ハローウィン事件1
秋も深まってきた。最近は急に寒くなり葉も色づき始めてきている。
草木の神、ツマツヒメ神ツマと刀神であるニッパーは神々が利用する図書館の一室で声を張り上げていた。
「トーナメントおあートリートメント!」
「な、何かしら……」
突然声を張り上げたツマとニッパーにこの図書館の館長、天記神は引きつった顔を向けた。
図書館には誰もおらず、天まで積み重なる本達と机と椅子の閲覧コーナーがひっそりと存在していた。ちなみにこの館長、実は男なのだが心は女である。彼の秀麗な顔は現在困惑で歪んでいた。
「だからーお菓子ちょうだいって言ったっすよ」
ニッパーが頬を膨らませながら天記神を仰いだ。
「そうそう。いま、こういうとお菓子くれるらしいから」
ツマもニッパーに便乗し天記神に詰め寄る。
言わずものがなツマとニッパーは夢見がちな女の子であった。ちなみにまだまだ子供である。
「そ、それ、トリックオアトリートの事かしら?」
天記神は顔を引きつらせながらかろうじて声を上げた。
「そうだっけ?ま、いいや。おいしいやつね。あの高級なクッキーとか」
ツマが給湯室の方をちらりと見た。天記神はどきりとしたがあきらめてクッキーを取りに行った。
「とほほ……。そっと隠しておいたのに……」
天記神はぼそぼそと何かを言いながらクッキーの缶と紅茶を盆にのせて給湯室から戻ってきた。
「うわー!東京の有名店のクッキーじゃないっすか!」
ニッパーはさっそくクッキーに手を伸ばし始めた。
「あの……あなた達、本当のハローウィンパーティを見てきた方がいいんじゃないかしら?」
クッキーを無言で食べ続けるツマとニッパーに天記神は呆れながら尋ねた。
「本物ってお菓子もらうだけじゃないの?」
ツマが紅茶を幸せそうに飲みながら天記神を仰いだ。
「ほら、実際に見てくるといいですわよー。はいこれ」
天記神は軽くほほ笑みながらあるチラシを机に置いた。
チラシにはハローウィンパーティの日時などが書いてあり、カボチャの格好をしている子供がほほ笑んでいる横でちょっと強面のカボチャの置物が置いてあった。
「このカボチャ、ジャコランタンっていうらしいわよ」
「へぇー……お菓子もらうだけじゃなさそうだね」
ツマとニッパーが興味深げにチラシを眺め始めた。天記神はしめしめと思い、さらに畳みかけるように声を上げた。
「そうよー。しかもこれ、今日よ!行ってきなさい。勉強のために。ほら、色々事件があるかもしれないじゃない?」
天記神の一言でツマの目が光った。
「事件!そうだ。ニッパー君!事件だ!」
「ああ……またツマっちゃんのスイッチが……」
ニッパーは勢いよく立ち上がったツマに深くため息をついた。
しかし、ニッパーもハローウィンパーティに行きたかったのかすぐに立ち上がった。
「はーい。いってらっしゃーい」
天記神は足早に去っていくツマとニッパーをかなりてきとうに見送った。
二神が去って行きドアが乱暴に閉まると天記神は大きく伸びをしてクッキーよりもさらに高級なケーキを取り出し最上級の茶葉で作られた紅茶を入れホクホクした顔で再び席についた。
「あー、やっといなくなったわ。また次のネタを考えないとあの子達一生ここに住み着くつもりだから……」
天記神は優しい手つきでフォークを取るとケーキをうっとりしながら口に含んだ。




