ハミコン
裏野ハイツとは何の関係も無いお話です。『なんで書いてしまったのか?』自分でもわからない。それが一番怖いところ。
あと、今月このサイトに会員登録して、はじめて書いた物の『ジャンル』を間違えてしまいました。ジャンル変更出来ない事に肝を冷やしました。すごく。これも関係ありませんね。パニックというジャンルがあった事にパニックでした。おわり。
私は驚愕に目を見開く、そして信じられない事実に呟いた。
「なんてことだ! まさか……こんな事が……っ!」
ここは某巨大企業のパーティ会場、その洗面所だ。目の前には蛇口と、その上に大きな鏡が付いている。だが鏡に映る私は、いつもの姿では無かった。
会場でつい飲み過ぎてしまい、尿意を催した私は、身だしなみを直すついでに洗面所に来た。
そこで私は常識を覆すとんでもない物を見てしまった。
だが今は、それよりもコレをなんとかしないと……。
先ほどから必死に抑え込んでいるが、どうしても縦に割れてしまう。両手で押さえていないと。
どうしてもダメだ、私は落胆し、洗面台を叩いた。
当然だがパックリ割れてしまった。
そして――――。
ついに、顔を上げた私はその中身を見てしまった。
痛みはなぜか無い。
だが完全に割れてしまっている。
私の頭が眉間の真ん中、まゆ毛の上あたりでパックリと綺麗に割れてしまったのだ。これから桃太郎でも生まれてくるかのように、綺麗に真っ二つだ。
しかし私は不自然な事に気付いた。いや、すでにこの状態が常識では考えられない出来事、奇跡体験? アンビリーバーボン(1997年放送開始)な出来事ではあるが……。
私はふと番組のストーリーテラーを務める、お笑い界のBIG3の顔を思い出した。ピートたけおさん(1947年日生まれ)通称殿だ。そして私の誕生日と一日違いだ。再生された思い出の映像で、たけおさんが相棒のムジョルニアを使い、ガンビット小林(1972年生まれ)をぶん殴っていた。そしてガンビット小林の頭から喜多野ブルーの血が――。
いやこの記憶は改竄されている。というよりこんな事今はどうでもいい。
『あなたの身に起こるのは、明後日かもしれません』
(今日だったとは……。たけおさんめ!)
謎のフラッシュバックを振り払い、私は改めて鏡の中に映る自分の問題と向き合った。
(おや?)
「アレが見えないが……」
私の想定ではこんな割れ方をしたら、当然見える物が鏡に映ってないのが気になった。
勇気を出して、頭を下げ、割れた中身を上目遣いで見てみた。
そして私にはまた新たな問題が発生した、新たな問題はその中身だった。信じられない、私の知っている常識、いや私の想像とは大分違う物が、そこには鎮座していた。
信じられない事に、私の頭の中には、とても懐かしいハミコン(1983年発売)の本体が入っていた。そしてちゃんとロムカセットがささっている。
ハミコン本体の周りには何もない。空洞だ。
(何故だ、何故こうなっている? 私の常識は、世界の非常識だったのか?)
どうにも信じられず、改めて鏡の中の自分の頭の中のハミコンを見る。
(おや?)
改めて見てみると、ささっているロムカセットには見覚えがあった。
スベランガー(1983年発売)だ。カセット中央部分に赤いランプが付いている。古い物に変な話だが、今見ても画期的だ。これは益々イヤな予感しかしない。二つ以上の意味でイヤな予感しかしないではないか。
私は深く落胆し、再び俯いた。数分間、茫然と立ち尽くした。
(これはきっと悪い夢だ。そうに違いない!)
意を決して私は再び鏡で中身を確認した。
すると――――。
(なっ! なにぃ!)
私の頭の中にあるハミコン、それは変わらない。しかし、ささっているソフトがたけおの挑戦状(1986年発売)に変わっていた。
なんて事だ。まだたけおさんは私に挑戦しようというのか……。
一体どうすれば――。
遠くの空で雷が鳴ったのが聞こえてきた。
色々な意味で嵐が来る。
私はそう確信した。
一体どうしたらいいんだ。こんな時の対処法など、私は知らない。こんなの噂で聞いた事も無い。
私はしばし途方に暮れた。
いや、待てよ。血は出ていないし、痛みはないんだ、そうだ病院に行こう。
私はお手洗いの入口に向か――。
(いや違う待て! このまま出て行ったら頭の事がパーティ会場のみんなにバレてしまうではないか! こんな事が知れたら、嵐の如くスグに噂は広まり、私の世間体が……! くそっ! どうしたら! どうしたらいいんだ!)
な、何か、何かないか、頭が割れないように押さえられるような物は……。何か、そうヘッドバンドのような、この際ニット帽でもいい。多少不自然だが致し方ない。酔っぱらったフリでもして『YO! YO!』とかやればいいんだ。
(いや! 世間体が出てくる!)
