少女アルバイトを始める
初投稿です。
色々と機能や使用について分からないなりにやっていきます。
どうぞ温かい目で見守ってやってください。
今思い返しても、この時の出来事がまるで現実のものと思うことが出来ない。
長い長い白昼夢だったのでは無いか、そう思えてならないのだ。
だがそれと同時に、あれが夢でないという確信めいた何かが私の胸の中にある。これはそんな不可思議な私の物語・・・
桜舞う春。私、及川和葉は新たな生活の拠点であるマンションの一室で電話を待っていた。
「あー・・・どうか受かってますようにっ!!」
私が何をこんなに祈ってるかと言うととあるアルバイトの採用通知の電話だ。
Prrrrrr・・・Prrrrr・・・
「きたっ!!」
獲物にとびかかる獣のように携帯電話をとり、電話にでる。
「はいっ、ありがとうございます。これからよろしくお願いしますっ!!」
結果は無事採用だった。春からのアルバイトは新大学生にとってとても重要な案件で、これを早いところ決めないとおちおちサークル活動も出来やしない。
「あー良かった、良かった。」
だから、私はこの時とても安堵していた。アルバイトが決まった事も勿論だが、その業務内容も私が望んだものだったからだ。
「高校受験を控えてる中学生の家庭教師かぁ。いやぁ懐かしいですなぁ・・」
そう、私のアルバイトとは中学生に対する家庭教師。このアルバイトは依頼主個人からの募集だったので時給も良く、勤務時間も大学の講義が入っても通い続けることの出来るまさに私にとって夢のような案件であった。
「私だって仮にも偏差値60超えの大学生だし?高校受験の勉強なんて余裕で教えられるでしょう・・・きっと。」
とまぁ、こんな感じで私のアルバイトは決まったのだった。
そして時は流れ、無事に入学式そして入学オリエンテーションを終えた私は部屋で一人緊張していた。
「はぁー、いよいよだなぁ・・・あぁ怖いなぁ。」
そんなこんなで緊張している私をよそに時間は流れるのだった。
ピンポーン、澄んだドアチャイムがより一層私の緊張を駆り立てる。その主たる原因がこの家の大きさである。
「何この大きさ公民館か何かなの?」
田舎から出てきたばかりの私は漸く都会というものに慣れ始めていたのにこの家・・・いや、この場合は屋敷とでも言うべきだろう。この大都会においてこれだけの土地を所有し尚且つ平屋・・・
「もしかして・・・いや、これだけの屋敷だもんもしかしなくてもお金持ちよね。」
そんな事を考えて居たら今時珍しい引き戸の玄関が開いた。
「どちらさんです?」
そう言って引き戸の向こうから現れたのは少々目元がキツメの中年女性だった。
「あっ、私この度家庭教師として訪ねさせて頂きました。及川和葉と申します。」
緊張がモロに出てしまい少し、いや大いに焦る。これだけお金持ちそうなら次の家庭教師など簡単に雇えるだろう。私などすぐに捨てることが出来るのだ。この思考通りの事をやりかねない。そう思わせるほどのキツさをこの女性は持っていた。
「あら、貴女が家庭教師の女性?ありがとうねこのアルバイト受けてくれて。」
ところが、その女性から返ってきた言葉は私の想像と真逆の優しい言葉だった。
「い、いえこちらこそ雇っていただき有難うございます。精一杯頑張らせていただきます。」
少々の安堵と大きな動揺をしながら私はそう言い深々とお辞儀をした。
「ええ、お願いね。」
そう言うとその婦人は私を屋敷の中に招き入れた。
「今から早速勉強を教えてもらうわけだけど、今日はお互い初対面ですし勉強よりも談笑でもしながら打ち解ける事に重点を置いてもらって構いませんよ。」
ととても柔らかい笑みで言われたので私は
「はいっ!!」
と勢いよく返事をして部屋へと向かった。
ガラッ!
