ひなドール事件最終話
「どういう事っすか?」
「それはだね……。人形は自分の足で民家に行ったんだ。」
「んん?そんな気持ち悪いことが起こるわけないっすよ……。」
「いや、起こる。君も知っていると思うが……。」
ニッパーをまっすぐ見やりツマは大きく頷いた。
「……んー……?」
「つくも神だよ。ニッパー君。」
首を傾げているニッパーにツマは得意げに言い放った。
「つくも神っすか?」
「なんとなくわかった。……見てみていたまえ。……人形は歩いて民家へ移動したか?」
……YES。
「イエス……。……人形はある一定の時間だけその家にいたか?」
……YES。
「では……それは子供達が願った事か?」
「……?」
ツマの質問にニッパーは理解できずに首を傾げた。
……YES。
「答えはイエスだ。これでもうわかったぞ……。天記神がこの事件を知っていたのはあの神が夢の世界の住神だからだ。子供達の夢を人形達が叶えたんだ。」
「……?えーと……まだよくわかんないっすけど……。」
ニッパーは自己解決しているツマを恐る恐る仰いだ。
「……もう一つ、確信したい。……人形消失した家庭は人形を飾っていなかったか?」
……YES。
木々の返答にツマは満足げに頷いた。
「だから……どういう事っすか?」
「はっきりした理由はわからないが……おそらく、人形を出し忘れて飾れなかった親か、人形を失くしてしまった親か、もともと人形を買うお金がなかった親かを持っている子供がひな祭りに人形を飾りたいと強く願ったのだろう。人形に宿ったつくも神達はその心に反応し、一定時間だけ飾られているに違いない。」
そこまでツマが言った時、ニッパーは「ああ!」と声を上げた。
「なるほどっす!オカルトっぽいっすけどいい感じのオカルトだったんっすね!」
ニッパーはどこかホッとした顔でツマに笑いかけた。
ツマとニッパーが深く息を吐きだした時、足元から声がかかった。
「……?」
足元に目を向けると手のひらサイズくらいしかない少女の人形が三体、笑顔で手を振っていた。
「あ、今私達の事話してましたかー?」
三人の少女の内の三つ編みの可愛らしい人形が大きな瞳をパチパチさせながら声をかけてきた。
「あ、私は宮子と言います。現在は私と雪子と花子でデリバリーひな人形サービスを実施中です。あなた達も女の子ですからひな祭りしませんか?」
宮子と名乗った三つ編みの少女はほほ笑みながら小さくお辞儀をした。短い髪をしている女の子が雪子で金髪青眼の少女が花子というらしい。
その可愛らしい外見にツマとニッパーは思わず微笑んでしまった。
無事事件を解決し、ツマとニッパーは天記神の図書館へと戻ってきた。
「しかし、あの人形ちゃん達はひな人形とはかなりかけ離れた人形だったっすね……。」
「まあ、それは子供達が満足すればそれでいい……。」
「あら、おかえりなさい。無事解決したみたいね。」
閲覧コーナーの椅子に腰かけたツマとニッパーに気がついた天記神がいそいそと近づいてきた。
「全部知っていたね……?」
ツマは天記神が来るや否やすぐに尋ねた。
「ふふ……まあ……いい暇つぶしになったでしょう?」
「ええ……多少はね。もっと人間同士のお話で推理したかったけど。」
ツマは天記神に不満げに目を向けるとため息をついた。
「最初はオカルトっぽくてビビったっすけどね。」
「それはニッパー君だけだ。」
ケラケラと笑っているニッパーにツマはクールに対応した。
「ああ、そうだわ。菱餅あるのよ。食べます?あの三人のお人形さんもここに来るそうよ。みんなでひな祭りしましょうね。」
「はーい。」
楽しそうに笑っている天記神にツマとニッパーはため息交じりに返事をした。




