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未来は暗い

 その日俺は喫茶店で珈琲を啜っていた。ガムシロップを三本入れた甘ったるい珈琲。俺は喫茶店が嫌いだ。なんとなく、オシャレな感じがするからだ。俺の格好は、ダサい。赤いジャケットを羽織って、ユニクロで売っている安っぽいつくりのジーンズを履いて、不機嫌そうに煙草を吸って、その味を味わって、煙を吐き出している。俺は今まで煙草が麻薬だとは思っていなかった。煙によって脳を酸欠状態にする事で、陶酔の感覚を作り出すものだと思っていた。両切りのショートピースを吸ってその認識が変わった。あれは本当によく、"キマる。"完全に、薬物だ。ニコチンもタールも普段吸っている煙草の二倍ぐらいあって、吸った瞬間脳に異物が入ってくるあの感覚、ドラッグをやった時と同じ感覚が入ってくる。ヴァニラの味と香りがする煙を吐き出しながらそんな事を考えていた。何故喫茶店に入っていたのかというと、その十分ほど前に道端で警察官にちょっと君、ここは路上煙草禁止区域ですよ、と言われ、千円を取られていたからだ。愛煙家への世間の嫌悪は、一体どういう事なのだろう? 副流煙だかなんだか知らないが、そんなもの知ったこっちゃない。俺は多分、携帯電話の電波に脳をやられている。奴らの姿を見て、無表情にスマートフォンをクリトリスを弄るときみたいに、真剣な顔をして弄る姿を見てはゾッとさせられている。今では電車の駅ですら、煙草は吸えない。駅のポスターに路上喫煙反対のポスターとして、ちびの子供の写真が顔一杯に描かれているポスターがあった。そのキャッチコピーは、もうちょっとで目に当たる所やってんで、だ。俺は駅から降りてすぐ、煙草に火をつけ、そのポスターの両目を火で焼いた。後日、駅員からもうああいう行為はご遠慮ください、みたいな事を言われた。遠慮しなけりゃいいのだけども、俺は遠慮する事にした。電車に乗れないと通勤が不便だ。ヒトラーは嫌煙家だったらしい。どうでもいい事だ。それで、喫茶店に入り、アイスコーヒーを頼み、両切りのショートピースを吸っていた。


 ふと気づくと俺のすぐ前のボックス席に女が二人座っていた。何かを話していた、今回の合コン最悪だったぁ、そう言っていた。俺は聞き耳をたてた、おっと、趣味が悪いなんていうなよ。俺からするとスマホのゲームを知的障害者みたいにプレイする方が、趣味が悪いんだから。


 あの人さぁ、すごい良い人だったけど、飲食業とか、ありえなくない? 女はそう言っていた。顔が前田日明そっくりだった。俺は続けて聞き耳をたてた。連れの女は、そうだねぇ、でも良い人だったよぉ、みたいな事を言っている。でもさぁ、飲食だよ、飲食。マジ無理だわ。その前田日明の目じりには小じわが掘り込まれていた。


 ちょっと待てよ、と。

 お前は前田日明そっくりだという事をわかっているのか? 

 そう思って見ると、連れの女も"サブミッション職人"の、UWF創設者の顔のように見えてくる。確か、藤田だっけ。


 前田はなおも話し続ける。やっぱさぁ、いくら手取りよくっても、ステイタスがついてないと無理だよねぇ。そういう。


 ちょっと待てよ、と俺は思った。

 お前は前田日明そっくりなんだぞ。

 ゼットンでも倒してろよ、と思った。


 俺はファストフードで働いていた経験がある。

 最近の子供連れというか、ファミリーは、ゾッとする。

 親がジジイとババアばっかりなのだ。

 ゾッとするような醜い下っ腹の出たジジイが同じようなババアを連れて、子供は可愛い。

 横柄な態度で、こう言う。ねぇ、これセットに出来ないの? 

 申し訳ございません。


 藤田組長はいやでもさぁ、良かったよお、ああいう人と出会えて、良かったぁ。あたしはアリだと思うなぁ。いや、お前は膝十字固めでも決めてろよ、と俺は思った。

 父権について。

 中国人のことだ。

 ファストフードで働いていた時、俺はフロアワークに出ていた。

 要するにくそみたいな客のくそみたいな規定の場所に捨てもせずほったらかして帰ったトレイを片付ける仕事の事だ。

 中国人のファミリーが来ていた。

 腹は出ていた。

 その中国人の家族の間でトラブルが起こったようだった。

 中国人はまずそのトラブルを起こした子供を群れから引き離し、事情を聴いていた。時に怒りながら、時になだめていた。

 そしてその中国人の父親は群れに帰り、事情を話し、トラブルを起こした子供をその兄弟みたいな子供に謝らせていた。その時俺に言った、スミマセン、オミズニコクダサイ。ヘタクソな日本語だった。


 父親と言うのは要するに、最小単位の群れを纏めるリーダーみたいなものだ。

 教師であり、リーダーであり、調停者であり、外交官でもある。

 情報を求める飢えが父親には求められる。

 パパはなんでも知っているのお父さんが理想とされるのは、外の情報を知っていて、求める姿勢があるからだ。 


 いや、でもさぁ、飲食業だよ、給料安いしさぁ、いつ休みになるかわからないじゃん。前田はまだ言っている。お前はザ・アウトサイダーでも主催してろよ、と俺は思った。


 自分に価値がないという事を知らなければ、何もわからないし、何も手に入らない。

 好きの反対は無関心だ。

 俺はもう何もかもがどうでもいい。

 ただ俺の視界にどうでもいいものが入ってくると不快になる。

 俺が喫茶店で見た前田は一生知る事はないだろう。

 ほとんどの人間も知る事はないだろう。

 エグザイルが持て囃され、西野カナがウケ、K-POPとマルーン5がウケるような世界だ。

 原子爆弾でも落としちまった方がいい。

 そういう人間がガキを作りガキも同じように育つ。

 ガキは色黒で顔の皮膚は汚い。マジで、とカワイイしか語彙はない。

 同じようなガキとつるむ事にしか興味がない。


 こんな国、滅びてしまった方がいい。俺はそう思って、会計を済ませ、席を立った。藤原組長と前田はまだ話していた。


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