ハローウィン事件2
ツマとニッパーは神々の図書館から現世へと足を踏み入れた。
ハローウィンパーティがやっていた会場は都会の広場だった。ビル風が強く、少し肌寒いが仮装した子供達が楽しそうに集まっていた。
なぜか一緒に来た保護者の人達もがっつり仮装していたがまあ、少し夢を見るのもいいのかもしれない。
「お……おお!」
ツマとニッパーは賑わっている会場に目を輝かせながら仮装とカボチャのライトを楽しそうに眺めた。
「ハローウィンってこんななのか!すごい!」
「魔女がいるっす!ゾンビも!なんか目玉のお菓子もあるっすよ!」
ニッパーはかなりグロテスクな目玉のゼリーを眺めながらかなり盛り上がっていた。
そんな中、声を張り上げて怒っている小学校三年生くらいの女の子がいた。
「ん?」
ツマとニッパーは怒っている声が聞こえる方を向いた。
女の子は一緒にいた両親だと思われる男女に怒りの声を上げていた。
「あの子、なんで怒ってるんすかね?」
「ちょっと聞いてみようか」
ツマの表情がちょっと嬉しそうに動いた。事件好きのツマはハローウィンよりもこっちの方が興味があるようだ。
女の子は今もなお、両親に怒っている。
「ねえ!なんでリュウセイ来てないの?来るって行ったじゃん!あいつ、忘れてんじゃないの?」
リュウセイというのはどうやら人の名前のようだ。
「おかしいねえ。リュウセイにはちゃんと言ったんだけど……。どっかで寄り道してんのかしら?」
お母さんだと思われる女が腕時計を確認しながら首を傾げている。
「ほんと、どうしようもない弟なんだからっ!」
女の子はお母さんの真似をしているのかどこか偉そうに腕を組んだ。
「ツマっちゃん、弟が会場に来るのが遅れているみたいっすね?」
「そうみたいだね……。何か事件に巻き込まれていなければいいんだけど……」
ニッパーとツマは少し心配になってきた。
二神が見守っていると父親と思われる男が女の子の頭を撫でてから頷いた。
「俺、ちょっと探して来るよ。あいつ、けっこう楽しみにしてたから絶対来ると思うんだよな。確か、約束した時間から十五分くらい経ってるよな。どっかでケガしてたら大変だし、家が近いとはいえ、小一だしな……」
父親と思われる男性は子供を探しに一度家に帰るつもりのようだ。
「私達も探そうか……ん?」
ツマが父親について行こうとした時、一人の子供が会場の外からこちらを窺っていた。
男の子で年齢的に小学校一年生くらいだった。仮装していて真黒なマントを首に巻いていた。
「まさか……あの子っすか?ちゃんと来てるじゃないっすか。なんで会場に入らないっすかね?」
「わからない……近くの木に聞いてみようか?ニッパー君、これは事件だ」
ツマには特殊な能力がある。木種の神だけに木と会話ができるのだ。しかし、ツマが変な縛りをつけているのか会話はYES、NOクエスチョンで答えられる質問のみなのである。
とりあえず、ツマとニッパーは男の子がいる場所に近い木々に色々と聞いてみることにした。
ちなみにツマやニッパーは人間の目には映らない神なので男の子に直接話を聞くことはできない。
ツマは男の子が隠れている木の一つに手を当てて質問をした。
「……えーと……彼はあの人達と家族か?」
……YES。
とりあえず、ツマがこの男の子があの家族の一員なのかを訊ねると木々はイエスと答えた。
「やっぱりそうっすね。もう家族に合流すればいいのに……なんでこんなとこでまごまごしているっすかね?」
ニッパーはなんだかイライラしていた。
「うーん……なんか理由があるんだろうが……ん?」
ツマがもう一度男の子をなんとなく眺めると男の子はしきりに子供用の腕時計をみながら何かを数えてから頷き、また目を離すというのを繰り返していた。
「時計をしきりに見ている……もしかするとこの子、けっこう几帳面?」
ツマがなんとなくつぶやいた言葉に木々が
YES……。
と答えた。
「ほお、この年齢から几帳面っすか。じゃあ、あれっすね。時間きっかりに会場に入りたいタイプって事っすかね?ははは!」
ニッパーは冗談でそんなことを言ったがツマはあながち間違いではないのではないかと思った。
「もしかして……時計が壊れているのでは?だからいつまでも指定された時間にならずにずっとここにいるとか……」
「なるほどっす!ありえなくはないっすね。ちょっと確認してみるっす」
ニッパーがツマの言葉を聞き、男の子の時計をそっと覗いた。
「ニッパー君、どうだ?」
「……うーん。時計、合っているっすよ?」
「時計は合っている……か」
ニッパーの発言でツマの推理は見事に外れてしまった。
「……んん……ん!待てよ……。さっきのあの父親が待ち合わせから十五分経っているって言ってた。現在は三時七分……わかった気がしたぞ!つまり三時十分前に待ち合わせをしていたって事だ」
「そうっすね?それで?」
ニッパーの質問にツマは「うっ」と詰まった。だからなんだという感じである。
「わからない……わからない……。今日は全然さえない……。あそこにあるカボチャプリンが気になって仕方がない!」
ツマが悔しそうに露店に並んでいるカボチャプリンを指差した。
そんな会話をしていると男の子が突然動き出した。




