迷子チャイルド事件3
息を切らして先程の山の入り口まで戻って来ると子供の両親を見つけた。
やはり見当違いの場所を必死に探している。両親もパニックになっているのか男の子の行動をまったく読めていないようだ。
「よし。ニッパー君!頼む!」
「了解っす!」
ツマに元気よく頷いたニッパーはパンっと手を叩き、両親の前で大型の火花を発生させた。花火っぽく音は何かが弾けたような音にした。
一発目で両親がこちらを向いたのでニッパーは何度も火花を発生させた。色は変えられなかったが鉄を削った時のような火花を無数発生させ、両親のためにニッパーは祈った。
「気づけ!気づいてくれっす!彼は花火を見ようとしてあの崖にいるっすよ!」
両親にはニッパーの声は聞こえない。姿も見えない。しかし、火花は見える。
二人は不気味そうにパチパチ出てくる火花を見つめていたがそのうち、父親の方が何かに気がついた顔をした。
「火花……じゃなくて花火だ……。俺が……特別な日には花火があがるって言っちゃったから……あいつ、勘違いしてもしかしたら……今日は大晦日だし……そろそろカウントダウンだし……」
父親は母親に必死で説明をはじめた。
母親は泣き崩れてパニック状態だった。何を話してもわからなくなっているようだ。
「俺、行ってみる」
「いそうな場所、わかりましたか?」
父親の言葉に警察の方達が沢山集まってきた。
「はい……。もしかするとって場所を思い出しました!今から教えますのでその周辺を探してください!」
「わかりました!」
父親はこの山に何度も登ったことがあるらしく、例の崖がある場所を的確に教えていた。
そして自分も山道の中へと消えていった。
遠くの方で彼の名前を呼ぶ声がする。
「……ふう……これでなんとか……なったっすか……?」
「あの父親が子供を見つけてくれることを後は祈るだけだ……」
ツマとニッパーは母親のそばで父親が来るのをじっと待った。母親はずっと「神様、神様……お願いします……」と呪文のように祈っていた。
ツマとニッパーは何にもできない事に胸を痛めたがずっと母親のそばについてやっていた。
しばらくして雪を踏む足音が聞こえてきた。沢山の足音だ。おそらく警察の人達が帰ってきたのだろう。
徐々に懐中電灯の明かりが見えてきて警察の人達の疲れた顔がうつった。その疲れた顔の中にはどこか安堵の雰囲気もある。
その後、警察の人に囲まれて父親が男の子を抱っこして涙ぐんでいるのが見えた。
「……見つかったんだ……良かった……」
「生きてるっすよね?」
ツマとニッパーが不安げな顔で見守る中、父親は母親の元へ駆け寄った。
「見つかったぞ!少し低体温になりかけているみたいだが無事だ!」
父親の声に母親が先程とは違うあたたかい涙を溢れさせた。
警察の人達が呼んだのか遠くでは救急車の音が聞こえていた。
男の子は父親の腕の中で毛布にくるまれて安心した顔で眠っていた。
「ああ……良かった……」
ツマとニッパーが安堵で腰から崩れ落ちた時、すぐ近くの広場で「ハッピーニューイヤー!」と盛り上がる声が聞こえた。
「あー……カウントダウンイベントが終わっちゃったっすね……」
「……今は楽しめない……。楽しめないが……とりあえず、あけましておめでと……ニッパー君……」
「おめでとっす……ツマっちゃん……」
ツマとニッパーはお互い苦笑いしつつため息交じりにうなだれた。




