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チョコ事件1

挿絵(By みてみん)


 「あー、今日は楽しいお祭りだったっスね!」

 縦に棒を引っ張ったような目をしている着物姿の少女、ニッパーはおいしそうなチョコが入った箱を抱えて楽しそうに神々の図書館へと入ってきた。


 古臭い洋館のような図書館の重たい扉を頑張って開ける。


 「天記神!お祭りでチョコもらって来たっす!バレンタイン祭りとかなんとか。二日に渡ってやっていたらしいっすよ!今日が最終日でチョコ間に合ったっす!」

 広い図書館に響き渡る声でニッパーは叫んだ。


 しかし、天記神の返事はなかった。ニッパーが首を傾げていると隣からひょこっと緑の髪の少女が顔を出した。


 「何してるの。ニッパー。」

 緑の髪の少女は表情があまりないままつぶやくように小さく声を出した。


 「ツマっちゃん!天記神がいないっす。」

 「そんなわけない。彼は外には出られないはず。あ……。」

 緑の髪の少女ツマは図書館内をある程度見回してから声を上げた。


 「ん?」

 「ほら、あそこのすみ。天記神が寝てる。」

 ツマは図書館内の沢山机が置いてあるはじっこの部分を指差した。


 そこの一番端の席で天記神が幸せそうに眠っていた。


 「ほえー……天記神も疲れてるっすね~。じゃあ、ツマっちゃん、こっそり、天記神コレクションの盆栽を少し見に行きましょうっす!」

 「眠りは深そうだから覗いても気づかない。いいよ。」

 ツマは天記神に断らずに勝手に返答をするとニッパーを促した。


 「あっ!ちょっと待ってくれっす!このもらったチョコを図書館の冷蔵庫に入れておきたいっす!」

 ニッパーが思い出したように手に持っていたチョコをかざした。


 「ああ、そう。チョコ溶けてしまうからね。冷蔵庫に入れておけば安心。私は待ってるから。」

 「うん。閲覧コーナーの奥に冷蔵庫があるっす。ちょっと待っててねー。」

 ニッパーはツマを残して冷蔵庫まで走って行ったあと、すぐに戻ってきた。


 「早かったね。」

 「すぐそこっすからね。さあ、盆栽眺めに行くっす!」

 ニッパーが元気よくツマを引っ張り、外へと歩き出した。


 「彼が寝ている内に隠されている方の盆栽から見よう。」

 ツマの提案にニッパーは満面の笑みで大きく頷いた。



 盆栽を堪能して一時間。

 ついにツマとニッパーは眺めることに飽きた。


 「うう……飽きたっす。どれみても同じ緑のモコモコで……疲れたっす。」

 「うん。疲れた。」

 二神は何百年にも渡って管理された高価な盆栽を「疲れた」で終わらせながらてきとうに辺りを見回した。


 どうでもよい事だがウン百年と存在している天記神は下の世代へと移っていくはずの盆栽を一神で管理している。筋金入りの盆栽好きで売れば何億になるかもしれない盆栽も育て続けていた。いつまでも存在に終わりがない神ならではの所業である。

 そんな素晴らしい盆栽もわからない者達からすればただの緑のモコモコで片づけられてしまうのだった。


 「じゃあ、戻ってチョコ食べるっすか?」

 「た、食べる!」

 ニッパーの提案にツマは目を輝かせて答えた。


 「じゃあ、図書館内に戻るっすよ。」

 「うん。」

 盆栽を眺め始めて一時間、ツマとニッパーは早くも図書館へと戻った。


 図書館内では一時間前とたいして変わらなかった。天記神は同じ格好で今も眠っている。

 ニッパーは足早に閲覧奥の冷蔵庫へと向かう。ツマはその間、近くにあった閲覧コーナーの席に座った。


 「あ、あれ?硬いっす!」


 ふと奥に引っ込んでいたはずのニッパーの叫び声が聞こえた。ツマは慌てて立ち上がり、叫んだニッパーの元へと走り出した。

 何か事件のかおりがした。


 「ニッパー?どうしたの。」

 「ツマっちゃん!このチョコ、かっちかちに硬くなっているっす!石みたいに硬いっす!トリュフみたいなほっこり柔らかだったんっすよ!これ。」

 ニッパーは声をかけたツマを振り返り、再び叫んだ。


 図書館の奥は天記神がお客神にお茶菓子を準備する小部屋になっていた。小さなコンロと冷蔵庫、お菓子が入っている棚がある。

 ニッパーはそのうちの冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。


 「ニッパー?『冷凍庫』の方に入れたの?」

 「入れてないっす!」

 ツマは冷蔵庫の下の段にあるアイスなどが入っている冷凍庫を指差した。しかし、ニッパーは入れていないと言う。


 「まあ、たかが一時間足らずでチョコがカチカチになるわけないか。」

 ツマは一つため息をつくと探偵モードになった。

 無駄に腕を組み、考える仕草をする。


 「これは事件だ。ニッパー君。」

 「うわっ……またいきなりスイッチ入ったっすね……。」

 こうして無邪気な二神の探偵ごっこはまたスタートしたのだった。


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