「こんばんは。」
まだ夜と言うには早いがこんばんわと言って私は部屋に入った。
「ん?」
奥に扉を背に座っていた少年がこちらを振り向いた。
「こんばん―――」
言葉を失った。そこに座っていたのは白銀の髪色をしたとても美しい少年だった。
「ん?どうしたのおねーさん?」
「あっ、えっ!?」
そして入り口で棒立ちとなっていた私を心配したのか少年のほうから声をかけてきた。
「大丈夫ですか?ぼーっとしてましたけど?」
椅子から立ち上がりこちらに駆け寄って来る。そこでようやく私は正気に戻った。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫です。」
そう言うと少年は、
「そうですか、ビックリしましたよ。」
と言い、また座椅子に腰かけた。
「こんにちは初めまして、僕の名前は龍堂朝輝≪りゅうどうあさき》です。今日からよろしくお願いします。」
改めて、立ち上がり深々と礼をした。私は唖然としてまたしても言葉を失った。余りに綺麗すぎる。これが中学生のお辞儀かと思うほどに。
「あっ、こちらこそよろしくお願いします。私の名前は及川和葉です。今日より君の家庭教師を務めさせて頂きます。」
彼には及ばないが私も深くお辞儀をかえす。
「で、朝輝君。私は君に何の教化を教えれば良いのかな?」
まだその事について教えてもらってなかった私はその少年に問いかける。
「あぁ、その事だけどね。お姉さんは何を教えても良いんだって。」
と、予想していなかった答えが返って来る。
「えっ!?それってどういう―――」
疑問の言葉を紡ぎ終わる前に少年は口を開く。
「要するに適当に僕の相手をしててほしいって事じゃないの?」
驚くほど素っ気なく少年は呟いた。
「それじゃあ今日のところはこの辺で終わりで良いですよ。また明日からお願いしますね。」
そう言って私は屋敷から出て部屋に帰っていた。
それから数週間・・・私は相変わらず凹も凸もない日常を送っていた。ただ一つ家庭教師のアルバイトを除いては。
「へぇ、日本の大学ってそんなにヌルイ事してるんだね。」
「そ、そうねー。君からしたらちょっと簡単かもねー。」
「僕じゃなくても真面目に勉強してる人からしたら簡単な事だよ。」
この数週間私がこのアルバイトをして分かった事がある。まず一つ目私が家庭教師をすることになったこの少年、龍堂朝輝はとても性格が悪いということだ。具体的に言うならば世界の全てを見下したような態度、これに尽きる。それを可能にしているのは本人の圧倒的知識量と学力の二つである。彼は中学三年生にして既に東大レベルを凌駕する程の学力を持っているのだ。
「で、お姉さん今日の授業はもう終わり?」
「うーん、そうなるかしらねぇ・・」
そして二つ目、彼は所謂中学校というものに通っていない。一応義務教育なので月に一回ほど登校はしている様だが授業は受けていない。まぁ彼の学力ならそれも当然なのだが
学校に行かないのにはもう一つ大きな理由がある。
「はぁ、つまらない。やっぱり低レベルでも暴力の話の方が好きだな。」
「ごめんね、流石に大学じゃそんなことは起きないかなー。」
そうなのだ、彼龍堂朝輝はその華奢な体に似合わず暴力の絡む事件や出来事を好む。初めの頃は憧れでそういう類の話が好きなのだろうと思っていたがどうやら彼が中学に月一でしか通わないのは彼自身の暴力沙汰による長期特別謹慎なのだそうだ。
「じゃあまた今度。楽しみにしてるよ。」
そう言って彼は私を部屋から出した。
「またねー。」
一応軽い挨拶をして私も帰路につく。しかし、何度聞いても信じられないのが彼の暴力沙汰による謹慎である。
「あんなに細いのになぁ・・・。」
下手したら私より線の細い美少年である。そしてもう一つ下手したら私ですら勝てそうな少年である。
「本当にあの細さでどうやって・・・?」
中学生と言えば退学の恐怖が無い故に喧嘩やイジメ等が起きやすい環境である。私も現役時代何度も目にしてきたしその主犯格が毎日学校に来ていたことも知っている。それ故に不可思議なのである。
「特別謹慎って事は相当の悪事よね・・・それを彼が・・・気になるわ。」
ここ一週間そればかりが気になっていた。他人の過去しかもアルバイト先の一応自分の教え子であり年下の男の子の過去を暴くのは少し悪い気がするがそこはばれなきゃなんとやらだ。
「少し、調べてみるかな。」
こうして私の好奇心が動き出した。
お読みいただき有難うございました。
アドバイス等ありましたらお願いします。