クリスマス事件最終話
ケーキ屋さんは先程と変わらず大行列のままだった。その行列の中に男がいるかもしれないと見てみたが残念ながらいなかった。
「うーん……。やっぱりケーキが原因で買い直しに来たわけではなさそうだ」
「あそこの看板の端にシングルサンタもできますって書いてあるっすけどケーキ屋さんに並んでない所からするとシングルとカップルサンタを間違えたってわけでもなさそうっすねー」
ツマとニッパーは大行列を眺めながら唸っていた。
「あの男はなんであんなに走って行ったんだろ……。行列に並んでもないなんて。むしろどこに走って行ったんだ?色々奇怪な行動だと思う……」
ツマはさらに考えたが結局よくわからずにもう一度公園に向かって歩き出した。
「……まさか……彼女とは別に違う女がいるとか……それで約束を思い出してその女にケーキを渡しに行ったんじゃ……ないっすよねぇー」
ニッパーがツマを追いかけながら青い顔でつぶやいた。
「そんなわけない。痴話ケンカじゃないんだから」
「でも……彼女は女がいる事を知らなくてケンカになっていなかったとかありえるっすよね」
ツマとニッパーは考えながらまた再び公園内に入り、モミの木の前に戻ってきた。
その時、ベンチに一人座っていた女性がため息交じりに「まったくもう!間違えるなんて……」と言っているのが聞こえた。
「……ニッパー君……『間違えるなんて』って今、彼女言った……」
「まさか彼女を間違えたって事っすか?」
「そんなわけないだろう……」
ニッパーが痴話ケンカから離れられていないようなのでツマはため息を一つついて呆れた。
「じゃあ、ツマっちゃんの推理は?」
「……確信はないが……なんとなく見えてきた。あの男、彼女の前に誰かに会っているんだ。それできっと相手も同じケーキを持っていてパッケージの箱が同じだから間違えてしまったんだ。男はカップルサンタのトッピングをしていると思われるが相手はきっとシングルサンタかトッピングなしのケーキかを持っていたと思われる」
「なるほど……」
そこまで推理したツマは再びモミの木に手を当てた。
「……さっきの男は彼女と会う前に誰かにここで会っているか?」
……YES。
モミの木はイエスと答えた。
「イエスだ。……それは男か?」
「男?まさか彼氏がいたとか……」
「違う!」
ニッパーの横やりにツマは声を荒げて否定した。
……YES。
ふたりの話をよそにモミの木はイエスと答えた。
「イエスだ。間違いない。彼はこの公園で男友達に会っていたんだ。きっとあのベンチに座っていてケーキを二つ横並びに置いていたんだろう。まったく……会話が思い描けるよ……。男の友達が『お前、彼女がいるんだろーいいなー』みたいなことを言ってそれから『お前はカップルサンタトッピングしてたけど俺は一人だから寂しくシングルサンタケーキでも食べてますよー』みたいな話になってやいやい会話が弾んで別れる時に友達か男かがケーキを間違えたんだ。それで男が彼女の前で『ほら、カップルサンタケーキだよー』って見せた時にシングルのサンタケーキが入っていて慌てて友達を追いかけたんだろう」
ツマの推理にニッパーはため息をついた。
「なるほどっす。たぶんそうっすねー……ほら」
ニッパーが慌てて戻って来た男を指差した。手には先程と変わらないケーキの箱。
男はあやまりながら彼女の横に座った。箱を開けて中身を確認している。
彼女が満足そうに頷いていた。
「……青春っすね……」
ニッパーはどことなくつまらなそうだ。
「青春だね……。やっぱりケーキを友達のと間違えていたんだ……」
ツマは推理が当たってどこか嬉しそうだった。
「さー、夕方になってきたしそろそろパーティがはじまるっすね!」
ニッパーはモミの木のまわりに人が増えてきたことに気がついた。よくみると露店のようなものが建ち始めている。
「バイキング形式のごちそうだ。楽しみ」
ツマもパーティの方に頭がいってしまった。彼女達は解決すればすぐに興味を失うのである。
太陽が沈み、肌寒くなってきた頃、クリスマスツリーが点灯した。
キラキラ輝くその美しさにツマとニッパーはしばらくうっとり見つめていたがパーティ開催となった瞬間にツリーよりも屋台の方にフラフラと動いていた。
幸せなムードの中、ふわりと白い雪が舞ったがツマとニッパーは寒さを感じずにクリスマスパーティを楽しんだのだった。




