かぶとむし
あらすじにも書きましたが虫の出るグロ話です。苦手な方はご注意下さい。
これは、僕がとある桃農家さんの所へ手伝いに行った時の話です。
「こやしの運び出しを手伝って欲しい」
他にも細々と色んな話はあったと思うですが、なにぶん昔の事なので覚えているのはそれだけですし、この話の要点もそこだけです。
堆肥というと有機肥料、いわゆる牛糞や鶏糞が一般的なのですが、その農家さんでは少し違う物を材料にしておりました。
老木となった桃の木です。
品種や育て方にもよりますが、桃の木はせいぜい十年前後で寿命が来るものです。無論新しく植え替えはするのですが、その都度生じてしまう大量の古木の丸太をどうするか、と言うのは果樹農家の永遠の課題の一つであります。
そこでその農家さんは一つの回答として、畑の一角に集めた古木を砕いて、腐らせて、自前の腐葉土のようなものを作っていたのです。
一メートル四方で、成人男性の腰のやや下くらいの高さしかない、ちょっとした小山のような黒色のこやし。それをほっくり返して猫車へ移す手伝いを頼まれたわけですね。
さて。
話は変わりますが、皆さんかぶとむしはお好きでしょうか。
黒光りして、長く立派なツノを持つ、夏の風物詩――の方ではなく。
白くまるまるとしていて、ペットボトルの飲み口くらいの太さがある、幼虫の方です。
このかぶとむしというヤツは、古木や腐葉土に卵を産み付ける性質がありましてね、ええ。
集まってくる訳ですよ、小山の中に。
今まで生み付けていた古木が無くなったためなのか、非常に大量に。
スコップを一刺しする度に。
フォークを一突きする度に。
輪切りや串刺しになった真っ白い幼虫が。
ごろっ。
ごろっ。
ぼたぼたっ。
反射なのか死にきってないのか、刺した直後のヤツはまだ動いていたのを今でも覚えています。