サマーやすみ事件最終話
「……そうか……」
ふとツマが声を上げた。
「お?閃いたっすか?」
「ニッパー君、コミュニティだ。よく考えてみるとあの会場に小学二年生くらいの子はいない。話が合わなかったんだ……。それか大人に話しかけるのが怖かったのか……おそらくあの子は本当にこのゲームが好きなんだ。大人ばかりだったからきっと場違いな場所に来たんじゃないかと錯覚したんだろう。そして参加したいけど参加したくないという不思議な感情に飲まれて泣き出したんだろう」
「な、なるほど……。確かに迷子じゃない、母親に呆れたわけでもない、怖気づいたわけでもないってなったらコミュニティに入れなかったのが悲しいと推理するのが一番いいっすよね。母親の表情からいってもマッチするっす」
ニッパーは大きく頷いた。
「では答え合わせをしようか」
ツマが満足そうに頷いていると先程の少女がめそめそ泣きながら母親と共に会場へと戻ってきた。
「あ、帰ってきたっす」
「本当だ」
ニッパーとツマは唾を飲み込みつつ親子の会話に耳を傾けた。
「あかねちゃん、ジャパゴをやっている人は皆優しい人だから頑張って話しかけてみなさい。あかねちゃんもジャパゴ好きならガーンと盛り上がろう。お母さんも一緒にコミュニティに参加するから」
母親のそんな声が聞こえる。
ツマは推理が当たって満足そうだった。
「ん?ツマっちゃん……今、あの母親、『も』って言ったっすよ……」
ニッパーの言葉でツマも気がついた。
「つまりは……あの母親もジャパゴファンと」
ツマは呆れつつさらに親子の会話に耳を傾ける。
「おかーさんがゲーム大会出てよぉ……私、恋愛のゲームのが好き。ジャパゴのお友達も頑張って作るから……もう泣かないから一生懸命に話しかけるから……ゲーム大会は出てよぅ……」
少女の言葉にツマ達は「ん?」と首を傾げた。
なんだかいやな予感がする。
「あかねちゃん、コミュニティには後でお母さんが言っておくから……これにはタケミカヅチ様の限定グッズがかかっているの。あなたはジャパゴバトルの方はすごく強いじゃない?きっと勝てるわ。お母さんはすごく弱いんだもの……」
母親はなんだかとても必死だった。
必死ってそっちだったのかよ……。
ツマとニッパーは同じことを思った。
「お疲れ様です!我がコミュニティのお頭!佐藤ちゃん!今回はかなり通なお子様を連れてきたとか」
ふと母親のまわりにはたくさんの女性がいた。
「はい。娘のあかねです。……今回は勝つぞぉ!お前らァ!」
「うおおおおお!」
なんだか知らぬ間に円陣が組まれていた。よく見るとこのコミュニティだけではなく他のグループも同じことをやっていた。
甲子園球場のようだ。
「あかねちゃん、あかねちゃんは誰が好きなの?」
女性の内の一人が少女に話しかけていた。
「んー、天御柱神かなあ?」
「きゃあっ!私もだいっすき!闇落ちルートからの盛り上がりはすごいわよね!」
「うんうん。主人公を傷つけちゃった時の感情も泣いちゃったよ。それから……」
少女と女性の会話はなんだか成立していた。少女の顔はどこか明るく、とても楽しそうだった。
「ツマっちゃん……微妙に当たって微妙に外れたっすね……」
ニッパーが黄色い声が充満しているコミュニティを呆れた目で見つめながらツマに静かに話しかけた。
「……一体どうしたらこんなことに……親子ともどもファンで……」
ツマにはあまり理解ができなかったがこれがコアなオタクというものなのかとまるで虎かライオンのようだと少しの恐怖を覚えたのだった。
だが嫌な気持ちはしなかった。
皆幸せそうだ。幸せに思えるのならそれでいいと。
なんであれ、打ち込めるものがある、好きなものがある……それはそれでいいのではないか。
この親子は行き過ぎな気もするが。
とりあえず、この女の子はコミュニティに入りたかったが内気で入れず、一度は飛び出したがコアなファンの母親に慰められてコミュニティに入れた。お友達作りを始めようとした矢先にゲーム大会に出させられ、ぐずっていたと。
しばらくしてからツマとニッパーは野球観戦さながらのゲーム大会にただただ圧倒されていた。あの少女はゲーム機を持った途端に人が変わり、邪魔者を薙ぎ倒す兵器のようになっていた。つまり、ものすごく強かったのだ。彼女がどれだけこの作品を愛していたのかがよくわかった……。




