・ミリーチスも『月の傭兵団』に尋常ならざる熱狂を捧げる研究社の一人である。
自由都市『月光』、大陸西方にある『セリノフォト連合』国内の有力都市にこう呼ばれている場所がある。件の二人は、自由都市『月光』で年に数度定期的に開催される世にも珍しい夜に開かれる市『闇市』に、とある目的の為に参加していた。
闇市では、他では手に入らない珍しい品物数多く取り扱われるだけでなく数多の催しものがあり、連合国内でも屈指の観光名所となっている。
「見てくださいミリーチス教授…この美しい街燈や灯篭を!この美しい光景が年に数度しか見れないなんて本当に残念で仕方ががありません。毎日闇市を開けばいいのに!!」
エヴァスが連れてきた助手…アシメリはクリクリの瞳をおおいに輝かせ、感動にその身長に似合わない豊な胸を揺らし一生懸命訴える。
「それだけじゃなくて、この不思議な品々を…わああ、紙でできたランタンですか?とても綺麗ですね。」
「ああ、紙灯篭か。この国は珍しい共和制の国だから、様々な国のものが流れてくる。特に東の国の文化が多く流れてきているみたいだね。それにしてもこれは美しい。光を遮蔽物を通すことによって緩やかなひかりに変えているのか。…興味深い」
そういってエヴァスは紙灯篭を手に取り料金を支払う。
「こうすることによって君の可愛らしい顔も…こんなに大人っぽく魅力的に。」
そんな気障ったらしいセリフとともに彼は購入したばかりの紙灯篭を彼女の顔に近づけ照らし、そして彼女の愛らしい表情を見るためにそっと自分の顔も近づける。
紙灯篭の儚げな間接光は周りを覆う夕闇を払うと同時に年齢の割に幼く見えてしまう彼女の表情を淡い憂いで大人っぽく色づける。
「はわわわわっ、失礼します。先に会場に行ってますね。」
エヴァスの想定外の動きにアシメリは一瞬言葉を失う。顔を真っ赤にした彼女は早足に去っていく。恐らく異性に耐性がないのだろう。
ちょっとやりすぎたかなと頬を掻き、自分の軽率な行為に対して軽く反省をする。
だが、彼女の慌てる様子がどうしようもなく愛おしく彼は後悔はしていなかった。
エヴァスはアシメリとはぐれることがないように、小さくぴょこぴょこと動く可愛らしい後ろ姿を目で追いゆっくりと彼女を追いかける。二人のお目当てである『闇市』でのみ催される『星光劇』の会場に向かうのだった。
名だたる歴史研究家を悩ます『月の傭兵団』については近年、慮外な場所で手がかりを得ることができた。それが彼らのお目当ての『星光劇』である。
『星光劇』は屋根がすべて透明な素材で覆われた世界で一つの特殊な劇場『光透場』にて挙行される。この特殊な劇場で行われる『星光劇』は化学的な照明は一切使わず星と月の光を用い、必要に応じて魔法で演出する。BGMもすべての楽器に特殊な術を付随して他では聴くこともかなわない特別な臨場感を演出する。
その特殊な事情故、演出に纏わる人員は全員魔術師である。
本来なら人員的な事情で不可能なのだが驚くことに、この劇場には本来人数の乏しいはずの魔術師がかなりの数所属しているので、大規模な演出も可能としていた。魔術で演出される劇は当然のことながら、通常の劇とは表現力という観点で雲泥の差が生じる。
夜にのみ上映される『星光劇』は月の光、星の光、そして魔術光で演出され他でみることのできない煌びやかな演出は多くの人々を魅了していった。当然のことながら、『星光劇』の人気は観劇した旅人や商人の口伝いに徐々に人気を博し、近年ではこれ見たさに『闇市』に訪れる者が増えた。
『星光劇』の演目に、殊更に絶大な人気を誇るものがある。
それは輝かしい経歴を持つ者達が記された英雄譚の影にひっそりと佇む一人の心優しい少年の生涯を綴った物語であった。
息抜きの旅行がてらたまたまその演目を観劇した帝国の歴史学者はその際度肝を抜かれた。
なぜならその物語の主人公が『月の傭兵団』を発足したとされる人物だったからである。その上他の戦記物と異なり、出てくる数字、ありとあらゆる細かな設定が史実に背くことなく当時の様子を非常に忠実に再現されているのだから。
少し考えただけで、この演目の原案となったものが歴史書としてかなりの価値をもつことがわかる人物にはすぐわかる。それは学者も驚くだろう。
しかも、メインの記述が謎のベールに包まれた『月の傭兵団』に関する記述なのだからなおさらである。
学者たちはすぐさま行動を起こし、原案の提供を何度も打診するのだが、にべもなく断り続けられる。国を通じて訴えたこともあるのだが、国を通じて断られる。
『月の傭兵団』に関する情報を知りたい学者たちの唯一の情報経路は遠く離れた地に赴き、人気故に高騰した鑑賞料を払うことのみであった。当然のことながら持ち込みの類が一切禁止されているため、頭の中に情報を叩きこんで帰る。
この二人もそのような学者の一部であった。
この演劇に関する版権元から特別公表された非公開情報はたった一つ。
この演目は、とある手記を元に編纂されたものだという。
その名は『ゼスティア戦記』
その物語の始まりは、何の変哲もない村での和やかかな1日からはじまる。
ちょっとプロローグとしてはわかりにくい部分が多かったので修正しました。