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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

鉄と火の医師

作者:S.U.Y
 一人の人間が、一人のドワーフを訪ねた。それが、一人のドワーフの人生を大きく転換させる、きっかけだった。
 そのドワーフは、名をグジンという。鉱山集落に住まう、ドワーフの一族だ。優秀な鍛冶師であったが、気難しく、わずかな友人の伝手で細かな鍛冶仕事をして暮らしていた。
 グジンは武具の他に、日常品なども打った。包丁などは刃こぼれもせず、研げば研ぐほどに切れ味を増した。鍛冶師としての名声や、富には恵まれなかったものの、グジンはただ静かに鉄を打って暮らしていた。
 そんな時に、訪ねてきたのがグジンの目の前にいる人間だった。若くはないが、老いている風体でもないその男に、グジンは貧弱な印象を覚える。ドワーフ族は山に住まう一族であり、幼い頃から山を駆け巡るため筋骨隆々とした肉体を持っている。グジンもまた、例外ではない。人間の、中肉中背程度の身体つきに、そんなことを思うのも仕方のないことだった。
「……刃物で、人を救う? そんなこと、できるのか」
 その人間の出した注文の品に、グジンは質問をした。何に使うつもりなのか、と。それに対し、人間は人の命を救うのには、どうしても必要な品々です、と答えたのだ。
 人間が注文したのは、人の皮膚を切る小刀、そして傷口を固定する刃の無い鋏み、大小の骨を断つためののこぎり、あとは針などのこまごまとしたものだった。
 グジンと問いかけに、人間はうなずいた。グジンは、鼻を鳴らす。
「刃物で出来るのは、何かを傷つけることだけだ」
 そう言うグジンへ、人間は首を横へ振る。
「いいえ、これは、人の命を救うための刃物です。それを作れるのは、最高の職人である、あなたを置いて他にはおりません」
 じっと、グジンの瞳を覗き込むように人間は言った。しばらくの睨み合いで、根負けしたのはグジンだった。
「……わかった。作ってやる。ただし、使うところを、俺にも見せてくれ」
 グジンの言葉に、人間は笑顔をみせてうなずいた。
 器具は、一晩で完成した。グジンの所には、友人から良い鉄が届けられる。グジンの腕も相まって、最高の出来と自負できるほどのものをグジンは作り上げた。
 器具ができてから、人間がそれをどう扱うかを見る機会は、すぐに訪れた。鉱山で落盤があり、一人のドワーフが巻き込まれて足を潰され、意識を失った状態で治療所へと運ばれてきたのだ。その患者は、グジンの友人だった。
 急ぎ足でグジンが駆け付けると、横たわる友人の側にあの人間がしゃがみ込んでいた。白衣を身に着け、脈を取っている。その人間は、医師だった。
「助かるのか?」
 グジンは、問う。山師にとって、足は命だ。鉱脈を探して歩き、つるはしを振るって岩石を砕く。そのために、足は必要不可欠な部位だった。それが、ぐにゃりとあらぬ方向を向いて青黒く染まりきっていた。これでは助かっても、足は失うことになる。グジンは友人に訪れた人生の終焉を思い、悲嘆にくれた。
「大丈夫です。彼の足は、私がきっと治してみせます」
 人間の声は、平坦ないろだった。恐れるでもなく、驕るでもない。ただ、己の職務に忠実な、職人の声だ。見ていてください、と言う人間に、グジンはじっと目を凝らす。
 人間はまず止血をしてから足の皮膚を裂き、固定した。そして、細く刃の無い鋏みを使って砕けた骨の破片を集め、元の形に組み直す。針と糸を使い、細かな断裂も丁寧につなぎ合わせてゆく。その手つきに、グジンはいつしか呼吸も忘れ、見入っていた。
「これで……処置は終わりです」
