こいストゥリーマー事件2
クッキーをしっかり食べたツマとニッパーはさっそく例の河川敷にきていた。天気は快晴。どこまでも続く青空に色とりどりの大きなこいのぼりが多数泳いでいる。近くには公園があり、そこの公園ではつつじが満開だった。ちなみにフジも満開だ。
「んん~。あたたかくって気持ちいいっすね~!」
ニッパーは鳥の鳴き声を聞きながら大きく伸びをした。
「ニッパー君、眠くなってはいけないぞ。あのこいのぼりを見ろ!三匹分のこいのぼりが入りそうなスペースが不自然に空いている。つまり、三匹分のこいのぼりが何者かによって連れ去られたわけだ。」
ツマはあくびをしているニッパーを揺すって起こし、河川敷にかかっているこいのぼりを指差した。
「う~ん……。元々あそこにはこいのぼりがなかったとか?」
「それを聞いてみよう。」
ツマは近くにあったつつじの植木に手を当てた。
ツマには特殊な能力がある。それは木々に対し、YES、NOで答えられる質問のみツマが聞きだせるというものだ。
「このこいのぼりは前々からなかったか?」
ツマがつつじに質問を投げかけるとつつじは
……NO。
と答えてきた。
「ノーだ。という事はここにはこいのぼりがあったという事だ。」
「う~ん……じゃあ、盗まれたんすかね?」
「聞いてみよう。……こいのぼりは盗まれたのか?」
……NO。
つつじはツマの質問にノーと答えた。
「盗まれてもいない……。じゃあ、一体なぜ……?」
ツマのひとりごとにはつつじは反応しなかった。YES、NOの質問ではないからだ。
ツマはもう一度、こいのぼりがないところを眺めてみた。こいのぼりがないところは川を挟んだ向こう側の河川敷の部分の一番端だ。
人が取りやすいところだ……。
ツマはそう思った。
「じゃあ、あそこにあったこいのぼりは人の手によって取られたものか?」
……YES。
つつじはツマの質問にイエスと答えた。
「イエスっすね……。つまり、盗みでもなく、誰かがこいのぼりを三匹分持って行ったって事っすか……。わけわかんないっすね?」
ニッパーは頭をひねらせて唸っている。実は眠いだけかもしれない。
「こいのぼりといえば子供だ。子供が関係しているかもしれない。」
ツマは閃いた事をぽつぽつと口にした。
「そうっすね。その可能性は大っす。盗んではいないんで何か事情があって三匹取ったって事っすね。」
ニッパーも当たり障りのない返答をしてきた。
「……でも子供が欲しいと願ったとは考えにくい。子供が願ったとしてもここの市が許さないだろうし。……市……そうか!」
ツマは突然目を輝かせた。
「な、何っすか?」
ニッパーは顔をひくつかせながら後ずさりした。
「ニッパー君!良く考えたらわかる事だ!一般人がこいのぼりがほしいと市に言ったら貸してくれるか?貸してくれないだろう。ここに泳いでいるこいのぼりがどんどん減ってしまう!」
ツマは興奮気味にニッパーに寄ってきた。
「そ、そうっすね……。貸してほしいっていう人がどれだけいるかわかんないっすけど……。」
ニッパー苦笑いのままツマの言葉を待った。
「わからないのか?つまり、こいのぼりを持って行ったのは市の役員だ!市の役員が飾ったのなら外すのも役員だ!ここは市が行っているんだろ?」
「ああ……な、なるほどっす……。」
「とりあえず聞いてみる。」
ツマは一方的に話すと再びつつじの方に向き直った。
「……このこいのぼりを持って行ったのは市の役員か?」
……YES。
つつじの返答はイエスだった。ツマはどこか得意げに頷いた。
「まあ、当然だ。」
「じゃ、じゃあ……なんでこいのぼりを三匹だけ持って行ったんすか?」
ニッパーの質問にツマは再び考え込んだ。
「……なんでだ?やっぱり子供が関係していたりするのか?」
……YES。
ツマがなんとなく言った言葉につつじは反応した。
「ん?今、イエスと言ったのか?イエスと言ったな!子供関係で市がこいのぼりを外したのか。」
ツマの目にまた輝きが戻った。聞きだせたのはたまたまの偶然だったが。
「子供ならばこの河川敷にくればいつでも見れるだろう。しかし……わざわざ市が外して行ったという事は……その子は今年こいのぼりが見れない重要な事情があるのか、それとも邪魔だから三匹分だけ取ったのか……?」
「つまっちゃん、邪魔だから取るってよくわからないっすね。」
ニッパーはツマの発言に首を傾げた。
「まあ、例えばだが……河川敷にこいのぼりがかかっている部分があるのでボール遊びとかでこいのぼりにひっかかってしまうとか?」
「そんならこの河川敷一体のこいのぼりが外されるっすよ。」
ニッパーの言葉にツマは深く頷いた。
「そうだな……。よほどの事情がありそうだ。」
ツマとニッパーが再び推理を始めると近くから男の声がした。




