ひなドール事件1
神々の憩いの場である神々のための図書館がある。その図書館では今日も探偵かぶれの二神の少女が何かを思考している最中だった。
図書館の椅子に座り、ツマツヒメ神のツマと刀神のニッパーはひじょうにどうでもいい会話をしていた。
「つまっちゃん、ロンドンってどういう街並みなんスかね?……向こうの馬車に乗ってみたいっす。」
ニッパーがある探偵小説を読みながらツマに目を向けた。
ツマは小説についている挿絵のようなものに目がいっていた。
「……なるほど……探偵帽子に外套、そしてパイプ……で、助手は医者と……。」
「つまっちゃん!しっかり内容読むっすよ!こんなオカルトじみた事件の犯人をバシッと推断するのは最強っすよ!」
ニッパーの言葉にツマは「うーん……。」と唸った。
「この小説、文章難しくて読めない……。」
「日本語訳だし簡単なんっすけど。」
ニッパーはケラケラと笑っていた。そんな会話をしていると閲覧コーナーの奥からこの図書館の館長である天記神がお菓子の入ったお皿を持ってこちらに歩いてきていた。
彼は男だが心は女である。
「あらあら、あなた達ね、今日はひな祭りですわよ。もっと乙女に動いたらどうかしら?まあ、いいですけれど……。ヨモギ餅と緑茶ですが食べる?」
天記神は半分呆れた顔でツマとニッパーを見るとヨモギ餅と熱い緑茶を閲覧テーブルに置いた。
「食べる―!」
突然少女になったツマとニッパーは我先にとヨモギ餅へと手を伸ばしはじめた。
天記神はそれをほほ笑んで見つめると思い出したように声を上げた。
「あ、そういえば……今日、ひな祭りじゃない?それでね、今ちょっとした事件が起こっているようで……。」
「事件?」
ツマとニッパーはヨモギ餅を頬張りながら天記神を仰いだ。
「ええ……。ひな人形を飾ったお宅のひな人形が次々となくなっていくらしいのよ。ホラーよね。」
天記神がぼそりと言った言葉にツマは目を輝かせた。
「ん……なんと……これは事件だ。ニッパー君。」
「おお!事件っすか!」
盛り上がり始めた二神に天記神は頭を抱えつつ軽くほほ笑んだ。