 人間の静かな声に、グジンは大きく数回呼吸をした。グジンの全身からは、汗が噴き出ていた。前日に痛飲していた酒が、揮発していくようだった。
「助かった……のか」
 グジンの問いかけに、人間はうなずいた。
「危ない所は、ひとまず。半年もすれば、彼は元のように歩けるようになるでしょう。それまでに、経過に合わせた訓練をする必要があります。私が、そのやり方を教えます」
「あんたが、やってくれないのか?」
 グジンが言うと、人間は苦い顔でうつむく。
「すみません。私は、旅の身の上なのです。ここには、長く留まることはできません。だから、あなたに教えるのです」
 謝る人間を、グジンは押し留める。
「誰にだって、事情はある。そういうことなら、教えてくれ。ついでに、医術についても、教えられる範囲でいいから叩きこんでくれ」
 じっと、人間の眼がグジンを覗き込んでくる。グジンは正面から、その視線を受けた。
「あなたは、鍛冶師です。それに医師なら、この治療所にもいるのでは?」
 人間の言葉に、グジンは首を横へ振る。
「ここの医師には、あんたのような治療はできない。山の薬草を煎じて、膏薬を塗るくらいがせいぜいだ。本業は酒造りでな。だから、大怪我をした連中は手や足を切り落とすことが多い」
 そうして、死んだように余生を送る同胞を、グジンは多く見つめて来た。
「鉱山で働けなくなった連中は、酒におぼれ、すぐに死んでいく。あんたの技術があれば、それは救える命になるんじゃないか、俺はそう思う」
 熱のあるグジンの言葉に、人間は押し黙る。
「……わかりました。これを、あなたに預けます」
 しばらくしてから言って、人間が取り出したのは一冊の本だった。
「これは?」
「私の身につけた、技術の書かれた本です。それは写本ですが、それを手に入れるために私は人には言えないような苦労をしました」
 何気なく受け取ったグジンは、その本をまじまじと見つめた。古びた装丁の本は、何度も読み込まれたのかボロボロになっていた。背表紙は無く、紐で綴じられた紙は分厚い。
「そんな、大切なものを俺に?」
 本から顔を上げたグジンに、人間は笑顔でグジンの作った器具の入ったカバンを叩く。
「これを作ってもらった、お礼です。それに、私はその本を、諳んじることができるほど読んでいます。だからそれは、あなたが読んで役立ててください。命を、救うために」
 人間の眼を見つめ返し、グジンはうなずいた。
 その後人間は、数日の間グジンに訓練の方法を教え、鉱山集落を去って行った。グジンはそれから、人間の残していった本を読み、友人の足を治すための訓練に時を費やした。人間の言った通り、半年もすれば友人は元の通りに歩けるようになっていた。

 それからグジンは、鍛冶の仕事を続けながらひたすら書を読みふけった。怪我人が出れば治療所へと赴くこともあったが、大きな怪我を抱えた患者が出るということはなかった。それでも、集落の医師の診断が間違っていることは多く、酒瓶を片手に治療を行う医師とぶつかることは多々あった。
「我らドワーフには、ドワーフの技術がある! 医術にしても然りじゃ! なんで、人間の技術なぞに頼らねばならぬ!」
 酒臭い息を吐きながら、医師は言う。
「医術とは、種族を超えて真摯に向き合うべきものだ。まずは、酒を控えろ」
 グジンの答えに、医師は顔を真っ赤にして酒瓶を振り回す。
「儂はドワーフぞ! その儂に、酒を捨てろ、と? 少々人間の技術をかじった程度のおぬしが、よくぞ言えたものよ!」
 ぐびり、と医師が酒を呷る。
「おい、飲み過ぎだ……」
 グジンが手を伸ばし、酒瓶を奪おうとする。だがその前に、医師はばたりと仰向けになって倒れた。
「医師が、酒で倒れてどうするのだ」
