少女少年の過去を知る。
‐前回のあらすじ‐
自分の両親を侮辱され怒りに耐えながらも、
何とか朝輝から過去の話をしてもらえる事になった和葉。
果たして彼の過去に起こった事とは・・・
あの日僕は朝から上級生しかもあまり関わり合いになりたくないタイプの人たちに囲まれてたんだ。
「おい、オマエか二年で最近調子のってるってヤツは?」
既に質問が意味不明だった。
僕は調子に乗って無いからこう否定した。
「いえ、僕は違いますよ。」
全く、朝から不快な思いをさせる奴らだ。
そう思って通り過ぎようとしたんだけど、
「しらばっくれてんじゃねえぞっ!!」
と怒鳴られ僕は後ろから襟を捉まれてその場に尻餅をついてしまったんだ。
「何をするんだっ!?」
この時、苛立ちを隠しきれていたならあの事件は起こらなかっただろうなと今でも後悔している。
「なんだ、歯向かおうってのか?」
気に喰わない後輩が歯向かう素振りを見せたのだ、彼はもう僕を殴るのを抑える理由がなくなったとばかりに迫ってきていた。
「せんぱぁい、顔はだめっすよー。」
と周りも囃し立てるものだからもう止まらない。
「オラァッ!!」
掛け声と同時に僕は腹部に強烈な痛みを感じていた。
「うっ・・・」
その場も悶絶する。
どうやら蹴られたようだ。
「はーはっは!無様だなぁ秀才くんよぉ。」
高らかに笑う名も知らぬ先輩。
そしてその笑いに合わせて笑う周りの取り巻き達。
「ほらほらもう一発だぁっ!!」
そんな事を考えている間にも僕の体には二発三発と蹴りがはいる。
「げぇっ・・・おえっ・・・」
それだけ腹部を蹴られてるのだから当然の様に嘔吐した。
「うわっ汚ねえな、コノヤロウッ!!」
どうやら、吐瀉物が彼の裾にかかったようだ。
それを見て外野が囃し立てる。
「センパーイ、吐いた本人に掃除させましょうよー。」
だんだんこの先輩より外野の方がヤバい奴なのでは無いかと思えてきた。
そしてこの愚かな先輩はそんな外野の注文に一々答える。
「ほら、キレイにしろよ?」
等と言って近寄って来たので僕はせめてもの抵抗でありきたりだが唾を吐きかけてやった。
「テメェ、ぶっ殺すぞっ!!」
その言葉を最後に僕は当時の記憶が無い。
いや、微かには有るのだが鮮明には覚えていないと言ったところか。
鮮明に覚えているのはその後気が付いたら血塗れの先輩とその取り巻き数人が僕の足元に転がっていたと言う事実だ。
「こんなところかな?どう納得した?」
ギャグで言ってるのだろうか?
そうなら質の悪い奴だしそうじゃ無いとしたら賢いのは何らかの不正行為が有ったからと言うしかなくなる。
「まあ、出来るわけないよね。」
良かった、それぐらいは分かってくれていたようだ。
「ええ、貴方がケンカというかリンチというか、その類事をされたってのは解ったけど
どうして結果的には貴方が叩きのめすっていう結末にたどり着くのかが分からない。」
早口でそう言い切る。
実際解らないのだから仕方ない、喧嘩とか格闘技とか一度もしか事無いし興味も無いが話を聞く限りその先輩とやらとこの朝輝君とでは大きな体格差があったようなのだ。
それを考慮しても嘔吐するまで蹴られている、更に取り巻きの加勢を考えるとどう考えても勝ち目は無いように思える。
「その考えで間違いないと思うよ。僕だってその時は訳が分からなかったし。」
この口ぶりだとどうやら今は理由が分かっている様である。
「で、真相は?」
考えても拉致が明かないので聞いてみる事にした。
「答えは簡単、僕がやった。それだけさ。」
「それだと答えになってないわ。」
私はどうやったらその状況下からあの結末に辿り着くのかが聞きたいのだ。実行したのは朝輝君だという事は前々から知っている。
「最後まで聞きなよお姉さん。まあ僕自身も信じるのには結構な時間がかかったから何とも言えないけど。」
「焦らし過ぎなのよ。」
「どうやらね、僕の意識が飛んだ後十秒ほどで僕は立ち上がったらしいんだよ。」
何だろう、少々ホラーめいた話に聞こえてきた。
「そしてね、実行犯の先輩を後ろから蹴ってこかした後馬乗りになって顔面を滅茶苦茶殴ったんだって。」
どうやら、本物のオカルト話らしい。
「何よそれ・・・ホラーじゃない。」
「僕もそう思うね。そして止めに来た取り巻きを相手取って更に殴る蹴るの暴行を行ったみたいだよ。」
「そして、その時の記憶が君には無いと・・・」
これは思ってた内容とは全く違う方向に話が流れてしまった。
恐らく記憶が無いのは極度も興奮状態からだろうし全員を叩きのめすことが出来た理由も恐らく脳がリミッターを外したとかそんな感じの理由だろう。
何だか拍子抜けしてしまった。
「そう此処までなら普通の所謂弱いと思っていた奴をいびっていたらとんだ逆襲をされた愚か者とキレると怖い軟弱者の話だったんだけどね?」
うん?どうやら話はこれで終わらないらしい。
「まだ、続きが有るのね?」
不謹慎だがドキドキしながら聞いてみた。
「僕自身記憶が無いから確信を持てないのがこの話の弱いところなんだけど・・・どうやらその大暴れしていたとき僕は先生に止められたみたいなんだ。」
まあ、当然と言えば当然だろう。
生徒が大喧嘩しているのだ、その状況で止めに入らない先生はいない。
「その時、先生は朝輝君止めなさいって言ったらしいんだよ。」
「うんうん。普通ね。」
「そしたら僕は自分の事を朝輝じゃないって言ったみたいなんだよ。」
おっと、それはどう言う事だろう。
彼は自分の名前を間違う、もしくは認識出来ない程興奮していたのだろうか?
