クリスマス事件2
勢いよく図書館を後にしたツマとニッパーはツリーがあるという公園前の道を歩いていた。時刻は夕方に差し掛かるかどうかの午後の時間。
この辺の地域はあまり雪の降らない地域のようで普段は雪がないクリスマスを送るようだが今日はわずかだが雪が降ったようだ。街路樹が少し白くなっている。歩道脇にも少量の雪が積もっていた。
「さあて。そろそろツリーがある公園が見えるっすよー」
「ちょっと待って。ニッパー君、あれを見たまえ」
先程から何か探偵のモノマネをしているらしいツマがニッパーを呼び止めた。
「ん?何っすか?」
ニッパーはツマが指差している方向を向いた。視線の先に行列のできているケーキ屋さんがあった。
「すごい混んでる……。クリスマスケーキの販売中のようだ。ほら、あの看板、カップルサンタゼリーをクリスマスケーキに乗せていますって書いてある」
「おお。クリスマス限定っぽいっすね」
店の前でサンタの格好をしている店員が看板を持ち歩き、かわいらしいサンタとトナカイのゼリーのトッピングを宣伝していた。
「ケーキか……いいな」
ツマはうらやましそうにケーキ屋さんを眺めていたがツマもニッパーも人間の目には映らない神である。諦めるしかなかった。
二神はそのままケーキ屋さんを通り過ぎ公園内へと入った。公園は遊具などはなく、どちらかといえば広い庭といった感じだった。
「なんか庭園っぽいっすねー」
「お!ニッパー君、あれだ!」
きょろきょろとあたりを見回しているニッパーの手を握り、ツマは走り出した。ツマ達がいる少し先でイングリッシュガーデン風になっている庭園の真ん中にモミの木が飾り付けられていた。
「うおー!思ったより大きいっすね!」
ツリーを見に来ている人はまばらだったが皆、ツリーの大きさに驚いているようだった。
「ずいぶんと発育がいい木だ。飾りもきれいだし夜も楽しみ」
ツマは大きなツリーを見上げながら軽くほほ笑んだ。
しばらくツリーを眺めていたツマとニッパーだったがやがて少し離れた所にあるベンチに座っているカップルに目がいってしまった。
「いいっすねー。クリスマスにカップルで」
ニッパーがうっとりとカップルを見つめていると男の方が突然立ち上がり走り出した。片割れの女は男に何か叫んでいた。
「え?なんすか?痴話ケンカっすか?クリスマスなのに……」
「うーん……ニッパー君、痴話ケンカではなさそうだ。あの男、手にケーキの箱を持っていたぞ。ケーキはおそらくさっき眺めたケーキ屋さんのものだ」
ツマは不思議そうに男が走り去った方面を眺めた。
「なんか変っすね……ケーキを持って彼女から走り去るなんて……」
「ニッパー君、これは事件だ!」
きょとんとしているニッパーにツマはビシッと言い放った。
「そ、そうっすね……」
「さて……どこから考えていくか……まずはケンカの線を考えずに彼がケーキを壊してしまったと仮定しよう。男はかなり焦っていた。つまり歩いている内にケーキが崩れてしまって慌てて新しいものを買いに行った。限定品だからきっとなくなると思ったんだろう」
身を引いているニッパーを無視してツマは勝手に仮説を立てた。
「じゃ、じゃあそこのモミの木に聞いてみるっすよ……」
ツマには特殊な能力がある。木種の神なので木々と会話ができるのだ。しかし、ツマが探偵ごっこの縛りをつけているために木々はYES、NOクエスチョンしか答えてくれない。
「よし!聞いてみよう。さっき走り去った男はケーキを崩してしまったのか?」
……NO。
ツマの質問にモミの木はノーと答えた。
「……違うみたいっすね……」
「んー……やっぱり痴話ケンカなのか?」
……NO。
ツマのつぶやきにモミの木はノーと答えた。イエス、ノーで答えられるものならつぶやきだろうがなんだろうが木々は勝手に答えるようだ。
「じゃあなんだろ……。ケーキ屋さんの方にもう一度行ってみるか……。ネタが足らなすぎる」
「ネタって……今日はなんか激しいっすね……」
ツマがケーキ屋さんの方へさっさと行ってしまったのでニッパーも呆れながらとりあえず追いかけた。




