チョコ事件最終話
「昨日に先程の女神が来たか?」
……YES。
「イエス。……チョコを持っていたか?」
……YES。
「イエス。ここまでは私の推理が合っていそう。では……一時間前に来た女神は図書館から出てきた時にチョコの箱を持っていたか?」
「おお!」
ニッパーはツマのこの質問でなんとなくツマが言いたいことがわかった。
……YES。
「イエスだ。ここまで来たらニッパー君も予想がついたんじゃないかな。その女神は冷凍庫内にあった自分のチョコを取り出して食べられないくらいにカチコチになっていることに気がつき、とりあえず、冷蔵庫に入れようとした。冷蔵庫内にはニッパー君のチョコが入っていた。それを見た女神は自分のチョコを冷蔵庫に入れてニッパー君のチョコを持って図書館を出たって事だ。」
「同じものだから大丈夫だと思ったんすかね?」
ニッパーはチョコが食べられない悲しさにため息をついた。
「……だからと言って他人のものを持って行くなんて最低だね。」
ツマはどことなく怒っていた。
そこまで会話が進んでからツマとそっくりな少女が恐る恐るこちらを窺っていることに気がついた。
「ん?」
ツマは緑の長髪をなびかせた少女を視界に入れた刹那、目を見開いた。
「あ、あの……ごめんなさい。い、入れ替えたのわたくしなのです……。」
少女は弱々しい声で控えめに頭を下げた。
「お姉ちゃん……。お姉ちゃんがやったの?」
ツマは少女をお姉ちゃんと呼んだ。彼女はツマの姉、大屋都姫神ヒエンという名であった。
「ヒエン……酷いっす!冷凍庫のチョコと交換するなんてひどいっす!」
ニッパーはウルウルと目を潤ませながらヒエンを仰いだ。
「あ……それを今、あやまりに来たのです……。どうしようもない事情があったものですから……。本当にごめんなさい!」
ヒエンは慌てながらニッパーにしきりに頭を下げていた。
「どうしようもない事情って何?」
ツマはやや冷ややかな顔でヒエンに尋ねた。
「ツマちゃん……少し顔が怖いですよ……。え、ええと、実はお祭りに行けなかった少女神……歴史神ヒメちゃんに『チョコが食べたいけど用事があって行けないのじゃ!うわーん!ワシ、今日行きたかったのにー!』と泣きつかれたので仕方なく、わたくしが代わりに行ってヒメちゃんの分のチョコをもらってきてあげたのです。
二日目のお祭りの終わり頃に用事が終わるのでその時に持ってきてほしいと言われ、天記神さんの図書館の冷蔵庫に保管しておきました。しかし、わたくしが冷蔵庫と冷凍庫を間違えてしまい、取り出した時にはカチコチで……ヒメちゃんを悲しませたくなかったので冷蔵庫に入っていたニッパーさんのチョコを持って行ってしまったのです。もうすでにヒメちゃんが待っていましたので……その……仕方なく……。」
「そ、そうだったんすか……。」
ヒエンの話を聞いてニッパーはなんだか怒る気を失くしてしまった。
「容疑者だと思っていた天記神は関係なかったという事……。」
ツマもなんだかため息が出てしまった。
何とも言えない空気が三神を包む中、突然に冷蔵庫がある方面から声がかかった。
「!?」
「ねえ?このチョコ、カチコチだからちょっとレンジに入れて食べられるようにしましょうか?」
冷蔵庫方面から出てきたのはうっすらと霜が降りている箱を持った天記神だった。いつの間にか目を覚ましていたらしい。
「レンジに入れたら溶けちゃうんじゃ……」
ツマはいつの間にか消えていた天記神に驚きながらも小さく声を上げた。
「自然解凍にしたらちょっと時間かかってしまいますわよ?うちの冷凍庫、けっこう強力ですから。このチョコ、冷凍庫に入っていたんでしょ?昨日から冷凍庫に入れっぱなしでしたよ?」
何も知らない天記神は心配そうな顔で三神を見据えていた。
「ああ……じゃあ、ちょっとレンチンしてみるっす。ほんのちょっとだけ。」
ニッパーは天記神が持っている冷たそうなチョコを悲しそうに見つめながら頷いた。
「……どろどろになっても知らないから。」
ツマは不安げな顔で天記神とニッパーを見つめた。
「ほんとわたくしのせいで申し訳ありません!」
ヒエンはニッパーにずっと頭を下げ続けていた。それを見つつ、ツマとニッパーは深いため息をついた。
こうして三神はレンジで温めたちょっととろけたチョコをシェアして食べたのだった。




