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チェリーおにぎり事件最終話

 「わかったよ!ニッパー君。」

 「え?」

 ニッパーは途中からまったく違う事を頭に思い浮かべていたらしい。突然話しかけられて事件の事だとは思っていなかった。


 「わかったって何がっすか?」

 「おにぎり事件の真相だ。」

 「おお、まじっすか。」

 ぼけっとしていたニッパーを呆れた目で見つめながらツマは再び桜の木に手を置いた。


 「おにぎりは子供連れの方も買っていたか?」

 ……YES。

 「……?」

 ニッパーはきょとんとした顔をしている。ツマは続けた。


 「それは盗まれた客と同じ店のおにぎりか?」

 ……YES。

 「ここは混んでいたか?」

 ……YES。

 「ここまで聞けばもうわかった。わかっただろう?ニッパー君。」

 「あー……え~あ、なんとなくっすね~……はは。」

 ニッパーの煮え切らない答えにツマはため息をついて解説を始めた。


 「おにぎりを盗まれた花見客と盗んだ子供がいたシートは混んでいたためかなり密着していたと思われる。おそらく子供と盗まれた花見客はシートの端の方で背中合わせに座っていたに違いない。そして相手方のシートと自分のシートの間に花見客はおにぎりを置いていた。それを子供が自分のだと思って食べてしまったんだ。」


 ツマはどこぞの探偵のモノマネをし、人差し指を立てながらウロウロと動き回る。


 「な、なるほど……。あ、じゃあ……子供がいたお花見客が買ったおにぎりは?同じおにぎりを買って間違えたのは納得したっすけど……子供の方も隣のおにぎりを食べておいて後で家族が買ってきたおにぎりを見たらさすがに気がつくと思うんっすけど。」

 「あ……。」

 ニッパーの鋭い意見にツマは詰まった。


 「たしかにそうだ。その子供がいる家族が買ったおにぎりはどこへ行ったんだ?確かにそれだと子供は気がつきそうだが……。」

 ツマとニッパーはまた深く悩みこんだ。


 そこへ赤色のちゃんちゃんこを来た狐耳の男がこちらに向かって歩いてきた。


 「あ、あれは……実りの神、日穀信智神にちこくしんとものかみ。ミノさんだ。」

 ミノさんと呼ばれた狐耳の神は頭を抱えながら突然叫び出した。


 「俺のせいじゃねぇんだ!おたく達もおにぎりがなくなるのを俺のせいだと思ってんだろ!誤解だ!穀物の神がおにぎりのお供え物がほしくてそんな事するわけないだろ!神社にここ毎日握り飯が届けられるんだ……。嬉しいが違うぞ!俺じゃねぇぞ!」

 ミノさんは半泣き状態でツマ達を説得していた。


 「ミノさん、落ち着いて。あなたのせいだとは思っていない。あなたの容疑を晴らしにきた。さあ、知っている事を洗いざらい話なさい。」

 「……そこは推理しないんっすね……。」

 ニッパーの突っ込みを丸無視し、ツマはミノさんに結末を促した。


 「あー……それならちゃんと言うから……ったく、天界通信本部のエビスに散々まがい物の記事を書かれたばかりで俺は涙が……。」

 ミノさんは一つため息をつくと続きを話し始めた。


 「実はな、ここはこないだ花見客でぎっしりだったわけよ。で、皆ここに出ている屋台でおにぎりを買って行ったわけ。


 桜の木から次の桜の木まで三組くらいの花見客が座っていた。その三組はともに同じおにぎりを買っていてな、真ん中にいたガキが間違えて右となりの人のおにぎりを食っちまった。ガキの母親は左となりの花見客に近いところにおにぎりを置いていて左となりにいた花見客が間違えてそれを食っちまった。左の花見客はガキが沢山いて沢山のおにぎりを買って並べていた。その一つと間違えて真ん中の花見客のおにぎりを食っちまったらしい。


 んで、皆、上の桜を眺めながら食っているわけだろ?気がつかないわけよ。そのうち、右となりにいた花見客がおにぎりがないことに気がついて慌てたが当然真ん中は気がついていないし、右は子沢山だったからおにぎりが沢山あってどれを食べたのかもわからない。つまり、こういうのは神のせいにしとこう的な……。俺はまったく関係ないんだ。」


 ミノさんはしくしく涙を流しながらツマ達に訴えた。


 「なるほど……そういう事だったんすか。右の人のおにぎりを真ん中の人が食べて真ん中の人のおにぎりを左の人が食べてしまった……と。うわっ、複雑。」


 「ニッパー、まだアリバイは証明されていない。ミノさんが本当の事を言っているのかわからない。三組のおにぎりを一気にひとりで食べたかもしれない。なんでも疑わないと。」

 「おたくは鬼か!」

 ツマの発言にミノさんは半泣きで叫んだ。


 「と、いうことでこれからミノさんのアリバイを証明していこう。」

 「お、まだ推理は続くっすね?」

 ツマとニッパーは半泣き状態のミノさんを引っ張り、現場検証などを始めた。


 「ええ!なんで信じてくれねぇんだよ!頼むよー。逮捕されたくねぇよ~。何もやってねぇんだよ~俺は~……。」

 春のあたたかな風にミノさんの悲痛な叫びが桜の花びらと共に流れていった。


 取り調べは夕方まで続けられた。途中でツマ達が飽きたため、ミノさんはそのまま釈放された。その後、『ツマツヒメ神とニッパーが迷惑をかけました』とミノさんの元に天記神からおにぎりが届けられたという。

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― 新着の感想 ―
[良い点] チェリーおにぎり事件編を読みました! 「なるほどな!」という見事なオチでした! お花見の特性を活かしたうまいトリックです。 【Yes or No】の質問とその後のロジックが癖になりますね…
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