こいストゥリーマー事件最終話
「ん?」
声の方を振り向くと銀髪を短くパーマしている着物姿の若い男が立っていた。
「ああ、どうも。あなた達もこいのぼりを見に来たのですか?」
男は丁寧に声をかけてきた。ツマとニッパーが見えるという事は彼は神という事になる。
「あー!あんたは!井戸の神とかいう龍雷水天神じゃないっすか!なんでここに?」
ニッパーは知り合いなのか男と親しげに会話を始めた。
「ああ、あなたはニッパーですね。……ええ。僕は今、こいのぼりを見に来ましてね。あの……。」
「イド殿―!いっぱい鯉が泳いでいるのじゃ!」
男が続きを話そうとしたところで少し遠くにいた着物姿の小さい女の子が声を張り上げた。
「ああ……なるほどっす。ヒメちゃんがこいのぼり見たいって言っていたから一緒にみにきたんっすね?」
小さい女の子は無邪気に笑っている。七歳くらいに見える彼女はヒメちゃんというらしい。彼女も神のようだ。ツマは黙って会話を聞いていた。
「そうです。ああ、そういえば……ここのこいのぼりが三匹ない理由をご存知ですか?」
イドと呼ばれた男が突然、知りたかった内容を話し始めた。
ツマは思わずイドと呼ばれた男に過剰に近づいた。
「うっ……!な、なんですか?」
ツマがあまりに近いのでイドは戸惑いの声を上げた。
「いいから、早く理由を話したまえ!」
ツマはイドよりも外見は若いが神格ははるかにツマの方が上である。イドは冷や汗をかきながら恐ろしい顔で急かすツマに口を開いた。
「あ……えっとですね……。毎年ここのこいのぼりを楽しみにしている少年がいたのですが足を複雑骨折するケガを負ってしまいまして、現在入院中だそうです。それでケガとリハビリと入院で落ち込みひじょうに気持ちが沈んでいたらしいです。
それを見かねた両親が市に連絡を入れ、病院の近くにこいのぼりを三匹ほど飾ってくれませんか?とお願いしたそうです。無理な願いかとご両親は諦めたようですが優しい市の職員達が頑張れのメッセージと共にこいのぼりを病室から見える位置にサプライズで飾ってくれたそうです。
それから少年は気持ちを前向きに持つことができ、今はリハビリにも積極的でメキメキ治っていると。その効果は他の子供にも影響を与えたそうで今は皆でこいのぼりを見ているそうです。」
「……うう……。」
イドの話を聞いたツマとニッパーは顔を歪ませ、感動の涙を流していた。
「なんていい話なんだ!応援しているぞ!少年!」
「私も応援しているっす!」
「あなた達は神用の新聞を読んでいないのですか……?ほら、天界通信を。」
イドは逆に呆れた顔をしていた。
「読んだけどてきとうに読み飛ばしてた!」
「私もっす!」
二神はおよよとハンカチで涙を拭きながら風になびくこいのぼりを見上げた。
「よし、その病院近くにあるこいのぼりを見に行くぞ!ニッパー君!」
「はいっす!」
ツマとニッパーは茫然としているイドに軽く頭を下げるとどこぞへと走り去っていった。
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今考えると天記神の策略だったのではないかと思う。
彼が神々向けの情報誌であり新聞の天界通信を読んでいないわけがないのだ。
彼は図書の神なのだから。
おそらく彼は結末を知っていた。
「ふう……これでしばらく帰ってこないかしら?この間にゆっくり本を読みながらティーブレイクでも……。」
天記神は図書館の閲覧コーナーの椅子に座りながらホッと一息ついていた。