 呆れながら、グジンは医師を診る。どう診ても、飲み過ぎだった。部屋に転がる大量の酒瓶に息を吐き、グジンは水桶をどんと医師の枕もとへと置いた。内臓も相当痛めているようだが、この医師の老ドワーフは一向に酒をやめようとはしない。遅かれ早かれ、命を落とすことになるだろう。暗い見通しに、グジンは肩を落とす。
 そのとき、治療所の扉が乱暴に開けられた。
「おおい、先生はいるか!」
 叫びながら担架を持って入ってきたのは、集落の戦士団の若いドワーフだ。
「どうした、急患か?」
 出てきたグジンを見やり、若いドワーフはちょっと眉をしかめる。
「グジン、怪我でもしたのか? ともかく、先生を呼んでくれ! 大変なんだ!」
「……先生は、いま寝ている。飲み過ぎでな。患者を連れて来たのか? 俺が診よう」
「お前、医師の真似事してるって聞いたが……大丈夫なのか?」
「大丈夫かどうかはわからんが、少なくとも患者は大丈夫ではないだろうが」
 グジンが手振りで促すと、若いドワーフは不承不承といった様子で担架を運び込んでくる。それは、無残な死骸だった。採掘装束のドワーフが、下半身を何かに食い千切られたような傷口を晒して息を引き取っている。その顔には、恐怖と苦痛が浮かんでいた。
「……もう、死んでいるな」
「そんな! ちょっと前までは、息をしてたんだぞ!」
 声を上げる若いドワーフを横に置いて、グジンは死体の眼をそっと閉じさせた。肉を食いちぎられたショックと失血が、死に繋がったのだろう。
「……鉱山で、何があった?」
 グジンが、静かに問いかける。
「信じられないくらいの、でかい鉱脈が見つかったんだ。掘り進めていくうちに、広い空間とつながった。そこに、邪竜がいたんだ……」
 若いドワーフの言葉に、グジンは目を剥いた。
「邪竜だと? そいつは、どうなった」
「つながったところを、落盤させてきた。足止めは、できたと思う。だが、いつまで保つか……」
 青い顔で、若いドワーフは顔を俯かせる。
「……なんてことだ」
 グジンの小さく呟く声が、治療所の中へと響いていった。

 その日から、鉱山集落は慌ただしくなった。周囲の町の冒険者ギルドへ腕利きの竜殺しを依頼し、邪竜が表に出られないよう大きな通路を落盤させる。作業には危険が伴い、戦士団の何人もが治療所へと運び込まれてくる。それを診て、治療を行うのはグジンの役目になっていた。
「グジン、腹が……痛え」
「水を飲め、先生。飲み過ぎで、肝臓がいかれたんだ」
 青い顔で息も絶え絶えに、集落の医師は怪我人たちと同じくゴザに横たわっている。水桶から椀に水を汲んでやると、医師は少しだけ口をつけた。
「……なあ、儂は、酒が、飲みてえ」
「動けるようになったら、自分で取りに行け。今は、怪我人の治療が先だ」
 そう言って、グジンは戦士たちの腕や足に軟膏を塗り、傷を縫う。
「もうすぐ、町から竜殺しのパーティが来るらしい。それまでの、辛抱だ」
 戦士団の隊長に率いられ、怪我人たちはのろのろと立ち上がると治療所を出てゆく。
「完治するまで、休ませることはできないのか」
 グジンは隊長に声をかけたが、隊長は首を横へ振る。
「すぐそこまで、邪竜が迫ってる。今は、一人でも多くの人出がいるんだ」
「……なら、俺が」
 愛用の槌を手について行こうとするグジンを、隊長は押し留める。
「お前がいなくちゃ、怪我人を診るやつがいなくなる。先生は、あの通りだしな」
 隊長が、診療所の中へ顎をしゃくる。見やると、医師がゴザの上を這って自室へと向かおうとしていた。
「こちらでは、最善を尽くす。お前は、先生を頼む」
 言い残し、隊長はくるりと踵を返して鉱山へと向かった。グジンは見送りもそこそこに、医師の元へととって返す。
「酒はダメだ、先生」