おのれ世間体め、奴はどこにでも姿を現す害虫だ。
落胆した私は、しばし俯く。
しかし落ち込んだ気持ちを振り払い、私は再び鏡を見て、私は今日一番のアイディアを思いついた。
そうだ、あるじゃないか、一番身近に、こんなにも近くに。
ネクタイだ。
(そうだネクタイで押さえよう!)
イヤ待て……駄目だ……。
今夜は優雅な立食パーティなのに、『一人だけ酔っぱらったお調子者』みたいになってしまう。忘年会などの宴会でならそれで誤魔化せただろうが……。今回のミッションには使えん。
(おのれ、またも私の世間体が!)
またも私の世間体が邪魔をする、それも今日一番のアイディアをだ。
しかしそれもしょうがない。
仮に、暴れまわる世間体をなんとかねじ伏せ、作戦を実行したとする。頭にネクタイを巻いて固定し作戦を実行したら……。私の今まで築き上げて来たキャリア……実績が、『お調子者』に早変わりしてしまう。それもたった一日にして……だ。
くそ、私がいっそカツラなら……頭も隠せて固定も出来る。隠蔽の二重奏だ。まさに一石二鳥なのに……。
私は勢いよく首をうなだれた。
すると『カチッ』っと何かがハマルような音が聞こえた。
(ん?)
再び顔を上げると、頭が元通りになっていた。
(なっ! なんとぉっ!?)
まさかさっきの『カチッ』という音が……。
(なにかちゃんとハマッたような音がしたが、あれが原因か? 私の頭はちゃんとハマッていなかっただけだったのか)
私は確認のために、ボクサーのように軽く頭を左右に振ってみた。
拳聖と呼ばれたコロラドの殺人鬼、チャック・テンブシー(1895年生まれ)のように右に左に小刻みにウィービングする。仮想の敵から放たれるパンチを想像し、それを避ける。そしてズンズンと洗面台に映る自分に向かっていく。無駄に。仮想の敵を追い詰めて行く。意味も無く。
そうこうしている内に、若かりし日を思い出し血が騒ぐのを感じた。すると気分が乗って来た私にチャックの魂が乗り移った。かのようにパンチを打った。口で『シュッシュッ』と効果音を付けながらパンチをクリ出す。軽快なフットワークで懐に飛び込み、存在しない敵に向かい激しいラッシュを叩きこむ。ふっ全弾ヒットだ。
ふと鏡の自分と目が合い、当初の目的を思い出した。いかんいかん、つい夢中になってしまった。
よし、割れない、大丈夫だ。
綿密なダブルチェックを終えた私は心底安堵した。今年一番の安心感を感じた。
頭の中の真実には驚愕したが、本当に一安心だ。
これでやっとトイレの外に出られる。
(しかし一応病院には行くべきだろうか?)
そう考えながら私はトイレの扉を開けた。
トイレのドアを開けると、パーティ会場の喧騒が飛び込んできた。現実が戻って来た。
しかし、外に出た私を待っていたのは、再び驚愕の真実だった。
(ななななななな!)
私は無意識に、伝説的ハードロックバンド缶ズ安堵ロース肉(1985年結成)のボーカリスト、マクセルロース(1962年生まれ)のように驚いてしまった。
そこはまたしても私の理解を超えた世界だった。何時の間にか常識の及ばない非日常に招待されてしまっていた。
私の視界に入ったパーティ会場にいる沢山の出席者。その頭の中にも、ゲーム機本体が鎮座していたのだ。
それもみんな常識の様に、さも当然の様に頭を全開にしている。カセットがさしこんである人や、本体のフタを開けてCDを回している人もいる。それも見せびらかすように、だ。
みんなに見せている。『これが普通だ』と言わんばかりに丸出しだ。自慢するように魅せている人もいる。
私は再び驚愕の真実に大口を開け絶句した。
しかし私はまた新たな事実に気付いた。私の頭の中はそう、ご存じハミコンだ。それは万歩ゆずって納得しよう。
しかし周りは――。
周りのみんなはもっと新しいのだ。
プレーンステイション2(2000年発売)やXBOOOKS(2002年発売)ほとんどCD―ROMで動いているような新しい本体ばかりだ。
(くっ……。これまたどういう事だ。私が時代遅れだとでもいうのか!)
ゲーム機が頭の中にある事はそっちのけで、私は心底羨んだ。
『時代遅れ』その衝撃の新事実に耐えられない私は、死に物狂いで会場を見回す。
すると――。
ネオギオ(1991年発売)やメカドライプ(1988年発売)の人がいた。やっと見つけたロムカセットだ。
まだ諦めきれない私はさらに会場を探した。
そして――。
見つけた。見慣れないマシンを。
セカ・マーコ3(1985年発売)だ。ギリギリ惜しい。
(くぅっ! 私の物より最新だ!)
