MEGUMI:2015-はじめて貴方がくれたもの-
私は恵、19歳。
もうすぐで20歳、来年は成人式だ。
しかし、化粧の仕方も、お洒落もよくわからない。
スタイルもあまり丸みはなく、顔も童顔のため、年相応に見られたことはない。
それなのに、身長は標準より高めなので、とてもチグハグな感じがして自分のことを好きにはなれない。
「メグ、どうかした?」
そんな私の隣を歩く6歳年上でとても落ち着いている大人びた雰囲気のある彼、誠さんは一応『彼氏』という存在だ。
同じ大学の友達……と言っていいのだろうか。
1ヶ月ほど前だった。
人数を埋めるためと、半ばむりやり参加させられた合コンだが、大半の理由は私が居れば引き立て役になるからではないかと思っている。
しかし、あろうことか一番人気の彼は私に興味を持ち、あれよあれよと今に至る。
今は近くのショッピングモールに来ている。
日曜日の今日は、家族連れも多くとても賑わっている。
もちろん、カップルも居るが、果たして私たちの関係はどのように見えているのだろうか?
キョロキョロと落ち着かずに周りを見ながら、誠さんの横を歩いているとメガネショップの前で足が止められた。
「行きたいと言っていたのはココですか?」
尋ねると頷いた。
「この店は俺の知り合いがやってる店なんだ。あいつ個人的な趣味でアンダーリムの品ぞろえは国内3本の指に入るくらいらしい」
と少し呆れたように笑いながら言うと、店の中へ足を踏み入れた。
人気店なのか、なかなかに賑わっている。
なんと、メガネ屋なのに店舗の片隅にカフェコーナーまであり、若いカップルに、老夫婦、1人で来ている人まで、ドリンクを片手にメガネを吟味している。
そんな小さいながらもお洒落な雰囲気のカフェコーナーを行き来している女性はとても小さな人でキビキビというよりはチョコマカという表現が合うような動きをして対応している。
「好ちゃん。こんにちは。」
彼はその小さな女性を少し遠慮がちな声で呼び止めた。
「いらっしゃい!あ、彼女がこの前話してた?」
私を見てくる小さな彼女もメガネを掛けている。
とても綺麗な人だと思った。
しかし、よく良く見ると化粧はほとんどしておらず、ジーパンに白シャツとお洒落要素はあまりない。
唯一ちょっと変わった色のアンダーリムのメガネを掛けている。
ただそれだけなのに、なんだかとても似合っていて、小さな人なのにとても大人っぽく、妖艶な雰囲気すら漂わせている。
同じメガネ女子として雲泥の差だ。
「ちょっと昇を呼んでくるね。中でレンズ削ってるから。」
そう言ってバックルームへ小走りに入っていった。
改めて店内を見回すと、他のスタッフは3人が3人ともそれぞれにお客さんの対応をしている。
1人で、あっちへ、こっちへと試着しては首をひねる事を繰り返す人もいる。
確かにフレームが下だけに入っているアンダーリムというのが豊富なように思えた。
私は、ぶなんなメガネしかしたことがない。
色も、形もシンプル。
自分に何が似合うのか分からない。
お洒落が苦手だから、メガネまで地味だ。
「おまたせ。」
現れたのは標準より高めの大きな人。
あの小さな好と呼ばれた人と並ぶと凸凹感が凄い。
「あいかわらず、趣味まっしぐらな仕事っぷりみたいだな」
「楽しく仕事ができて一石二鳥だろ?」
仲良さげな2人は軽く挨拶程度の会話を済ませると、私の方を見てくる。
どぎまぎとしている私を見てクスクスと笑いながら誠さんが視線を昇さんへ移して「頼むよ」と一言告げた。
「おーけー。なんだか昔の好を見てるような気がするねぇ。」
そう言うと私たちをカウンター席へ案内し、昇さんは店内を歩いていくつかのメガネフレームをトレーに乗せて戻ってきた。
華奢なお花のモチーフがサイドに付いているシルバーのもの。
アンダーリムでレンズカットがとても特徴的なもの。
濃い紫色の太めフレームでサイドに和柄が入ったもの。
「これ、どれも似合うと思うけどね。ただ、イチオシはコレ。」
そういって置かれたのは、エメラルドグリーンのアンダーリム。
光の加減で黄色や紫、ピンク、オレンジにと所々が色を変える。
「こんな綺麗なの……どれも私には……」
「試着はタダだよ。試しに掛けてみせてよ」
そう、誠さん言われて今掛けているメガネを外し、躊躇いがちにそのなんとも言えないエメラルドグリーンのフレームを手に取る。
えぃ!
気合とともに耳へ通した。
閉じた瞳を、ゆっくりと開ける。
「どう?見えるかな?」
そう言って、鏡をこちらに向けてくれる昇さん。
恐る恐るのぞき込むと、そこにはいつもとは別人のような私がいた。
色も形も、すべてが初めてのデザイン。
「うわぁー!似合うね〜。」
そう言ってくれたのは好さん。
そちらをみて、ハッと気づいた。
「それ、おれの嫁さんと色違いなんだ。好はその色は似合わなくて、ワインレッドだけどね。」
「メグ、似合ってるけど、どう?」
彼に問われて私はもう一度鏡を覗き込む。
「自分じゃないみたい!」
メガネだけでこんなに違ってくるなんてとテンションが上がってしまう。
皆に似合うと言われて自然と頬も緩む。
「このメガネの名前、教えてあげるよ。」
昇さんが楽しげにタグを指し示した。
『YO-EN』
その文字を見て、私は最初に好さんに妖艶さを感じたことを思い出した。
まさに『妖艶』だと思い、自然と笑が浮かんだ。
「気に入ったみたいだね。」
「はい!メガネだけでこんなに自分が変わるなんて…!あの、おいくらですか?」
今1番の心配はソコだ。
真剣な面持ちで尋ねる私を昇さんは気にすることないと、手をヒラヒラさせる。
「これは、俺からの最初のプレゼント。メグはもっと自分に自信を持つと良いよ。」
「え、でも……」
「俺は、メグの嬉しそうな笑顔が見れたからそれだけで幸せ。」
恵は顔を赤らめながらも、それならば……と、誠に心からの笑顔を向けた。
初めてあなたがくれたのは、妖艶なメガネと、少しの自信だった。
メガネ店オムニバスシリーズ
参加作品一覧
SHIKI:2015 最高の眼鏡をあなたに 作者:志室幸太郎
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