 押さえつけると、医師は悔しげに呻いた。
 翌日になって、集落に歓声が沸き起こった。鉱山の中から、地響きが起こり断末魔の咆哮が轟く。グジンはそれを、治療所の中で聞いていた。
「今日は患者もいねえみたいだし……一杯くらい、飲んでもいいじゃろう?」
 震える声で、医師が言う。グジンは、首を横へ振った。
「酒を抜いても、死にはしない」
 水の入った椀を押しやり、グジンは言った。医師は、また少しだけ口をつける。荒い足音が近づいてきたのは、そんな時だ。誰かを、運んでいる。足音だけで、グジンにはそれが解った。
「急患だ、グジン!」
 若いドワーフが、担架を中に運び入れる。担架の上に乗った人物を見て、グジンははっと息を呑んだ。
「……この、お嬢ちゃんは?」
 運び込まれた患者は、人間の若い娘だった。全身を覆う白くゆったりとした服は、神への信仰を示す紋様が刺繍されている。まだ幼さを感じさせる顔立ちは血の気が引いており、大量の汗が浮かんでいた。
「竜殺しのパーティの、僧侶さんだ。戦いの中で、足を食われちまった」
 若いドワーフの言葉に、グジンは尼僧の足を診た。右足のくるぶしから先が、失われていた。傷口は赤黒い肉が見えており、断たれた骨が白く突き出している。
「とにかく、消毒だ。竜の毒が、回っちまう」
 横たえられた尼僧の足首に、グジンは薬を振りかける。
「っぐ、ああ!」
 尼僧の口から、苦痛の叫びが上がった。
「痛いだろうが、我慢してくれ」
 傷口を縛り、グジンは言った。尼僧の口からは、祈りの言葉がとめどなく漏れ出してくる。聖言の功徳もあってか、出血はなんとか治まった。
「食われた足は、残ってるか?」
 グジンの言葉に、若いドワーフは首を傾げる。
「そんなもの、どうするんだ?」
「綺麗な状態なら、繋げられるかもしれん」
 人間の医師の残していった書の内容を思い出しながら、グジンが言う。その言葉に応えたのは、尼僧だった。
「足は……噛み、砕かれました……邪竜に……わ、私の、術では、欠けた足は、もう……」
 途切れ途切れの声で言う尼僧に、グジンはうなずいた。
「……わかった。安心しろ、お嬢ちゃん。俺が、何とかしよう」
 グジンは尼僧の額の汗を拭き、そっと撫でた。滑らかな絹のような肌触りに、グジンの胸に痛みが訪れる。
「何とか……どう、するのですか?」
 問いかける尼僧に、グジンは黙って足の方へと回る。そのまま尼僧の靴を脱がせ、左足をじっと見つめた。
「え、あの、一体、何を……」
「グジン、お前何をするつもりだ!」
 青い顔で、尼僧が戸惑った声を上げて身を起こそうとする。同時に若いドワーフが、グジンの肩を掴んだ。グジンの指が、尼僧の左足首をぐっと握る。
「じっとしてろ。別に、変なことはしない」
 グジンが言った言葉に、若いドワーフと尼僧は動きを止める。
「……代わりの、足を作ってやる」
 グジンが観察しているのは、尼僧の足の形だった。グジンの頭の中に、欠損した右足の寸法が浮かび上がってくる。それは、グジンの鍛冶師としての職能だった。寸法を思い浮かべ、グジンは尼僧の足を手放し立ち上がる。
「俺の工房に、今すぐミスリルを持って来させろ」
 グジンの要求に、若いドワーフは渋い顔をする。
「ミスリル? あんな貴重なものを……」
「集落の恩人の、足のためだ。ぐずぐずするな」
 言い捨てて、グジンはさっさと走り出した。
 炉に火をくべて、熱してゆく。山のように持ち込まれたミスリル銀の一部を、グジンは溶かし、叩いた。槌の一振りごとに、グジンは己の全てをのせる。それは、どんなものを作る時でもグジンがしていることだ。尼僧の苦しそうな顔が、頭の片隅に浮かびそうになる。傍らに置いた水桶の水を、頭からかぶった。