私は絶望した……。
(もはやこの世に私より古い物は……もう……。せめて……、せめて私と同じハミコンよ……! あってくれ! 同士よ! 立ち上がれ!)
私は挫けそうな心を奮い立たせ最後の力を振り絞り、希望を捜しに再び歩き出した。
そしてやっと、見つけた。肉眼では確認した事のない見慣れないマシンを――。
正直どうかと思うコンロのような独特のフォルム、しかしその販売数は脅威の40万台超えを誇り、日本中のお茶の間を席巻した伝説の怪物、初代カセットピジョン(1981年発売)だ。
(見つけたっ! やっと見つけたぞ!)
永遠の様な時間を探していた気がする。悠久の時を捜し歩いてきた気がする。足が棒のようになり、膝が笑い始める。
しかし私はやっとプライドを取り戻した。そして何かで優勝してトロフィーを貰ったような充実感に満たされた。
額から滲み出た汗に気づき、私はハンカチで拭いた。
ふぅ……、と一息ついていると、背後から声を掛けられた。
振り返るとそこに居たのは、以前お世話になった取引先の専務だった。眼鏡をかけた恰幅の良い中年男性が片手を上げて立っていた。お酒が入っているのかほんのりと頬を赤らめている。ニコニコと笑ってとっても上機嫌だ。そして専務も当然のごとく丸出しにしていた。
そして専務は丸出しのまま頭をさげ挨拶した。
(なにぃっ!)
私は今日の度重なる驚きに目頭が痛くなった。もう何か出てしまいそうだ。
なんと専務の頭の中には小さくなった最新型の化け物が鎮座していたのだ。
私は周囲に聞こえそうな音を出して、生唾をゴクリと飲み込んだ。
最新も最新、プレーンステイション4(2014年発売)ではないか……。
(最新型のモンスターマシンだ!)
しかも頭の中でフタが開いて、中身のディスクが勢いよく回転しているのが見える。
それに加えて回っているソフトは……、クラントシフトオート(2014年発売)だ。
(人懐っこい笑顔でなんという激しいご趣味をお持ちなんだ。朗らかな顔をして毎夜ブーブーを盗んでいるというのか……?! まさにモンスターじゃないか! ――――ハッ)
いかん、専務が怪訝そうに私を見ている。挨拶しているのに茫然として無反応な私の顔を覗き込んでいる。そして心配するような表情で何事か言っている。
しかしショックを受けている私には、その声は聞こえなかった。
(なんてうらやましいんだ!)
私はつい専務を睨んでしまった。
まずい……。これはまずいぞ。ますます私の頭の中を見せる訳にはいかなくなってしまったゾ。
なんと言っても私の頭の中には、たけおの挑戦状が入っているのだ。殿の挑戦が待っているのだ。
この異常事態が、この世界の常識だとしても、絶対に見せられない。死守せねば、秘密を。この頭の中を。
決意の固まった私は、再び専務に向き直る。
葛藤する私を、益々心配するように専務が焦り出していた。
マズイ、ヘンに思われている。考え込んで思考停止していた私を、何かの病気じゃないかと周りに訴えている。
よし、まずは取りあえず挨拶だ。
私は普段通りを装い、元気よく頭を下げて、
「どうも専務、お久しぶりです」
すると突然、私の視界が、バラバラになった。めちゃくちゃに混ぜられたパズルのピースのようになった。
そして『ピー』という電子音が低く鳴り始めた。しかも鳴りやまない。
(しまった。バグッたのか?)
『ピ――――――――――――――――――――――――ブツンッ』
そして目の前が真っ暗になった。鳴り続けていた電子音も消えた。
男の人生は終わった。
ハミコンはバグッてしまったのだ。
バグッてしまったのだった。
『――――――――――――――――――――――――』
――あとがき――
でもこの後、専務が主人公の頭から挑戦状(ROM)を引っこ抜いてフーフーしたあと挿入してくれます。アソコに。そんで生き返ります。生き返る事にしました。いま。めでたし、めでたし?
意味がわかっても……、というより意味がない話し。意味がない事がわかる話し。
――あとがき2―― 今後のこいつ
その後彼は自分を認め旅に出ます。しかし同じハミコン同士には負けたくないので、よりレアなカセットを捜し求める旅にです。はい。オマケのO太郎ワンワン大パニックとか岩男4とか。今は筋肉まんマッスルタッグマッチョシルバー(モンゴルァマンバージョン)を探している所です。たぶん。最終的に未開封だと高級車ポルチェが買えるくらいのソフトを手に入れようと超がんばります。
――ちなみに――
主人公のイメージは、ローマ帝国をお風呂で救った佃煮製作所の人です。どうでもいいですね。今日のパーティもなんかよくわからない部品の完成披露パーティという事にします。
「どんな難問にも必ず答えがある。みんなのお金を……どうか貸してほしい!」
個人的には一番すきな俳優さんです。サダヲさんも好きです。阿部が好きなだけではないです。