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ホールあじさい事件2

 アジサイの名所を巡るツアーを開始してしばらく経った。本日七件目のアジサイスポットで事件は起きた。

 ジメジメした雨が降っていたが雨に濡れた沢山のアジサイ達はとてもきれいだった。


 「やっぱアジサイは雨の日っすね。こんなに咲いてて晴れていたら暑苦しくて仕方がないっす!」

 ニッパーは赤いアジサイと青いアジサイを交互に見ながら頷いた。


 「ガクアジサイってきれい。……ん?」

 「どうしたっすか?つまっちゃん。」

 ツマが一つのアジサイの株の前で止まった。ニッパーも不思議そうにツマを仰いだ。


 「ニッパー君、ここを見たまえ。」

 ツマは真剣な顔でアジサイ株の根元を指差した。ニッパーも根元を覗き込む。


 「お!この株の裏側に小さな井戸みたいのがあるっす……。」

 アジサイの裏側に小さな空間がありそこに古臭い井戸があった。アジサイの裏側なのでアジサイを眺めて観光している人間にはわからないだろう。おまけに狭くてその空間に行く事は難しい。


 「行ってみよう。」

 「ツマっちゃん、ここ、小型犬くらいしか入れない空間っすよ?」

 ツマの言葉にニッパーは呆れた声を上げた。


 「問題ない。」

 ツマがそう言ってそっと手をかざすとアジサイがまるで生き物のように動き、ツマ達に道を開けた。


 「お、おお……アジサイが道を作ったっす……。さすが木種の神……。」 

 ニッパーが感心している間にツマはもうすでに井戸の前にいた。


 ニッパーも慌ててツマに追いついた。


 「うーん……。」

 ツマがうなりながら井戸のまわりを回っていた。


 「どうしたんすか?」

 「ここに獣の足跡があるのだが……この井戸のまわりにはまったく足跡がないんだ。」


 ツマはニッパーに指をさしながら説明した。ツマ達が入ってきた場所とは反対側の場所から井戸までかなり深くめり込んでいる獣の足跡がついているものの井戸のまわり、その他の場所には一切ついていない。


 「……まさか……獣がこの井戸に落ちてしまったのか?この足跡のめり込み方からしてかなり重めの動物なんじゃないか?」

 「ええ!?でも井戸から何の音もしないっすよ?」

 ツマとニッパーはお互いの顔を見合わせて慌てた。


 「まさか……。もう……。」

 「い、いや。まて!まだそうと決まったわけじゃない!推理だ!」

 「う、うん!ここはツマっちゃんに任せるっす!」

 ニッパーは弱々しくツマを見上げた。ツマは深呼吸をしてアジサイに手をかざす。

 ツマは木や植物からYES、NOのクエスチョンのみ聞き出せる能力がある。


 「この井戸に動物は落ちたか?」

 ツマの質問にアジサイは一言、

 ……YES。

 と文字を頭に飛ばしてきた。


 「イエスだと!やはり落ちたのか!」

 「おーい!なんか返事するっすー!」

 ツマの発言からニッパーはすばやく井戸の中へ向かって叫んだ。

 井戸からの返事はなかった。


 「大変だ!中で死にかけているかもしれない!」

 ツマも今回は珍しく焦っている。


 「……ん?」

 動揺しながらニッパーが何かを発見したように呻いた。


 「な、なんだ?」

 「ツマっちゃん、ここの……この足跡……なんかおかしいっすよ?」

 ニッパーは井戸の壁のすれすれにある足跡を指差し首を傾げた。


 「……?」

 ツマにはなんだかわからなかった。少しだけ悔しそうな顔をする。


 「ツマっちゃん……。この足跡、壁の真下にだけ二つあるっす。」

 ニッパーの言葉を聞き流しながらツマは足跡を確認する。井戸の壁すれすれに二つの足跡があった。動物が井戸に落ちたとしてもこんなところには足跡はつかないはずだ。


 「……この足跡……もしや……後で人工的に作られたのか?」

 井戸を調べるとへりの所が少し外にでており、そのすぐ下の地面は雨に濡れない。

 よく見ると肉球の部分がやたらとハッキリ、そして絵に描いたようだった。


 「これ……後でだれかが指を使って描いたんっすね?」

 「指をめり込ませるように三つの穴をつくってその下に少し大きめの円を描くか……。……この足跡は誰かが描いたものか?」

 ツマはアジサイに足跡が本物かどうかを訊ねてみた。


 アジサイは

 ……YES。

 と答えた。


 「イエスか……。だが足跡が偽物でも悪戯ではなく、この井戸に本物の動物が落ちているとアジサイは言うわけだ……。」

 「うーん……。」

 ツマとニッパーはお互い頭を悩ませた。


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