チョコ事件2
「まずは聞き込みだ。ニッパー君。」
ツマは目に力を込めて言うとニッパーを連れて閲覧コーナーへと戻ってきた。
「聞き込みってどうするっすか?誰に……?」
ニッパーの言葉にツマはにやりと得意げに笑った。
「決まっているだろう。ニッパー君。」
「天記神を叩き起こすっすか?火力はマチマチでいいっすよね?」
ニッパーが突然謎の炎をまき散らしはじめたのでツマは慌てて叫んだ。
「ち、違う!外に置いてある盆栽に話を聞くのだ。」
「なんで盆栽?冷蔵庫の調子が悪いだけかもしれないっすけど……。」
「念のために外部の者の仕業かどうかを確認しに行く。そうだった、ニッパー君、聞き忘れていたが最初にチョコレートを冷蔵庫に入れた時、変わった事はなかったか?」
ツマに問われ、ニッパーは首を傾げた。
「ああ、これが冷蔵庫に異常はなかったかの質問っすか?普通に冷蔵庫だったっす。後は自分がチョコの箱を入れた時と出した時、何にも状態は変わっていなかったっす。誰も冷蔵庫を開けていなそうでしたっすよ?」
「……なるほど……密室殺人って事か。」
「……密室でも殺人でもないっすけどね。」
神妙な顔で頷くツマにニッパーはため息をついた。
「まあ、第一容疑者はここで健やかに眠っている天記神だが……。」
「うん。」
「彼を起こすと面白くないので起こさないでおこう。」
「う、うん。」
ツマは色濃い第一容疑者を素通りし、ニッパーを連れて外へと出た。
なんだか色々と間違っているような気もするがこれが彼女流である。
天記神を無視したツマとニッパーは図書館入り口付近にある盆栽の元まで歩いて行った。
「よし、このへなへなした松に聞いてみよう。」
ツマは流れるような動きがある松を『へなへなした松』と命名した。こういう風に流れるように枝をうねらすにはけっこう難しかったに違いないが知らないツマ達には関係ないのだった。
それはさておき、ツマには一つ、能力がある。それは木種の神ならではのもので木々にYES、NOクエスチョンで答えた場合のみ木からYESかNOの返答が来るといったものだ。
「えー……私達が外にいた時に誰か来たか?」
ツマはへなへなした松に手を当てると質問をした。
……YES。
松の返答はYESだった。つまり、ツマ達が外で盆栽を眺めていた時に誰か図書館に来たという事だ。
「誰か来たみたいっすね……。でも、図書館内には天記神以外誰もいなかったっす。こわっ!」
ニッパーは顔色青くツマを見た。
ツマは何かを考えるそぶりで再び尋ねる。
「それは天記神か?」
……NO。
天記神が外へ出たかどうかも聞いてみたがこれはNOだった。
「違うのか。じゃあ、一体誰が来たのだろうか。えー……それは男だったか?」
ツマは図書館に来た神物の特定に入った。
……NO。
「ノーだ。つまり女か?」
……YES。
「イエス……女だ。」
ツマはニッパーを振り返る。ニッパーは相変わらずまだ青い顔をしていた。
「幽霊かもしれないっす!ちょっと怖いっすね。」
「私達神が幽霊を怖がってどうするの?……それは神か?」
ツマは念のため、へなへなした松に神だったかを聞いてみた。
……YES。
「イエスだ。という事は女神。誰だろう?」
当然、松はこの問いには返事をしない。
「手詰まりっすね。他に松に聞けることがないっす。」
ニッパーがワシワシと頭をかいた。




