迷子チャイルド事件2
現世に降り立ったツマとニッパーは問題の山に続く山道に来ていた。カウントダウンイベントが行われているのは広場でこの山道の入り口から少し離れている場所にあった。
明かりはなく静かだ。山道付近で子供の両親と思われる男女が警察とともに泣きながら子供を探している。
両親は山の中に子供が入り込んだことを知らないようだ。山道から引き返しながら近くの草むらを探している。
「両親は子供が山に入り込んだことを知らないみたい……。たまたまここに探しに来たって感じするね」
「警察が山に入り込んだかもしれないって言ったかもしれないっすね……」
ツマとニッパーは考えながら山に入り込んだ。
真っ暗な山をツマは迷うことなく進んでいく。雪が積もっているため、おそらく子供には辛い状態だろう。
「神々はすぐに迷子のいる場所がわかるけど……伝え方が問題だ……。見つけても教えられない……どうするべきか……」
ツマとニッパーは子供を見つけた後の事を考えながら歩いていた。
どこかで動物の鳴き声が聞こえる。そしてとても寒い。そのうちまた雪が降って来るかもしれない。
「……この辺にいるはずだと思うんだが……見つからないな……。子供の泣き声とか叫び声とか聞こえたらわかるんだが……。よし……あれを使おう。もう木々にYES、NOクエスチョンをして探している暇はない」
「そうっすね……」
怯えているニッパーの肩をそっと叩くとツマは目を見開き、手を横に広げた。ツマの瞳が黄緑色に光る。
「山よ……入り込んだ子供はどこにいる……」
ツマはツマツヒメとしての神力を解放し山全体に話しかけた。
木々が揺れ、山全体も揺れた。
しばらくするとツマの元に針葉樹林の葉が集まってきた。針葉樹の葉は風に舞い、道を示した。
山道からそれた道なき道を記していた。
「……こっちか……」
暗いのと、雪が積もっているのとでどこが崖なのかもよくわからない。そんな足場の悪そうな山の中へツマはニッパーを引っ張り入り込んだ。
「ちょちょちょ!危ないっすよ!」
「大丈夫だ……私を誰だと思っている……」
焦るニッパーにツマは厳しい顔つきでそう言った。ツマの力が原因しているのか周りに生えている草花が道を示し、歩きやすいようにすべて避けている。
「す、すごいっす……」
「こっちだ」
ツマはどんどん暗い山道を進んでいく。足元は整った山道でもないのにとても歩きやすい。雪に気を付けて歩けばいいだけだ。
しばらく歩くと街並みが見える高台に出た。高台といっても崖に近い。少し広めの原っぱが広がっている。その近くの木に横たわる子供がいた。この寒い中、薄着でマフラーなどもなにもしていない男の子だった。
「見つけた……。見つけたけど……どうしてこんな格好で……」
ツマは愕然と倒れている男の子を見つめた。
「どうしてこんなところにこんな薄着で来ようと思ったんっすかね……」
「……両親が必死で見当違いの場所を探しているって事はこの子は両親に何も言わずに独断でここまで来たんだろう。薄着なのはおそらく何か思い立って家からそのまま外へ出てきたんだ。何を思い立ったのか……わからないが」
ツマはなんとなく高台からはるか下に広がる街並みを眺める。ビルの光や家庭の明かりがとてもきれいだった。そして気がつかなかったが遠くには海が見える。
「……海……」
「ツマっちゃん!それでどうやってこれからこの子の存在を両親に伝えるっすか?」
「……」
ニッパーの言葉にツマは答えず、何かを考えていた。
「ツマっちゃん!」
「……まさか……まさかここは……」
「ツマっちゃん?ツマっちゃん!」
ニッパーはぶつぶつ何か言い続けるツマを乱暴に揺すった。
「はっ!」
「ツマっちゃん……どうしたっすか?」
ツマが我に返ったのを確認してからニッパーは心配そうに尋ねた。
「ニッパー君、あそこの海は私達が七夕祭りで花火を見た所だ。手前のビル群の向こう側は田舎町だ……」
「ああ、こないだの……それがどうしたっすか?」
ニッパーはツマが何が言いたいのかわからなかった。
「ニッパー君、この子はもしかすると夏にこの場所から家族で花火を見たのかもしれない」
「……うん?」
「ここはきっと穴場だったに違いない……。雑誌とかを見るとカウントダウンで花火をやるところもあるようだ。この子は……勘違いをしたのかもしれない」
「……まさか……あの海で花火があがると思い込んでここまで突発的に登ってきたってことっすか?」
「その可能性が一番高い気がする……」
ツマとニッパーが色々話していると男の子がモゴモゴ寝言のようなものを言っていた。
「花火……やるって……特別な時はここで花火があがるって……言ってた……パパァ……」
男の子はそれだけ言うとまた口を閉ざした。体も冷たくなってこのままだと本当に死んでしまう。
よく見ると相当無理をして登ってきたのか足を怪我しているようだ。
「……やっぱり花火か……。どうやってこれを両親に伝えてこの子を発見してもらうかを考えないと……」
「早くしないと低体温になっちゃうっす……」
ニッパーが男の子を心配そうに眺めながらツマを急かした。ニッパー自体は焦りで何も思いついていないようだ。
「もう花火で思い出してもらうしか方法がないのだが……人を私達(神々)が個人的に助けてしまうと私達が罪になってしまうし……。見守らないといけない立場もなかなかつらい」
ツマは肩を落としてうなだれた。ニッパーはアイディアを出そうとてきとうに言葉をつぶやきはじめた。
「……ドーンとあがる花火……。色とりどりのはなび……きれいな火……バチバチひばな……火花……火花……?あ!火花!ツマっちゃん!火花っす!」
突然ニッパーが大声を上げた。てきとうに思いついた言葉を口にしていたら何か閃いたようだ。
「火花って花火の逆じゃないか……」
呆れているツマにニッパーはまくしたてるように言い放った。
「違うっすよ!私は刀神!刀神は火を扱う神っす!『ニッパー』を遊びで作った時に火花を散らした事あるっす!つまり、私は火花を出せるっすよ!花火に見立てた火花を出せるっすよ!」
「えーと……」
ツマが混乱した頭でニッパーが伝えようとしている内容を考えているとニッパーが先に声を上げた。
「ご両親の前で……真っ暗な山道で私が花火に似た火花を出すっす!ご両親なら何か気がつくと思うっす!」
「ほお……なるほど……。それはいいかもしれない!時間がない。それをやってみよう!」
ニッパーの提案にすぐさま乗ったツマは先程の山道へ向かって走り出した。ニッパーも慌てて後を追った。