「何て言ったの?朝輝じゃ無いって言ったんでしょう?」
「そうだね。その時僕は自分の事をとうやと名乗ったみたいなんだよね。」
そう言うと朝輝君は紙にとうやと文字を書いた。とうや?この子は朝輝だ。一体誰の名前なんだろうか・・・
「それは、何かのアニメか漫画のキャラクターネーム?」
一応だが重度の痛々しい病気の可能性もあるので探りを入れてみる。
「そんなわけないよ、そもそも僕はそういうサブカルチャーには手を出していないよ。」
あっさり否定された。
まあこれでこの話がそういう痛々しい病気に関係が無いということが解ったので一安心だ。
「僕からしたら漫画やアニメのキャラクターだった方が良かったよ。自分の無意識下に有る名前が自分の知らない名前なんて気持ち悪い事この上ない。」
どうやら、この件は本気で気味悪がっている様だ。
「でも本当に不可思議ね?だって君にはお兄さんも居ないし友達も居ないのに・・・」
「今の発言はとんでもない失礼なんだけどね。」
分かってる。
が、反省する気もないしこれからも止める気はない。
「だけど、その通りなんだよ。僕には兄弟はいないし友達なんてものも居ない。それに父さんの名前も【当夜】何て名前じゃないんだよ。」
いよいよ精神科医かオカルトの世界である。
段々私が夜道を歩いて帰らなくちゃいけないのを知っててビビらせてるのでは無いかと思えてきた。
「おっと、これ以上言うとお姉さんが返れなくなっちゃうからね。今日のところはこの辺で良いにしとくよ。」
相変わらずの読心術である。
「配慮ありがとうね。」
だが助かったのも確かだ。
ここは気が変わらないうちに帰るとしよう。
「じゃあねー。」
凄い良い笑みで送り出された。
あの野郎絶対楽しんでやがる。
「本日もお疲れ様でした。」
帰り際に婦人と出会った。
正直私の両親の教育方針をバカにしたと聞いた辺りから敵意しか持っていないのだがそれはあくまでも私個人の意見だ。
ここは雇われ人としてしっかりと挨拶しなければ。
「有難うございます。また次回もよろしくお願いします。」
こんなもんで良いだろう。
(そういえば、とうやって名前について聞いてみようかしら。)
この婦人は朝輝君の話を一番詳しく聞いているはずだ。そして朝輝君が知らない事を知っている可能性が高い。
「一つ、聞いていいですか?」
少々リスキーだが真相を知りたいという気持ちには勝てない。と言う訳で私は【とうや】について質問してみる事にした。
「あら、なんでしょう?」
「とうや、と言う名前に心当たりはありませんか?」
少々声が震えたが緊張しているのだから仕方ない。
「知りませんねえ、」
残念、僅かな可能性も消えてしまった。
「そうですか、お時間ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。」
そうお辞儀して顔を上げた時私は驚いてしまった。
「っ!?」
婦人の顔が明らかに強張っていたのだ。それに冷や汗と思われる汗も出ている。
(これは・・・)
突っ込みたかったがややこしくなりそうなのでスルーする事にした。
(これで、とうやについて少なくともこのオバサンは何か知ってるってことが解ったわね。)
良い収穫と言うか良すぎるほどだ。
これは帰って情報を整理しなければならない。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
感想、レビュー等お待ちしております。
また次回も読んで頂けることを願いながら後書きとさせて頂きます。