 重い金属がぶつかり合い、炉の中で形を変えてゆく。一心不乱に槌を振るい、グジンは炎の中に尼僧の左足を思い浮かべる。作るべき、その形を。
 全身に汗をかきながら、グジンが水の中へとそれを入れた。じゅう、と音立てて、銀色に艶めかしく輝く足が、そこに生まれていた。
「完成、だ……」
 充分に冷やした足を手にしてグジンは、治療所へと駆け戻る。すでに日は沈み、あたりは暗闇になっていた。
「足が、出来たぞ」
 息を切らせてやってきたグジンの前で、尼僧は半身を起こした姿勢で目を丸くした。
「グジン、さん? それ……私の」
 グジンの手にあるものを指して、尼僧が言う。グジンはうなずいて、尼僧の足元へと屈み込んだ。
「急いで、作ってきた。たぶん、お嬢ちゃんの足の形だ」
 足の甲から爪先まで、細かな細工が施されている。それを見て、尼僧はますます驚きのいろを強くした。
「爪の形までしっかり、作られてます……どうして」
「そういう形だと、解ったからだ」
 足を見つめて呆然と呟く尼僧に、グジンは何でもない口調で答える。
「膝を立てて、足を上げるぞ」
 グジンが言って、尼僧の右膝を曲げる。尼僧の服の裾がめくれ、一瞬だけ、白い太股が露わになった。グジンはしかし、それには目もくれずに断裂した傷口へと足を合わせる。足は、ぴたりとそこにかみ合った。
「……これは!」
 恥じらいの表情を浮かべていた尼僧が、小さく叫んで聖言を唱える。すると尼僧の足首の断面とくっつけられた足が、輝き始めた。
「おお……!」
 光る尼僧の足首を、グジンは食い入るように見つめた。肌色と銀色の断面が、光の中で溶けあうように消えてゆく。少しして、光が収まると銀の足はもともと身体の一部だったかのように尼僧の足首へと収まっていた。
「……継ぎ目が、消えている。これは……奇跡か?」
 じっと、顔を近づけてグジンが足を見る。
「そ、そんなにじろじろ見ないでくださいっ!」
 グジンの顔が、女の銀の足に蹴りつけられた。
「あ、ご、ごめんなさい! 大丈夫……あ、足が!」
 盛大に仰向けに倒れたグジンへ、尼僧が駆け寄ろうと立ち上がって声を上げた。
「……それだけ、動かせれば充分だな」
 頭を振りながら、起き上がったグジンは尼僧に笑顔を向けた。
「はいっ! ありがとう、ございます!」
 ぎゅっと、尼僧がグジンの小さな身体を抱きしめる。いきなりのことに顔をしかめるグジンだったが、耳元で聞こえてくるうれし泣きに、再び表情を緩め、尼僧の背を撫でた。
「……よくわからんが、目出度いことじゃな。酒を、飲んでもいいじゃろうか……」
 床に転がっていた医師が、すがるように二人を見上げて言う。
「酒はダメだ。我慢しろ」
 グジンの言葉に、医師は大仰に嘆いてみせる。その様が面白いのか、尼僧は華やいだ笑い声を上げた。
「そういえば、お嬢ちゃん。名前、聞いてなかったな」
 抱擁から解放されたグジンが、尼僧に向かって問う。
「あ、はい。ごめんなさい、名乗るのが遅れて……私、ジェニーと言います」
 ぺこり、と優雅な仕草でジェニーが一礼する。
「そうか……」
 対するグジンは、腰を九十度に曲げて深く礼をした。
「鍛冶師のグジンだ。集落を救ってくれて、ありがとう」
 グジンの言葉に、とんでもないと謙遜するジェニーの声が診療所へと響いてゆく。診療所の周囲では酒盛りが行われ、騒ぐ声は風に乗って鉱山集落全体へと伝わっていった。

 その後、グジンは義足や義手などを専門に研究し、ドワーフの鍛冶師としての名声を大いに高めることとなった。いつしかグジンの側には、美しい人間の尼僧が寄り添っていた。尼僧とふたり、グジンは多くの人々を助けたという。
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